第百三十八話 G=主人公
もし、裏垢が身バレしてしまったら、どうすればいいのか。
SNSが当たり前の世代に生きているさやちゃんが、その対処法について教えてくれた。
「さやから言えることは『絶対に認めないこと』ですね。似ている人なんてたくさんいますから、自分ではないと言い張るべきだと思います」
「……そういえば芸能人とかも、都合の悪い投稿をしたら『乗っ取られていた』ってよく言うな」
「実際、そういったこともあるそうですね。まぁ、セキュリティ意識が弱いことの方がさやは問題だと思いますが」
そして、実際に乗っ取られていたことが本当なのかどうか、という疑念も多くの人間が抱いているだろうが。
ともあれ、たしかに『絶対に認めない』ということは、一つの解決策と考えていいのかもしれない。
「さやも、兄からアカウントのことを指摘されたら『絶対に違う』で押し通すと決めていますよ」
「……さやちゃんは、真田には絶対バレたくないんだな」
「はい。もしバレたら、家出してお兄さまの家に住みますね」
「へ、部屋が余ってないんだ。すまない」
「大丈夫です。お兄さまなら、同じお部屋でも問題ありません」
君が良くても、世間の常識的に良くないんだよなぁ。
まぁ、そのことについては後々に考えるとして。
(認めなければいいわけか……それなら、氷室さんのやり方が正解だったということだ)
どうやら、彼女のやり方は間違っていなかったらしい。
さすが、頭脳明晰だ。あの状況でも慌てずに冷静だったし、俺よりも遙かにスペックが高い。やはり、変に手を出さなくて良かった……彼女は最善のやり方で、リスクをうまく回避していたようだ。
「まさか、他人にバレることになるなんて」
「いかがわしいアカウントのリスクですね。承認欲求は時に人を狂わせます」
「……前から思ってたけど、さやちゃんって難しい言葉を知っているね」
「えへっ。そんな、お兄さまったら……褒めても愛情しか出ませんよ?」
「いや。褒めているというか、事実というか」
実際問題、この子は受け答えがしっかりしている。
話し方がやや舌足らずではあるが、語彙も豊富だ。
「両親の影響だと思います。二人とも、話し方が丁寧な人なので。あと、兄がカスカスなので、自分でしっかりと生きていかなければならない、という強い心が自立心を養いました。その点では兄に感謝です。あの人の役割はもう終わったので、さやの視界から消えていなくなればいいと思います」
「――感謝なんて、とんでもない。さやは俺の大切な妹だから、当然だよ」
おい。どこから現れた。
「ぎゃぁあああああああああ!? で、出た!! お兄さま、あいつが出ましたっ」
さやちゃんもGが出たみたいな反応をしていた。
それくらい突然、音もなく……さやちゃんの背後に――真田才賀が現れたのだ。
「家に帰ったらまだいなかったから、迎えに来たんだ」
「頼んでいません。さやがどこに行こうとあなたに関係ありません」
「あはは。照れてないで、そろそろ行くぞ。こんな男に惑わされたらダメだからな。さ、さと……さとかわ? こいつはロリコンだぞ。危険な奴だから、離れなさい」
「さやにとって、あなた以上に危険な人間はこの世に存在しませんっ。悪霊退散……悪霊退散!!」
名前が未だに認識されていないのはともかく。
いや、こいつはもしかしたら覚えている上で、わざと俺を嘲笑したくて間違えているのか?
まぁ、どっちでもいいか。真田に対しては怒りとかそういう感情すら沸かないので、どうでも良い。
ただ、さやちゃんが十字を切っているのは面白かったので、そっちに目がいった。
Gとは、ゴーストの方なのか。あるいは、ごきぶr……いや、単語だけで不快になる人もいると思うので、自重しておこう。
「あ、そうだ――さやは今、記憶を失いました。あなたは誰ですか? 知らない人なので、どこかに消え失せてください」
「はいはい。じゃあ、帰るぞ」
「やだっ。やだやだやだ! お兄さま、たすけてっ」
記憶を失っているという設定はどこへやら。
俺のことは都合良く覚えていたらしいさやちゃんは、真田に手を引っ張られて泣きべそをかいていた。
……ごめん。そろそろ氷室さんとの約束の時間も迫っているので、解散だ。ミルフィーユも食べ終えているし、問題ないだろう。
「またね、さやちゃん」
「うるせぇ! 俺の妹に色目を使うな!!」
「お兄さま……さやは絶対に、戻ってきます。それまで、待っていてください。これは試練です。この悪魔を討伐して、本当の自由を手に入れてみせますっ」
……意外と、さやちゃんも面白い子なんだよなぁ。
真田の妹なだけあって、なかなか性格がユニークだった――。
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