第百三十二話 キャラクターの魅力
そもそも、氷室さんとの密会が始まって二週ほどが経過している。
湾内さんなら数日前……いや、もしかしたらもっと早い段階で把握していたはずだ。
どうして今更、俺に注意喚起してくれたのだろうか。
「え? いつから知ってたか? 悟と日向が出会ってから十日前くらいだと思うけど」
予想よりも遙かに早い段階だったのはさておき。
だとするとなおさら、ここまで泳がされた理由が分からないな。
と、俺が疑念を抱いていることを、湾内さんはなんとなく感じていたのだろう。
「最初のうちは、どうせ上手くいかないだろうなって思ってただけ。日向は才賀以外の人間に全然興味がないでしょ? そんな人間と仲良くできる人間なんて、才賀しかいないに決まってるから」
聞いていないが、彼女の考えを聞かせてくれた。
(……この子の評価は気になるな)
当然だが、俺と氷室さんは会話してまだ二週間しか経っていない。関係性の構築もできていないし、彼女の人間性の理解も足りないと感じている。
しかし、湾内さんは一定の交友もあり、氷室さんと出会ってから丸一年は優に経過している。その上で、湾内さんの氷室さんに対する評価にすごく興味があった。
仲は良くないらしいので、やっぱり低評価なのか。
いや、もしかしたら意外と認めている部分だってあるのかもしれない……と、思っていたのだが。
「日向は本当につまんないんだよね~。顔、体、頭はもちろんいいと思うよ? でも、陰キャとかお嬢と比較しても、日向は性格が面白くない。たまたま才賀の幼馴染だったから特別な立ち位置にいるだけで、本人の内面的な魅力なんて欠片もないでしょw」
――想像以上の酷評だった。
褒めているのは、容姿と頭脳だけである。性格の部分がボロクソの評価だ。
しかも、性格が悪いという意味ですらない。
面白くない、というのが湾内さんにとって一番の問題らしい。
「悟も感じてないわけ? 日向と話していて、一瞬でもいいから楽しいとか感じたことある?」
「それは……うーん」
反応が難しいことを聞かないでほしい。
でも、たしかに……氷室さんとの会話は、最上さんや湾内さんを相手にしている時とは違う感覚がある。
この二人と、それからさやちゃんも顕著なのだが……話していると、自然とリアクションしてしまうような情動があるのだ。
つまり、こちらの感情を揺さぶってくる。
最上さんはかわいい。湾内さんはムカつく。さやちゃんは真田のことが可哀想。などなど
一定数、こちらの感情に変動がある。それが湾内さんの言う『面白味』なのかもしれない。
「だから、そんなつまんない女の子に一生懸命なあんたを見ていられなくなっただけ。放っておけば? 風子はあたしと才賀がもらうけど、あんただったらちゃんと普通の女の子を選べるんじゃないの?」
「君にしては本当に珍しいな。そんなことを言ってくれるなんて」
あと、最上さんは譲らないぞ。
湾内さんならまだ許せるが、真田になんて絶対に渡さないからな。
……と、いがみ合うのはまた今度にしておこう。
今日は本当に敵意がないみたいなので、あまり反発するのはやめておいた。
意外と、優しい一面もあるのか。自分のおもちゃは大切にするタイプなのかもしれない。
「あと、日向には今まで散々マウントを取られてきたから、ちゃんと嫌いなのよっ。何が『さっくんと私は幼いころにプロポーズしあった関係だからw』だ! しかも『五歳まで一緒にお風呂に入っていた』とか、そんな情報要らなくない? ムカつく!!」
「あ、うん。やっぱり湾内さんはその方が落ち着くな」
優しくされて戸惑ったが、ちゃんと性格が悪くて安心した。
嫌いだから、陰口を吐き出していたらしい。陰湿なところも湾内さんらしいなぁ。うんうん、君はそういう性格でいいよ。
「つまり、俺が彼女に手を貸すのはやめた方がいいと忠告してくれたわけだな」
「まぁ、そんな感じ」
「……ちなみに、俺たちが何をやろうとしているのかは知っているのか?」
「んにゃ? それは知らなーい」
「知るつもりはあるか?」
「ううん。興味なーい」
なるほど。それなら、俺が氷室さんをインフルエンサーにしようとしていることまでは、把握していないか。
ただ、何らかの目的があって密会をしている、ということだけ彼女は知っている。その情報だけが湾内さんにとって重要であり、それ以外のことはどうでもいいのだろう。
「分かった。色々とありがとう、参考にして今後検討をするよ」
「うわっ。それ、絶対に言うことを聞かない時のセリフでしょ」
「検討を加速していかねばならない、という話だな」
と、政治家みたいに明言を避けて、責任逃れだけしておいて。
とりあえず、湾内さんの評価は大いに参考になった。
氷室さんの欠点が、ようやく分かった。
彼女にはどうやら、キャラクターとしての魅力が欠けているらしい――
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