第百四十二話 ランドセルならあるよ!
まずい状況になった。
真田のせいで、最上さんにロリコンだと疑われている。
「最上。こいつには気をつけろよ……最低の奴だからな!」
そして、ここぞとばかりに真田が俺の悪印象を植え付けようとしていて、ちょっとムカついた。
なんだこいつ。やっぱりクズ主人公だな。
こんな性格だから、さやちゃんにも毛嫌いされるのだ。
「……最低ではないよ。佐藤君は、立派な人だから」
ただ、真田とは違って最上さんは天使である。
人の悪口を言う人間を彼女が好むわけがない。分かりやすく機嫌を損ねていて、表情もムスッとしていた。
鈍感な真田でも、その変化にはさすがに気づいたらしい。
ただ、訂正して素直になれるほど、こいつはまともな人間ではない。
加えて、妹のことになると極端に視野が狭くなる悪質なシスコンなので。
「お、俺は悪くない! 悪いのは、ロリコンのこいつだからな……俺の妹に手を出すな、ばーか!!」
そうやって子供みたいな悪口を言ってから、あいつは逃げていった。
最上さんの前でも、かっこつける余裕はできなかったらしい。さやちゃんのことでなければ、もう少し取り繕っていたかもしれないが……今の真田は、カッコ悪かった。
「ふーん。真田君って、ああいう人間なんだね」
「どうも、妹のことになると性格が悪くなるみたいだぞ」
「……まぁいいや。あの人のことよりも――佐藤君って、ロリコンさんなの?」
真田の話題はそこそこに。
あいつのことなんてどうでもいいと言わんばかりに、最上さんは話題を戻した。
「違うぞ。真田の態度を見ればわかると思うが、あいつが俺をそう決めつけているだけだ」
「で、でも、真田君の妹さんに手を出しているって……」
「手を出しているわけじゃなくてな」
うーん。説明が長くなりそうだ。
昼休みも始まっているので、とりあえず弁当を持って中庭に向かいつつ、さやちゃんについて経緯を説明した。
「喫茶店で出会って……へー、真田君はシスコンさんで、妹さんがすごく困ってて――ふむふむ」
色々と端折りながらも、大まかな説明がすんだころには、弁当も食べ終わっていた。
「そういえば、最近は早く帰宅する時もあったよね。なるほど、そういうことだったんだ」
一応、俺の正当性も最上さんは理解してくれたらしい。
しかし、少し納得できていないのか、表情が芳しいわけではなかった。
「……で、でも、ロリコンさんではあるの?」
「なぜそうなった」
否定したつもりだったのに。
最上さんは、珍しく疑り深い。
というか、これは……悔しそう?
「――言ってくれたら、わたしも合わせてたのに」
「あ、合わせるって、何をだ?」
「ロリコンさんなら、そういう風にしたってこと! ツインテールにもするし、そういうファッションもできるよ? あ、ランドセルもまだ保管しているからね?」
「……違うんだって」
なるほど、分かった。
最上さんは、俺に性癖を隠されたと思っているのかもしれない。
秘密になんてしなくてもいい、となぜか説得されていた。
最上さんは優しい。相手に寄り添ういい子である。
だからこそ、この件については『俺が言いにくいから言えなかった』と思い込んでいるように感じた。
「大丈夫! わたしは、どんな佐藤君でも受け入れるよ……何があっても味方だから、ね?」
その言葉は、できればもっと俺が苦境に立たされている時に言ってほしかった。
すごくいいセリフなのに、使いどころを間違えすぎている。
どう説明するべきか。
いや、俺の言葉だと最上さんに届かないな……彼女はもう、俺がロリコンだと認識してしまっている。
だから、仕方ない。
「――放課後、さやちゃんに会ってみるか?」
「それって、いいの?」
「……正直、分からん。気難しくて、好き嫌いがハッキリしている子だからな」
実は今まで、何度か最上さんを紹介しようと考えたことがある。
ただ、さやちゃんがまったく乗り気ではなかったのだ。あの子、俺以外にまったく興味がないんだよなぁ。
だから、二人が出会ってどうなるかはちょっとよく分からない。
「できれば、会ってみたいなぁ。佐藤君の好みは、知っておきたいかも」
ただ、すっかり俺をロリコンだと思い込んでいる彼女を説得するには、さやちゃんの協力も必要だろう。
と、いうわけで。
放課後に、さやちゃんと最上さんを会わせることになった。
はたして、どんな化学反応が起きるのだろうか――。
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