第百二十三話 『むちぃ♡』←効果音
スケベな兎さんが降臨した。
まるで神の生誕である。衣裳部屋から現れたバニー少女を見て、胸の奥から何かがこみあげてきた。
「……もう死んだっていい」
「そ、それはダメだよっ」
つい零れた本音の言葉に、最上さんは慌てて首を横に振った。
たったそれだけの仕草で、胸元がぽよんぽよんと揺れていて……頭に装着されたお耳がぴょこんと跳ねた。
か、かわいい。
あと、スケベだ。
「分かりますわ。庶民……人生の最期に相応しい光景ですの」
先程からずっと最上さんのお尻を眺めていた尾瀬さんが、激しく同意と言わんばかりに頷いている。
ふっ。やはり君も『理解って』いるようだな。ちなみに『りかいって』とは読まない。『理解って』いると読む。分かる、という単語では伝わらない知の極致に、俺と尾瀬さんは到達しているのかもしれないし、そうでもないとも言える。ごめん、あまりにも素晴らしいバニーに思考がちょっと混乱していた。
「でかいな」
「ええ。でかいですわ」
「……お、おなかは、あんまり見ないでね?」
「「そこじゃない(ですわ)」」
そもそも、腹部だって平均的だ。むしろ、これくらいの方がだらしなさが出ていて……いや、なんでもない。これ以上は気持ち悪いオタクの戯言になるので控えておこう。
とにかく、何度でも言うが最上さんは太っているわけじゃない。
でかいのは――
「胸のことだよ」
「お尻のことですわ」
「……尾瀬さん。たしかにお尻も魅力的だが、さすがに最上さんで一番語るべきは胸元だろ。こんな下品な体に生まれたことを謝罪させるべきだ」
「げ、下品ってなに!?」
「ふんっ。胸ならわたくしにだってついていますわ。でも、このお尻はまさしく国宝……存命する有形文化財。見てくださいまし。思わず叩きたくなるほどのボリューム感を! まったく、こんな清楚な顔をして本当にいやらしいですわ」
「いやらしい!?」
散々な言われように、最上さんはちょっと涙目だった。
あ、別にそれは悪いことじゃないということも、しっかりと説明しておかなければ。
「いや、体は下品だが最上さん自身は上品だから安心してくれ。むしろ、性格や内面は穏やかなのに、スタイルがあまりにも過激なところも、君の魅力だ」
「えっと、褒められてるの? それとも……いや、それって褒め言葉なの!?」
「いやらしい体なだけで、風子さんの性格は天使のように美しいですわ。何せ、この性格の悪い高圧的でお金を持っているだけのカス人間であるわたくしにすら優しいあなたは、まさしく至高の存在ですのよ」
「うさぎちゃんは自分のことを悪く言いすぎだよっ。そんなことないもん」
こんな時でさえ、ちゃんと尾瀬さんの否定的な言葉を訂正するのだ。
最上さんの内面が素晴らしいことは、今更語るまでもないことである。
「……ぐすっ。こんなに素敵な女の子がお友達なんて、本当にわたくしは幸せ者ですわ」
「分かる。こんな子が親しくしてくれるなんて、本当に嬉しいよな」
本当に、最上さんについての認識だけは一致するなぁ。
尾瀬さんの言葉に大賛同して、俺も強く頷いた。
その間も、もちろんバニーガールになった最上さんを観察するのは忘れていない。
まばたきする時間すら惜しい。まずは網膜に焼き付けて、それから脳の記憶領域にも刻みこんでおかねばならない情景だ。
俺が死ぬときの走馬灯のラストは、このシーンに決めた!
そう決断できるくらいに、スケベで素晴らしいバニーガールだ。
「そういえば……な、なんで二人とも、扉のところに来てたの……?」
今更の質問である。あまりにも着替えが遅いから様子を見る、という言い分で突入しようとしていた……とは伝える必要がないので、俺も尾瀬さんも質問はスルーした。
ここは衣裳部屋のすぐ前だ。狭い通路なので、三人もいると少し圧迫感がある。
いや、圧迫感の理由は、最上さんのせいだな。
『むちぃ♡』
少し動くたびに、そんな効果音が鳴っている気がした。エロ漫画のオノマトペかよ。
うん。やっぱり、バニーガールは最上さんみたいな豊満なスタイルがよく似合う。
痩せている人が着てもかわいいし、最近はロリキャラが着用しているのもよく見かける。それはそれで良いし、むしろ流行ってほしいとさえ願っている。
ただ、やはり王道はこの路線だろう。
シンプルに、強い。これは、ヒロインとしても最強格だ。
(……氷室さんには申し訳ないが、これは厳しい戦いだぞ)
まさか、ここまで化けるとは。
モブ子ちゃん時代では絶対に見られなかったであろう光景に感動すると同時に、俺は戦慄もしていた。
こんなに覚醒するとは、思わなかった――。
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