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第百三十三話 説教して気持ち良くなるタイプ

 そういえば、氷室さんはいつも淡々としている。

 頭脳明晰。運動神経抜群。容姿端麗。欠点のないことだけが欠点の、完璧系ヒロイン……というステータス表記そのものが、ある意味では彼女の欠陥なのかもしれない。


「日向はかわいげがないのよね~。あたしってほら、ムカつくけど力で屈服させられるタイプじゃん? 口だけでメンタルよわよわだから、悟がその気になればあたしなんて余裕でギャン泣きしちゃう。そういうところが、あたしの魅力でしょ?」


「自覚があるのはかわいくないな」


 ふと空を見上げると、夕日がほとんど沈んでいた。

 もう夜だ。そろそろ帰宅したいところだが、湾内さんはまだ語り足りないと言わんばかりに土手に座り込んでいる。


 これが男同士とかであれば、青春の一ページなのだが。

 あるいは、最上さんとか普通の女の子が相手なら、甘酸っぱい雰囲気も出ることだろう。

 しかし、相手はナマイキなメスガキの腹黒少女。青春の空気感なんてまったく出ないのが残念だった。


「でも、事実じゃん。才賀だってあたしに説教してるときはすごく気持ちよさそうだからねっ。やっぱり、主従関係が明確な方が男の子って嬉しいのかなーって」


「……俺をあのタイプと一緒にしないでくれ」


 そして、違うとも否定できないことが残念だった。


 そうなんだよなぁ。男性の中には、説教をすることで気持ち良くなるタイプも存在する。転生前の上司がそうだった。何度理不尽な内容で叱られたことか……まぁ、おかげで大抵のハラスメントには耐えられるようになった。ストレス耐性の向上に寄与してくれたことにだけ感謝して、社長に密告しておいた。ちゃんと降格して嬉しかったなぁ……というのはさておき。


「でも、日向は違う。才賀に説教なんて絶対にさせない。何をやっても卒なくこなして、ある程度の結果を出して、周囲に一目置かれて、終わり。はいはい、優等生でちゅね~。で、それの何が面白いの?」


「湾内さん。あまり、陰口は言わない方がいいと思うが」


「は? 日向にもちゃんと言ってます~。ぜーんぶ適当にスルーされてるけどっ」


 陰口というか、本人にも普通に悪口を言っていたらしい。

 その上で、まともに取り合ってくれないようだ。だから湾内さんは氷室さんが嫌いなのだろう。


 無関心とかですらない。氷室さんは、湾内さんを対等な人間として見ていないわけだ。


「だから、風子が現れた時はざまぁみろって思っちゃった。幼馴染っていう特別なポジションからマウントを取ってたくせに、いきなり出てきたスケベ美少女に大好きな男の子が夢中になるとか、ちょーウけるw 今まで積み重ねてきた思い出はなんだったのかにゃ? 深めていた絆はどこにあるの? ギャハハ!」


「落ち着け。ここまで性格が悪いとかわいくないぞ」


「……ご、ごめんっ。今のはちょっと、反省する」


 ヒートアップしている湾内さん。

 さすがに自分の発言に反省して、ちょっと落ち着いてくれた。


「ちなみに、今の文句も全部本人に言ってるから。勘違いしないでね? あたしは本人に悪口を言うタイプなのっ」


「いや、本人に言ってるから許されるわけではないぞ」


 どういう思考回路をしているのか。

 とにかく、君が氷室さんを嫌っていることは理解できた。

 だから、おもちゃのように思っている俺が彼女と関与することが面白くない、というのも把握した。


 しかし、その上で……やっぱり、俺が引くことはないだろう。


「――彼女の力が必要なんだよ。俺は、君と真田に最上さんを渡すつもりはないからな」


 魅力がないなら、魅力を付与すればいい。

 そのために今、苦戦しながらも色々と試しているところなのだ。


「あっそ。一応、親切心で警告しただけだから」


「その気持ちにだけ、感謝しておこう。内容についてはあまりよろしくなかったが」


 今回に限って言えば、湾内さんに悪意はない。

 いや、嫌いな氷室さんの邪魔をしようとしている、という部分が悪意と判断されたらそうなのだが。

 ただ、誰かに危害を加えようとしているわけではない、ということは明確だろう。


「何よそれ! あたしがせっかくアドバイスしてあげてるのに、ちゃんと聞かないとかムカつくっ。あと、興奮する……! やっぱり、悟って態度があたしの性癖に刺さるなぁ」


「興奮はするな。まったく……俺はもう帰るぞ」


「は? こんな暗い夜道に女の子を残すわけ?」


「君なら大丈夫だろ」


「いやーん。暗い道、こわーい」


「じゃあな」


「あ、待って! マジであんまり得意じゃないのっ。置いてかないで、クソ童貞っ」


「口が悪いな……」


 時間も遅くなったので、会話を打ち切って歩き出すと、慌てた様子で湾内さんが追いかけてきた。

 ピッタリと後ろにくっついている。どうやら、本当に夜道は得意じゃないらしい。


 まぁ、威勢が良いのは口だけで、実はビビりで臆病な性格なのだ。それも当然か。

 仕方ない。明るい道までは、一緒に歩こう。


「あ、悟。飲み物ちょーだい? あたし、喉乾いた」


「湾内さんからもらったものだが」


「いいから。間接キスしてあげるって言ってるの! 嬉しいでしょ?」


「汚いな。もうそれは飲み干していいぞ」


「汚いって言った!? 乙女に向かって酷すぎない……? い、いつかベロチューしてやるんだからねっ」


「それはやめてくれ」


 とかなんとか。

 なんだかんだ、オシャベリをしながら歩く。


 彼女はこんな性格なのに、意外と一緒にいて退屈はしない。

 ……そのあたりが、氷室さんとの違いなのかもしれない――。

お読みくださりありがとうございます!

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これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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