第百四十四話 幼女面接
喫茶店にて。
さやちゃんと最上さんが対面して座っていた。
ちなみに俺は、さやちゃんの隣に座らされている。最上さんの隣はまだ許可できないらしく、さやちゃんに手を引っ張られた。
まさしく、面接の構図である。
さやちゃんもそのつもりなのだろう。ランドセルからノートと筆箱を取り出して机に広げていた。何を記入するんだろうか。
ただ、面接官の方は床に足が届いていなくてかわいいし、面接者はさっきから挙動不審でかわいい。うん、まぁ悪くないイベントだな。目に優しかった。
俺が仲裁に入ったら、もっとスムーズに二人の橋渡しができることは分かっている。
しかし、正直なところちょっと面白かったので、あえてこの流れに身を任せることにした。
「それでは、改めて自己紹介をお願いします」
「ひゃいっ。も、最上風子です!」
「身長と体重もお願いします」
「身長は148センチで、体重は――い、言わないとダメでしゅかっ」
「……そうですね。お兄さまの前だと言いにくいと思うので、バストのサイズで良いですよ」
「――そ、それは、えっと、平均より少し大きめというか」
「そっちも、ちょっと……あのっ」
「Gカップだぞ。さやちゃん、最上さんはGカップだ」
「なんで言っちゃうの!? さ、佐藤君が言わないでっ」
おっと。歯切れの悪い回答に我慢できず、つい口走ってしまった。
さやちゃんは最上さんの胸元をジッと見て、それから自分の胸元に視線を移した。
「じーかっぷ……何を食べたらそんなに大きくなりますか?」
「え? 何をって、うーん」
「答えなければ不合格にします」
「っ!?!?!? と、鶏肉! 鶏肉はいっぱい食べてますっ」
「なるほど。参考にしたいと思います」
へー。鶏肉って、成長を促すのか。
さやちゃんは小さいので、もう少し食べた方がいいな。
……あ、いや。この流れだと、サイズの話だと勘違いされるな。さすがに小学生相手にそんなこと気にしないので安心してほしい。
俺が言っているのは『体格』の話である。さやちゃんはたぶん、真田のせいで食生活がやや不安定に見える。そのせいか体格が小さいのだ……今度、少し食事についても気を付けるように促してみようかな。
なんてことを考えながらも、面接は続いていた。
「趣味と特技を教えてください」
「趣味は、読書で……特技はあんまりない、かなぁ」
「あんまりないのですか? ないのなら、不合格にしますが」
「え!?」
厳しい面接官だった。
まぁ、面接で曖昧な回答はマイナス評価になるか。
「特技は……お、お花に水をあげることですっ!!」
「ふむふむ。分かりました、良いでしょう」
その回答でいいんだ。
さやちゃんはノートに何やら記入していた。覗いてみると、かわいらしい丸文字で『もがみふうこさん。じーかっぷ』と書かれていた。今のところ、それが一番印象に残っているらしい。特技を聞いた意味はどこにいったんだろう。
「どうしてお兄さまのお友達になりたいのか教えてください」
そして質問内容は、志望動機へと移る。
もうすでに友達なのだが……ただ、さやちゃんが真剣なので、俺から口を出しにくいな。
最上さんも、さやちゃんにつられているのか真面目に面接に取り組んでいた。
「す、素敵な男の子なので、お友達になりたいです」
「具体的には、どのようなところがですか?」
「――わたしを見捨てないところ、です。認めてくれて、受け入れてくれて、ずっと見てくれる……だから、お友達でいられると、とても幸せになれます」
も、最上さん……!
すごく嬉しいことを言ってくれていた。
幸せだなんて、とんでもない。俺の方こそ、幸せをもらっているのでお互い様である。
と、気持ちを伝えたいところだが。
しかし、俺よりも早くさやちゃんが言葉を発したので、タイミングを逃した。
「分かります。お兄さまは余裕があるので、相手が誰であろうと尊重してくれますよね。丁寧で、物腰が落ち着いていて、言葉にも説得力があります。そういうところが、さやはとても大好きです」
さ、さやちゃんまで……!
俺は幸せ者だった。二人に嬉しいことを言われて、悪い気分はしない。
だが、うん。
ちょっと恥ずかしいな。
照れてきたので、そろそろ俺が間に入って二人を仲裁する頃合いかもしれない。
さやちゃんも少し態度が緩和した気がするし、最上さんの緊張も弱まりつつある気がしたので、もう大丈夫だろう。
と、思ったのだが。
しかし……さやちゃんの表情が、再度引き締まったのが見えた。
まだ、聞きたいことがある。
そんな表情に見えたので、俺は何も言わずにあえて待ってみた。
すると、さやちゃんが一言。
「――真田才賀という人間を、あなたはどう思いますか?」
……ああ、そういうことか。
いきなり面接が始まった理由は、恐らくこれだ。
さやちゃんには、一つだけどうしても譲れないことがある。
彼女の価値基準は、悪い意味で真田が中心にいるのだ。
もし、最上さんが少しでも真田に好意を持っているなら。
さやちゃんはきっと、最上さんがどんな人間であろうと受け入れられないのだから――。
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