第百五十三話 一途と盲従
俺は最上さんの味方でいることを決意した。
彼女がミスコンに出場しているところも見たかったが……しかし、諸々の事情を考慮したら、やっぱり出ない方がいいという結論に至ったのである。
そのことで湾内さんはぎゃーぎゃー喚いていた。
ただ、しばらく経って俺の態度が変わらないと気付いたのだろう。途端にふてくされて、拗ねた。
「ふんっ。もういい! 佐藤のばーか。覚えてなさいよ!」
「ザコキャラみたいな捨て台詞だな」
「うるさいっ。いつか絶対に、後悔させてやるんだからね!!」
「わ、湾内さん。またね」
「うん。風子、バイバイ。また明日ね~」
……俺と最上さんで態度が違うよな。
というか、今回の件も俺に文句を言うのはおかしい気がする。
湾内さんは最上さんに対して基本的に歯向かわない。強い者に弱く、弱い者に強いタイプだった。噛ませ犬のザコキャラ感が強すぎるだろ。
と、いうわけで。
校門で湾内さんとは別れて、ようやく最上さんと二人きりになれた。
「佐藤君、ごめんね。急に巻き込んじゃって」
「いや、気にするな。だいたいあの小娘が悪い」
二人きりになると、急に最上さんの歩くスピードが遅くなる。
恐らくは無意識なのだろう。会話に夢中だからか、前方の注意も散漫になってよく電柱にぶつかりそうになるので、そのあたりも気を付けながら俺もペースを落とした。
「あはは。美鈴ちゃんはいつも元気だよね」
「元気というか、どうだろうな。あれは何か良からぬことを企んでいる顔だったが」
「え? そうなの?」
相変わらず、謀略には鈍感だな。
湾内さんは快楽主義者に見えるが、決してそうではない。
彼女は面白いからやる、という意思決定はしない。
あくまで、自分にとって利害があるかどうか。それで物事を考えるタイプの小娘である。
「まぁ、最上さんに被害が出るようなことはしないと思うが。ああ見えて良識はあるし、最上さんに対しては好意的だからな」
ただし、彼女の好意が最上さんにとって最良になるかは分からない。
湾内さんにとって良いことでも、最上さんにとってそうであるとは限らないので、危うさがないと断言できないところが湾内さんの難しさである。
とはいえ、最上さんにとって湾内さんは良き友人であることは間違いないのだろう。
「うん。美鈴ちゃんは、わたしに悪いことはしないと思う。悪い人って感じはしないもん」
最上さんは、湾内さんに対して友好的だ。
それも当然だろう。二人の相性は、傍から見ていても悪くなさそうなのだ。
「わたしは口数が少ないから、美鈴ちゃんみたいにたくさんオシャベリしてくれるのは、すごく助かってて」
「余計なことまで言うこともありそうだな」
「そ、それは、ちょっとあるけどっ」
最上さんは大人しいが、会話が嫌いというわけではない。
湾内さんはうるさいくらい話すので、最上さんとの会話が永続するのだろう。
「でも、さすがにミスコンは……美鈴ちゃんには悪いけど、やっぱり厳しくて」
それで、彼女が難色を示していたら俺に白羽の矢が立ったわけか。
たしかに、俺なら最上さんを説得することはできただろう。
俺自身が危うさを感じるくらい、この子は俺に盲従する悪い癖がある。
その点については、俺も気を付けていた。
「まぁ、出場したら優勝くらいできただろうな」
「優勝……うーん、別に興味なんてないかなぁ」
他者の評価を最上さんは必要としていない。
だから、ミスコンというイベントに対しても後ろ向きなのだろう。
その理由は、単純だ。
「――わたしは、佐藤君にだけ見てもらえればいいから」
……たまに、不意打ちを仕掛けてくるな。
彼女は気付いているのだろうか。
その何気ない一言に、いちいち俺が喜んでいることに。
きっと、無意識なのだろう。
最上さんにとっては、当たり前の感情なのかもしれない。
だが、俺にとっては特別な言葉だった。
(やっぱり、真田ではダメだ。この子の幸せは――)
最上さんが最も幸せな人生を歩むために、必要な存在は真田ではない。
むしろ真田は、最上さんを苦しめる原因になり得る存在である。
だから、俺も覚悟を決めよう。
(氷室さんを真田とくっつけて、それからだな)
この子を、誰よりも幸せにする。
そのために、やるべきことをやっていこう。
そう、改めて決意するのだった――。
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