表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/181

第十二話 モブヒロインは髪型一つで大きく変わる説

 予約した美容室は結構有名らしい。

 駅ビルの中に店舗を構えているところを見ると、実際に繁盛しているのだろう。


 予約できたのも、偶然キャンセルが入ったとのことだったので本当に運が良かった。

 ネットの評判も見たのだが概ね好評だったので、期待してもいいと思う。


 と、いうことを歩きながら最上さんにも伝えたわけだが。


「ど、どどどどうしよう。緊張してきたよぉ……わたしみたいな人間が行ってもいい場所なのかなっ」


 彼女は不安そうである。

 顔色も若干悪い。人気美容室、という響きだけでかなりダメージを負っているようだ。


「お洋服ってこれで大丈夫? わたし、変かな……」


「大丈夫。よく似合っているから安心してくれ」


 最上さんはゆったりしたワンピースを着用していた。

 アナウンサーとかが着ているような、清楚な雰囲気の衣服である。


(モブ子ちゃんの私服を見られるなんて、感激だっ)


 そういえば、漫画ではそんなシーンなかった。

 私服は清楚な方向性らしい。大きなお胸は隠れているが、だからこそいい。着衣巨乳とは懐刀。普段は隠し持っている武器のようでいいと思う。


「で、でも、不安だよっ。佐藤君、本当に大丈夫と思う? わたしを見て、美容師さんがカットする価値もないって言ったらどうしよう」


「そんな昔の頑固親父みたいな人はいないから安心してくれ」


「でも、うぅ……どんな髪型にすればいいのかも、分かっていなくて」


「お任せでも――いや、それはダメか」


 当初の予定では、腕の立つ美容師さんに全てお任せにすればいいのかなとも考えていたが。

 しかし、ふと思いなおした。もしかしたら、最上さんの意思にそぐわない髪型になる可能性もある……いくらかわいく仕上がったところで、彼女が嫌と言えばそれまでだ。


「最上さんが好きな長さってどれくらいなんだ? 今が長めだから、それくらいが良かったりする?」


「えっと、そうだなぁ……別に長いことにこだわりはないかも? ただ、自分で切ってたから、短くする勇気が出なかったの」


「じゃあ、美容師さんが短くしたほうがいいって言ったら、それで大丈夫か?」


「……ち、ちなみに、佐藤君はどれくらいが好きなの?」


「俺か?」


 俺の好みは別に気にしなくても……あ、そうか。


(異性の好み――真田を気にしているのか)


 ただ、ハッキリ言ってしまうことに照れがあるから、あえて俺の好みを聞いて遠回しに異性に好まれそうな髪型を探っているというわけだ。


 まぁ、真田が好きな髪の長さなんて知らないのだが。

 だから、ここは男性に人気が出そうで、それでいて俺が好きな長さを伝えておこう。


「首くらいの長さかな? あるいは、今くらいでも俺は好きだな」


「そ、そうなんだ。じゃあ、うーん……どっちがいい?」


 最上さんは、どうやら俺の意見を参考にするらしい。

 俺が決めていいのだろうか。まぁ、別に俺は今のままでいいが……真田のことを意識すると、やはり――イメージチェンジするのも悪くないか。


「短くしてみてもいいと思う。俺は見てみたいな」


「――分かった。そうするね」


 そうしてくれるんだ。

 素直ないい子だなぁ。こうやって相手に合わせてくれるところも、最上さんの魅力だ。


 主体性がない、というよりは他人の期待に応えたいという気持ちが強いように見える。

 利己的ではない。利他的な人間だからこそ、他者の意見を尊重するのだろう。


「似合うかな……わたし、小さい頃からずっとこれくらいの長さだから、短くするのは初めてなの」


「似合うよ。だって、最上さんはかわいいからな。安心してくれ」


「か、かわいいって……! そう言ってくれるのは、佐藤君だけだよっ」


 今は、な。

 しかし、これからはきっと違うぞ。


 俺には分かる。

 大抵、こういう地味と言われているキャラは、髪型一つでイメージが激変するのだ。


(今までなら、髪を切ることもためらっていただろうけど……最近はかなり気持ちが明るくなってるし、その影響かもな)


 自画自賛、しているように聞こえるかもしれないが。

 俺のように、ちゃんと肯定してくれる存在と定期的に会話していることも、彼女が明るくなった一つの要因だろう。


 人間って、誰かに認めてもらえると、不思議と前向きになれるのだ。

 そのおかげで、彼女は髪を切ろうと言われても否定しなかった。今までの最上さんなら、絶対に嫌だと言ってもおかしくなかったと思う。


 着実に、彼女は変化している。

 覚醒するまであと少し……それまでは、そばで彼女を見守らせてもらおうか――。



お読みくださりありがとうございます!

もしよければ、ブックマークや評価をいただけると更新のモチベーションになります!

これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ