第百二十四話 バニーガールについて語らせてもらおうか
バニーガールをよく見かけるようになったのは、ここ数年だと思う。
それまで、スケベな衣装といえば水着が定番だった。ソシャゲではいわゆる稼ぎ時に投入されていて、強い経済効果をオタク業界にもたらしていたように見える。
しかしながら、飽和しすぎたのだろう。
ゲーム、漫画、ラノベ、アニメ、それらでかかさず水着シーンが投入されるので、水着のレアリティが低くなっている。一昔前は『水着だうひょぉおおおおおお!!』と叫んでいたのに、今では『あ、水着ね。はいはい、課金しますけど』くらいの感覚になっている。実際に俺がそうだった。
結果、見慣れた衣装の一つと認識されるようになったわけだ。
そんな時代に、バニーが登場した。
もちろん昔から大人向けのお店では人気だったが、オタク業界ではコスプレの一つくらいに受け入れられていなかった……しかし、一時期から爆発的に普及した。
その火種は、海外で制作されたソシャゲだったように見える。
日本は表現の自由が比較的緩い。おかげで露出の多い水着もどんどんデザインできるのだが、海外だとより規制の厳しい地域も多く、日本の水着を参考にすると肌の面積が多いという理由で規制に引っかかったのだろう。
しかし、水着くらいユーザーが喜んでくれる衣装が出したい。
その一心で、規制を守りつつスケベな衣装として白羽の矢が立ったのが『バニーガール』だったのではないかと、俺は考察していた。
バニーはスケベだ。
しかし、よくよく見てみると……実は、水着の方が露出度は大きい。
むしろ、黒タイツなんて履いていた場合、露出しているのは腕と胸元くらいだ。肌色の面積という点で考えると、規制をしっかりと守っている。
だが、スケベだ。
そして、前述のとおり水着に少し食傷気味だったユーザーが、バニーに新鮮さを感じた。
俺もそのうちの一人だった。これが許されていいのか!? と武者震いしたのを今でも覚えている。
体のラインがくっきりと分かるデザインが、本当に最高だ。
あと、やはり『兎』というモチーフが好きだ。心をぴょんぴょんさせてあげる、というメッセージ性を感じるのだ。
ただし、もちろん水着も好きだ。やはり夏には一目見たいと思う。セミの鳴き声、風鈴の音、そして水着。これが夏の三大風物詩だから当然である。
どちらが良い、悪いという話ではない。
あくまで、水着に匹敵……あるいは上回るような定番のスケベ衣装が、オタク界隈で流行っているというだけの話だ。
なぜみんながバニーに夢中になるのか。
どうして俺は、こんなにバニーに惹かれるのか。
そういったことを、俺は時折考えている。
もちろん、それが正解かどうかは知らないし、正直なところ間違っていても構わないと思っている。
考えることが楽しいのだ。思考を深めた上で、他者の意見を聞くとより面白くなる。自分の間違いを指摘されると、知見が増えるのでそれも嬉しい。
異論、反論、大歓迎。ただ、こうやって物事の根幹を考察するのが楽しいので、よく妄想していた。
やはり、バニーガールは良いな。
最高だなぁ。
「――佐藤君っ」
「…………」
「さ、佐藤君!!」
「……ん? あ、すまない。ぼーっとしてた」
大声で呼ばれて、ハッと我に返った。
どうやら、先ほどから最上さんが呼びかけていたらしい。まったく気付かなかった。
「あ、良かった。気付いてくれた……急に目の焦点が合わなくなったから、びっくりしちゃった」
「すまないな。最上さんのバニーが最高すぎて、思考が宇宙にとんでいたかもしれない」
「そ、そんなに……!?」
「ああ。最高だ。最上さん――似合ってるぞ」
そう言って、俺は満面の笑みを浮かべて親指を立てた。
いつもより、ややテンションが上がっているのかもしれない。最上さんは、物珍しそうに俺を見ている。
「佐藤君がこんなに笑ってるところ、初めて見たかも」
「そうか? 最上さんの前ではよく笑っている気がするが」
「うん。でも、いつも以上だね……エッチなんだから、もうっ」
男の子って、仕方ないなぁ。
そう言わんばかりにため息をつきながらも、最上さんの表情が明るいのを俺は見逃さなかった。
やっぱりこの子は、嫌がっていない。
むしろ、楽しそうにも見える。
「――こんなに喜んでくれたなら、恥ずかしさを我慢したかいがあったよ。えへへ」
……俺のために、だよな。
最上さんは押しに弱いが、もともとは大人しい少女だ。
バニーガールのような、過激な衣装が苦手なことは間違いない。
でも、俺のために彼女は着用してくれている。
その愛情は、とても嬉しかった――。
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