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第十三話 モブヒロインのメカクレ属性の所説

「いらっしゃい。予約してた最上風子ちゃんかい?」


 美容室に入ると、出迎えてくれたのはデニムパンツがよく似合う、スラっとした女性だった。

 身長は高いし、スタイルは細くて、モデルみたいな人である。髪型も赤とか青とかのメッシュが入っていて、すごくオシャレな感じが漂っていた。


 そんな美容師さんに圧を感じたのだろう。


「ひゃ、ひゃいっ」


 最上さんはすっかり緊張していた。

 返事も上ずっている。いちいち反応が面白いというか、かわいいなぁ。


「高校生かな。初々しいねぇ……よろしく。で、そっちの男子は彼氏かい?」


「か、彼氏!?」


 最上さんが更に混乱している。

 まぁ、同伴している男性がいたら、そう思うのが自然だろう。


 ……友人と説明してもいいのだが、関係性を詮索されると最上さんが返事に困るかもしれない。

 それなら、そういうことにしてもいいか。


「はい。付き合ってまだ一ヵ月です」


「ちょっ、佐藤君!?」


「ふふ。そうかい、そっちも初々しくてお姉さんは嬉しいよ。ほら、こっちにおいで……カットしてあげるから」


 美容師のお姉さんは、俺たちに対してなんだか好意的だ。

 最上さんが緊張していることも、大して気にしていないように見える。


 そんなわけで、最上さんは席に案内された。

 俺もその後ろをついていくと、お姉さんは不思議そうにこちらを振り返った。


「彼氏君はあっちの待機スペースで休まなくていいのかい?」


「はい。どんな髪型になるのか、すっごく興味があって」


「なるほど。恋人の髪型だからね、当たり前か」


「はい。恋人なので」


「こ、恋人……!」


 まぁ、実際には違うのだが。

 しかし、最上さんは緊張してオシャベリができないことを不安に思っていたので、俺は近くにいた方がいいだろう。だから、彼氏という立場はちょうどいい。隣にいても不自然ではないからだ。


「じゃあ、彼氏君はこっちの椅子に座っていいよ」


「ありがとうございます」


 本当は従業員用なのかな。最上さんと美容師さんの後方に置かれていた椅子に座った。ここからなら、最上さんの前に設置された鏡越しに俺が見える。ちょうどいい位置だ。


「長さはどうする?」


「こ、これくらいでっ」


「髪型は? 雑誌とか見て決めるかい?」


「え、えっと、あの……」


 ほら。早速最上さんが言葉に詰まっていたので、すかさず俺が会話に加わった。


「――お姉さんが凄腕だって聞いて、予約したんです。長さだけ指定するので、あとはおまかせにしてもいいですか?」


「凄腕、ね。まぁ、任せてもいいよ。私は失敗しないからね」


 おお。かっこいい。

 自分の腕に誇りと自信があるのだろう。力強い言葉は、すごく安心できるものだった。


「ただ、気になるところがあったら遠慮なく言ってね。お姉さんは頑固じゃないから、最上ちゃんの嫌がることはしないよ」


 それでいて、懐が大きい。

 来る前に心配していたような、頑固親父気質ではない。こちらの言うことにも耳を傾けてくれる、優しいタイプのお姉さんで良かった。


「ふふっ。腕が鳴るね……私、高校生の髪の毛ってすごく好きなんだ。まだ何色にも染まっていないこの艶質――素材が良いが故に、活かすも殺すも美容師次第だからね」


 そう言いながら、お姉さんは最上さんの髪の毛を軽く触っている。

 手つきがもうプロだった。質感とかを確認しているのかなぁ。


「最上ちゃんはこういうところに来るのは初めてでしょ?」


「はいっ。わたし、その、いつもは自分で切ってて……」


「そんな感じがするね。よく来てくれたよ、本当に。おかげですごく、やりがいがある」


「その、佐藤君が、電話してくれたんです」


「へー。彼氏君、よくやったよ。私にこの素材を提供してくれてありがとう」


 いや、提供したわけではないんだけど。

 ともあれ、お姉さんがやる気を出しているなら良かった。


 この調子ならお任せしても最高の仕上がりになりそうだ……と、思ったところで。


 一つ、俺たちは大事なことを確認し忘れていたことを、お姉さんが教えてくれた。





「――前髪はどうする?」





 あ、そうだ。

 事前に決めていたのは、だいたいの長さだけだった。


 前髪にかんしては、最上さんと何も話していない。


(メカクレ属性が好きすぎて、前髪は切らないと思い込んでしまっていた……!?)


 俺としては、前髪を切るなんてありえない。

 だから、当初からそんなこと想定もしていなかった。


 しかし、今の最上さんは前髪がすごく長い。

 目が完全に隠れる長さである。普通なら、カットするべきなのだろう。


 それに、普段は隠れてこそいるが……最上さんには、大きな武器がもう一つある。


「お。最上ちゃん、目がすっごく綺麗だね……前髪は短めにして、ちゃんと目が見えた方がいいよ」


 そうなのだ。

 最上さんは、目が魅力的である。


 チラッと見えただけで、俺が好きになったレベルの破壊力なのだ。

 だからこそ、迷う。


(真田にアピールするためには、切った方がいいのか?)


 俺の好みを考慮せず、真田に選ばれることを優先するなら。

 メカクレ属性は、なくてもいいのかもしれない――。


お読みくださりありがとうございます!

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これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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