第百四十一話 実は幼馴染が裏垢女子だった……!?
こうして、氷室さんのインフルエンサーへの道は断たれた。
しかし、その代わりに彼女は裏垢女子という属性を手に入れた。
あるいは、インフルエンサーという肩書きよりも『裏垢女子』という属性は強いかもしれない。
もともと、なぜ彼女をインフルエンサーにしたかったかというと……数字という権威を手に入れ、視覚的に分かりやすい『魅力』を付与することで、彼女の特別性を強化するためだ。
その点で考えると、裏垢女子でも結果は同じだ。
……いや、同じどころか、インフルエンサーよりも魅力的な属性とも言えるだろう。
何せ、氷室さんの普段とギャップが大きい。まったく異性に媚びない完璧な女子なのに、裏では承認欲求不満の媚び媚び女子に変貌するなんて、まるで成人向け漫画のヒロインだ。
この方向性が、間違いなく良い作用をもたらすだろう。
少なくとも、真田才賀という下劣でスケベな人間は、裏垢女子が大好きだ。
『実は幼馴染が裏垢女子だった……!?』
という展開は、まさしくラブコメらしいとも言えた。
そういうわけなので――俺は、お役御免である。
(もう、動画編集もしなくて良いか……あ、でもさやちゃんにはお礼を言わないとなぁ)
お昼休み。ふと頭に思い浮かんだのは、幼女師匠について。
SNSについては彼女に色々とアドバイスをもらっていた。結果的にはその助言を活かすことはできなかったとはいえ、協力してもらっていたので、顛末を伝えておく必要があるだろう。
まぁ、さやちゃんは氷室さんに興味がなさそうだが……と、あの子について考えていたせいだろうか。
最上さんと一緒に昼食を食べようとA組の教室に向かっていたら、途中であいつと遭遇してしまった。
「――ロリコンじゃねぇか」
「ロリコンじゃないが」
すっかり険悪になったなぁ。
遭遇するなり罵倒してきた真田才賀に、つい顔をしかめてしまった。
さやちゃんのことを考えていたら、その兄を引き寄せてしまったらしい。
こいつ、俺がさやちゃんに慕われていると知ってから、会うたびにこうやって怪訝そうにするんだよな。
鬱陶しい。でも、ちゃんと応対しないとさやちゃんに被害が及びそうなので、仕方なく足を止めた。
「さやはまだ十歳だぞ?」
「いや、まるで俺が手を出しているみたいな物言いはやめてくれ」
「手を出しているだろ……お、お兄さまとか呼ばせるプレイとかしやがって! うらやま――じゃない。ムカつくんだよ!!」
「プレイとか言うな」
その表現が変に生々しくするだろ。
というか、お前が兄として至らないからさやちゃんの情操が歪んでしまっているのだ。まともな大人として、健やかに育ってもらうためにも、やはり見過ごすことはできない。
と、二人で睨み合っていた時だった。
「ロリコンめ!」
「違う。訂正しろ」
「……さ、佐藤君ってロリコンさんなの?」
「だから、違うと……ん?」
真田の罵倒の後。
急に入ってきた柔らかい声は、明らかに彼女のものだった。
珍しいな。真田がいる時に、話しかけてくるなんて。
「佐藤君って、そっちだったの……!?」
「いや、違う。最上さん……そっちとかじゃなくて」
声の方向に視線を向けると、そこにはやっぱり最上さんがいた。
今日も最高のメカクレ巨乳女子である。前髪の隙間から俺を見つめる彼女の表情は、驚きに満ち溢れている。
「最上、騙されるな。こいつはロリコンだぞっ」
「ひっ」
相変わらず、真田に話しかけるのは苦手そうにしている。
聞くところによると、教室ではなるべく真田を避けていると最上さんは言っていた。だから真田と話していたら、彼女から首を突っ込んでくるとは思っていなかったのである。
いったいどんな心変わりなのか。
「聞いてくれ! この男は、俺の十歳の妹に手を出しているんだよ!!」
そして、真田よ。
お前は少し黙れ。
最上さんが勘違いしているだろうが……!
「本当に!? 佐藤君……なんで、わたしに言ってくれなかったのっ」
「だって、違うからな」
言うも何も、事実無根なので言えるわけがない。
だって俺はロリコンではないのだ。真田が勝手にそう決めつけているだけだが、最上さんは動揺しているのか、俺の言葉を聞いてくれなかった――。
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