第百四十八話 バッドエンド後の未来
そんなこんなで。
俺がロリコンだという誤解もなくなって、最上さんとさやちゃんもある程度仲良くなったところで。
「さようなら、お兄さま」
「うん、またね」
さやちゃんの門限が迫っていたので、本日は解散となった。
ちなみに、この子の門限は17時である。真田の厳しい監視下におかれているが、抵抗するともっとややこしくなるので、大人しく従うほかないようだ。
「バイバイ、さやさん」
「はい。バイバイです……風子ちゃん」
と、最後に小さく最上さんに手を振ってから、さやちゃんは小走りで帰った。
門限に間に合わせるため急いでいるのだろう。ランドセルが上下に揺れていて走りにくそうだった。
そんな、小さな背中を見送った後。
「……えへへ。名前で呼ばれちゃった♪」
隣の最上さんが、嬉しそうにつぶやいた。
そういえば、さやちゃんが他人の名前を呼ぶのは珍しいな。俺ですら『お兄さま』と呼ばれている。その他、大抵の人物はあえてフルネームで呼称していたなぁ。
他人に対して警戒心が強いからだろう。名前を呼ぶということは、親しさの証明でもある。
そう考えると、最上さんはさやちゃんに受け入れられたと思っていいな。
「『風子ちゃん』か……あれだな。同級生の友達に近そうな感覚だな」
「佐藤君は『お兄さま』だもんね」
「だから、最上さんは『お姉さま』になるのかと思ったが」
予想は外れた。
年上が全て、兄や姉になるわけではないのか。
「まぁ、さやさんは落ち着いているから、わたしと精神年齢は近いかも?」
「……最上さんの呼び方も『さやさん』だしな」
年下として接している感じはない。
俺よりも近い目線に、最上さんはいるように見える。
「なんとなく、あの子は子供とは思えなくて」
「実際、そうだな。普通の子供とは思わないほうがいい」
大人びている、という表現は少し違う。
良い意味での精神的な成熟ではない。子供らしく振舞うことが害になる環境にいるからこその態度だと思う。
両親は信頼しているみたいだが、現状は離れ離れで住んでいるわけで。
しかも、唯一の肉親は天敵だ。誰も守ってくれる人間がいなかったから、彼女は自分自身の感情を押し殺すことで、耐えるほかなかった。
その結果、子供ながらに達観した人格が生まれたのだろう。
「――佐藤君が、気にかけている理由も分かったよ」
やっぱり、最上さんならそうだよな。
最初はロリコンだと疑われていたが、そんな簡単な事情ではないことを理解してくれていた。
「心配だね」
「うん。あの子を守る大人が、周囲にいない」
本来であれば、真田がその立ち位置にいなければならないのに。
しかしあいつは、他人への思いやりを持てないタイプの人間だ。
愛される才能はあるかもしれない。だが、代償として愛する才能がまったくない。
その被害者が、さやちゃんである。
そして、この子を見ていると――悪い妄想をすることがある。
(もし、真田と最上さんが結ばれたら……最上さんは、さやちゃん以上に苦しむことになるのでは?)
仮に、俺が失敗したとしよう。
あらゆる物事が真田の都合が良いように動いて、最上さんとあいつが恋人になったなら。
その場合、さやちゃんの立ち位置に、最上さんがいる気がしてならないのだ。
つまり俺は、さやちゃんと最上さんを重ねて見ているのかもしれない。
だから、放っておけない。少しでいいから、さやちゃんの助けになりたいと思ってしまう。
最上さんが、真田の一方的に押し付けるばかりの愛情によって、苦しむことになる可能性がある。
そんなバッドエンドを想像すると、やっぱりさやちゃんを見過ごすことができないのだ。
「……最上さんも、少し気にかけてくれると嬉しいよ。俺には言いにくいことでも、君が相手なら言えることも多いかもしれない」
だから彼女を連れてきた、という理由もあった。
「うんっ。わたしも、微力ながらお手伝いするね」
「ありがとう。あの子はいつか、絶対に家出をする……その時に俺の家に来ると言っていたが、最上さんの家で預かってあげてくれよ。さすがに、あの年齢の女の子が友達とは、両親に説明できない」
「た、たしかにっ」
よし。これで、さやちゃんの家出先も確保できた。
いざというときには、最上さんに頼ることができるだろう。
あと、ロリコンという疑いも晴れてよかった。
(俺の性癖は君だからな)
モブ子ちゃんフェチなので、そこは勘違いしないでほしいものである――。
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