第百五十二話 『ミスコン』
どうやら、ミスコンというイベントがこの先に控えているらしい。
初耳だったので、湾内さんの言葉には少し驚いた。
学校から出た直後だが、足を止める。下校する生徒たちの邪魔にならないよう、道の端っこに移動した。
詳しく聞きたいと思ったので、少し立ち話をすることにした。
「ミスコンがあるのか?」
「あんた、知らないの? この学校のミスコンは有名じゃん」
「そうだったのか」
知らない設定である。
俺が知りうる限り、この漫画でそんな展開はない。ミスコンが開催される前に打ち切りになった。
「ほら。うちの学校って、可愛い子がたくさんいるでしょ。あたしとか」
「湾内さんはかわいかったのか。知らなかった」
「は? 体に分からせてやろうか?」
可愛さを力業で伝えようとするな。
しかし……うちの学校って、そういう設定があったんだな。
たしかに、言われてみるとかわいい女子は多いか。
「体育祭、文化祭、学校祭が三年に一度ずつ開催されるのよ。今年は学校祭の年で、三年に一度のミスコンも開催されるってわけ」
「ミスコンって、あれだよな。ミス・コンテスト。つまり、誰が一番魅力的か決めるコンテスト……で、いいのか?」
「それ以外に何があんの?」
まぁ、そうだよな。それ以外にあるわけないか。
なるほどね……ミスコンがある、ということは把握した。
その上で、先ほどから目立たないように無言で息をひそめている最上さんに、問おう。
「ミスコン、出たくないのか?」
「う、うん」
「これなのよ。ミスコンの話題になると、露骨に嫌そうにするのよね……でも、佐藤がお願いしたらどうせ出るでしょ? 早く命令しなさいよ」
「はわわっ。さ、佐藤君、ダメだからね……お、お願い。わたし、あんまり出たくないの。でも、佐藤君にお願いされたら、頷いちゃうから……!」
慌てた様子の最上さん。
だから、先ほどから急に黙り込んでしまったのだろう。
何せ、彼女は俺がお願いすると全てにおいて頷いてしまう。押しに弱い系の女の子なのだ。
「安心してくれ。無理に出ろなんて言わないから」
「え? 本当に!? よ、良かったぁ……佐藤君、ありがとうっ」
お願いしないことで感謝される、というのは不思議な感覚だが。
それはさておき。
ただ、ミスコンというイベントについてはさほど思い入れがないわけで。
むしろ、最上さんには……出ない方が逆に良いと、そう思ったくらいだ。
(このイベントは――氷室さんに優勝してもらうか)
この学校で一番の美女、という箔をつける絶好の機会だ。
そうすることで、真田からの評価も一気に上がることだろう。
そのためにも、最上さんの出場はむしろ阻止したい。
この子が出たら、間違いなく優勝してしまうからな。
「そういうことだから、美鈴ちゃん……ごめんね。わたし、出ないことにする」
「えー! なんで!? 風子がミスコンに出て優勝するところ、あんたは見たくないの!?」
安堵した様子の最上さんに対して、湾内さんは非常に不服そうだ。
俺に断られたことが気に入らないのだろう。さっきから肩を軽くパンチされている。肩パンするな。
「ミスコンでは、水着審査とかカラオケ大会もやるし、アピールタイムではスケベな衣装を着せてダンスとかさせられるのに、あんたは見たくないの!?」
「――水着、か」
流れが変わった。
最上さん。巨乳。水着。見たい。絶対。エッチ。
「最上さん」
「あ! ダメ!! これはお願いする流れだよねっ……さっきは出ないでいいって言ったもん! 佐藤君、お願いっ。わたし、人前でカラオケしたり、水着になったりできないよぉ」
……そ、それもそうか。
危ない危ない。自分の欲望にうっかり支配されそうだった。
彼女が嫌がっているのだ。無理強いはできない。
「湾内さん」
「は? 何を揺らいでいるのよ。素直になりなさい。風子の水着よ。み・ず・ぎ」
くっ。見たいな、それは。
めちゃくちゃ、見たい……!
と、揺らいでいるのが最上さんにも伝わったみたいだ。
「――佐藤君にだけなら見せてもいいよ? カラオケも、佐藤君なら一緒に行っても大丈夫。ふ、二人きりの時なら、何でもしていいから……ね?」
ん? 今、何でもって言ったよな?
あ。いや、待て。でもなぁ。人前で恥ずかしそうに水着を披露するところも見たいのだが。
悩む。どうしようかなと迷っていたら、湾内さんがダメ押しの一声をかけてくれた。
「じゃあ、あたしも水着を見せるから!」
いや。別にそれはいいや。
湾内さんの水着には心底興味がなかったので、天秤は一気に最上さんに傾いた。
「すまないな。湾内さん、俺は最上さんの味方だ」
「やったー!」
「……おい。あたしの水着は? なんで見せるって言ったのに無視してるの!?」
君の水着で最上さんに勝てるわけがないだろ。
残念だったな。自分を過大評価しすぎである――。
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