第百四十三話 真の人見知りは子供相手だろうと関係ないんだよね
放課後。
いつもの喫茶店に到着すると、さやちゃんが出迎えてくれた。
「あ、お兄さま♪」
席を立って、わざわざこちらに歩み寄ってこようとするさやちゃん。
ただ、無邪気な笑顔は一瞬のこと。
「……どなたでしょうか」
俺の隣にいる最上さんを見て、彼女は急に足を止めた。
こちらから一定の距離を取っている。警戒するように、最上さんをジッと見ている。
「コ、コニチハッ」
一方、最上さんは緊張していた。
嘘だろ。相手は小学生なのに……惜しみなく人見知りを発揮していた。
まずいな、これは。
「はぁ……どうも」
さやちゃんは怪訝そうな表情で最上さんを見ている。
そういえば、最初に出会った時は俺にもこんな顔をしていた。俺の場合は防犯ブザーを構えていたので、比較するとマシな状況と言えるかもしれない。
「さやちゃん、急にごめん。ほら、前に紹介したい人がいるって言ったんだが、覚えてるか?」
「……それが、その方でしょうか」
「うん。最上さんだ」
「ど、どうもっ。みょがみでしゅ!」
「落ち着け、最上さん。何を言っているか全然分からない」
緊張はまったく緩まない。
恐らく、最上さんはさやちゃんが歓迎していないことを察している。
小学生女児の胡乱な視線に耐えきれずに、目をそらしていた。
よ、弱い……最上さんが弱すぎる。
まさか小学生を相手に怯えるとは思わなかった。
「――お兄さまのお友達ですよね?」
「うん。だから怖がらなくていいよ」
「怖がっているのはそちらだと思いますが」
その通りである。
さやちゃんも、怖がられてあまり良い気分ではないのだろう。表情が先程から強張ったままだ。
「うーむ。お兄さまのお友達でなければ、酷評してしまうところでした」
「ほどほどにしてあげてくれ。最上さんはメンタルよわよわなんだ」
「そうですか。では、なぜこの方がいるのか教えてもらっていいですか?」
……やっぱり、さやちゃんって特殊なキャラクターだな。
なぜそう感じたかというと、最上さんに対して一切の忖度がないのだ。
覚醒後の最上さんは、誰と会っても初見で一定の評価を受けていた。
だが、この子はフラットだ。第一印象で評価を下さない。
外見ではなく、中身を見ようとしている。
変に見てくれの良い真田に苦しんでいるせいだろうか。性格を重視しているように感じた。
「最上さんがさやちゃんに会いたかったらしくて、連れてきた」
「……なぜさやに会いたかったのでしょうか」
「あ、あの、その、佐藤君の好みを、知ろうと思いまして……」
幼女相手に臆して敬語になっている最上さん。
言葉もしどろもどろである。緊張のせいで思考もぐちゃぐちゃなのか、理由が不鮮明だ。
これでは、さやちゃんも理解不能だろう。
最上さんも言った後でそれに気付いたのか、慌てて説明を加えた。
「佐藤君が、さやさんのことをかわいいと言ってまして!」
「――えへへ♪ そんな、お兄さまったら……もうっ」
いや、別にそんなこと言ってないのに。
もちろんかわいいとは思っている。ただ、それを大々的に公言していたら本当にロリコンみたいなので、言うわけがない。
しかし……最上さんの一言によって、さやちゃんが照れた。おかげで空気が緩んだので、結果オーライかもしれない。
「ふむふむ。ひとまず、お兄さまに免じて一次試験は通過ということにしておきます。少しだけ不信感はありますが、悪い人ではなさそうなので、さやとの面接を許可しましょう」
「――ありがとうございます!」
「いやいや。どういう流れなんだ……」
あと、さやちゃんがなぜか最上さんを試験していることになっていて、戸惑った。
最上さんも就職試験を受けるようなノリになっている。
「ただし、さやは人を選ぶタイプの気難しい子供です。覚悟してくださいね」
「ひゃいっ」
「合格したあかつきには、お兄さまの友人として認めたいと思います。さやの公認を勝ち取るためにがんばってください」
「え!? 公認……が、がんばります!」
こちらも初耳だった。
俺の友人になるためには、さやちゃんの面接に合格する必要があったらしい。
軽く紹介するだけのつもりだったのになぁ。
さやちゃんと最上さんが出会うと、どうなるか分からなかったのだが。
予想通り、予想がつかない展開になっていた――。
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