表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
162/181

第百五十七話 最上さんがいい子すぎる件

 氷室さんとの密会を、最上さんに見られてしまった。

 どうして彼女と遭遇したのか。湾内さんの関与もある気がしてならないのだが、とにかく今は最上さんに理解してもらう方が優先である。


「――と、いうわけなんだ」


 氷室さんに真田の恋人になってほしいこと。

 最上さんが真田に執着されていることが不安なこと。

 真田の気を引くためにSNSでの発信などを試していたこと。

 氷室さんに正体を隠すために変装をしていたこと。


 などなど。

 経緯や目的など、しっかりと言語にした。


「だから……俺は、氷室さんに下心があって近づいているわけじゃない」


 長い長い説明の果てに。

 結局、一番に伝えたい事実はこれだ。


「前に、学校の屋上で告白した通りだ。俺の気持ちは、今も変わらない」


 ――俺が好きなのは、最上さんだけ。

 その気持ちが、伝わるだろうか。


 最上さんは今、きっと不安になっている。

 俺と氷室さんが一緒にいたことに、ショックを受けている。

 浮気された……とまでは思っていないかもしれない。


 ただ、裏切られたとは感じているだろう。


 俺は真田みたいに鈍感ではない。

 最上さんの気持ちは、なんとなく伝わっていた。


(もうこれ以上は、言い訳にしかならないな)


 言葉は尽くした。

 余計な発言は不要だろう。後は、最上さんに判断をゆだねるほかない。


「…………」


 彼女はずっと無言だった。

 静かに俺の言葉に耳を傾けていたので、今どんな感情なのかは分からない。


 薄暗いからなのか、あるいは月が雲に隠れたせいなのか……目も前髪に隠れてしまっているので、見えなくなっていた。


 それがさらに、不安をかきたてる。

 もしここで、彼女が俺への信頼感を失ったらどうなるんだろう。


 ……そんな仮定は、想定すらしたくない。

 答えは分かり切っている。最上さんに評価されない俺に、価値など存在しない。きっと、誰にも知られることなく表舞台から消えていく。


 最上さんを守ることはおろか、そばで見守ることもできなくなるだろう。

 そう考えると、やっぱり――心が痛くなって、ついもう一言だけ、言葉が零れた。


「ごめん。最上さんを、傷つけて」


 少し、言葉がかすれた。

 口の中が乾いているせいだろう。それくらい、緊張している。


 とにかく、不安で仕方ない……その時だった。


「――佐藤君」


 ようやく。最上さんが口を開いた。

 重々しい声音だったので、更に緊張感が強くなる。


 これは、もうダメかもしれない。

 関係性の破綻を感じさせるシリアスな雰囲気に、悪い未来を覚悟した。


 きっと、彼女は傷ついている。

 だから次の一言は、俺と彼女を決裂させるものになるかもしれない。


 そう思って、固唾を飲んで彼女の言葉を待った。

 ――待っていた、のに。






「……わたしを、ゆるしてっ」







「え」


 なぜ。

 悪いのは、俺だったはずなのだが。


「ご、ごめんなさいだなんて、そんなっ。佐藤君はわたしのために頑張ってくれてたのに、ちょっとだけ疑っちゃったの……こんなわたしを、許してください」


 あれ?

 そ、そうなる?


 どうやら俺は、最上さんの思考回路を理解できていなかったらしい。

 間違いなく俺が悪いのに、彼女はどうやら――自分を責めていたようだ。


「き、嫌いにならないで? 怖い顔しないで……うぅ、そうだったんだね。佐藤君は、ずっと頑張ってくれてたんだね。わたしに内緒で……あ、ありがとう。あと、ごめんなさい。わたし、全然気づかなくてっ」


 俺も不安だった。

 当然、最上さんも不安に思っていただろう。


 ただしその不安は、俺に裏切られたのではないか――という被害者的な立ち位置の感情だと予想していた。

 しかし、最上さんの不安は別のベクトルを向いている。


 俺を疑ったことの自省と、それにより俺の信頼を損ねたかもしれないということに対して、不安を感じているみたいだ。


「氷室さんを、好きになったのかなって……わたしが、告白から逃げちゃったから、呆れちゃったのかと思ったら、嫌われたと思っちゃったの。ごめんなさい――き、嫌いにならないでくれると、嬉しい……ですっ」


 い、いやいや!

 嫌いになるだなんて、それはありえない。


 むしろ俺が嫌われたと思っていたくらいなのに。

 本当に、最上さんは……相変わらず、いい子すぎる。


 自分が被害者になってなお、俺の気持ちに寄り添おうとしていた。

 と、とりあえず、嫌われたわけではないようなので……そのことに、安堵するのだった――。

お読みくださりありがとうございます!

もしよければ、ブックマークや評価をいただけると更新のモチベーションになります!

これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
果たして最上ちゃんは友達だと思ってたマジキチビッチギャル湾内が実は「自分を真田に生け贄として差し出す代わりにおこぼれを貰おう」としていることを知ってしまったらどうなってしまうやら。 下手しなくても人間…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ