第百二十一話 最上さんはM……?
バニーガールの衣装がかけられたハンガーラックの前で、最上さんはぽかんと口を開けていた。
「ほぇー……こんなに種類があるんだね」
「大きな差異があるわけじゃないが、色や形状で雰囲気が変わりそうだな」
ベーシックなのは黒のレオタードタイプだろう。バニーガールといえば、多くの人がこれをイメージすると思う。
ただ、白や赤もあるし、ネオンピンクなんてもう夜のお店の感じが色濃く出ていた。
これは少し、最上さんには似合わなさそうだな。
まだ彼女は女子高生。あどけなさも残るので、大人っぽい色香が突出しているわけではない。セクシーに極振りするよりも、かわいさにも少しポイントを振ってあげた方が、より魅力が増すだろう。
「うさぎちゃん、こんなに用意するのは大変だったんじゃない?」
「おほほ。風子さんのためなら、まったく苦ではありませんでしたわ」
「……これ、レンタルとかではないよな? まさか、全部買ったのか」
「わたくしのポケットマネーですのよ。資金は綺麗ですから、ご安心なさって」
まるで汚い資金があるかのような言い方はやめてほしい。家業も明言してくれないし、色々と勘ぐってしまうから。
その点について触れると後で消される可能性もあるので、スルーすることにして。
「サイズは大丈夫なのか?」
「庶民。わたくしを舐めないでくださらない?」
「三日前くらいかな? 学校で測ってもらったよ」
「ほう。で、サイズは?」
「Gカッ――」
「ああー! い、言わないでっ……恥ずかしいから!」
もう遅い。なるほど、グレイトなカップで何よりだ。
高校二年生でこれか……まだまだ成長しているらしいので、今後が楽しみである。
「Gカップさん……間違えた。最上さんは、どれが好きなんだ?」
「そんな間違え方はしないよっ。もう、からかってるでしょ?」
「……あれ? なんかニヤニヤしてないか?」
「そ、そそそそんなわけないよ! わたしは別に、そんな……からかわれて喜んだりしてないもん。ただ、ちょっとだけ、からかわれるのは、嫌いじゃないって思ったけど」
最上さんはあれだな。
気質でいうとややMか。そういえば、たしかにこの子は迫られるとすぐに受け入れる。しかも嫌々とかではなく、意外とノリノリだ。そういうタイプなのかもしれない。
よし。じゃあ、遠慮する必要はないな!
「最上さんは何を選ぶ? 俺は網タイツさえ履いてくれるなら、上はどれでもいいぞ。このネオンピンクとか蛍光色以外で、あとはできれば黒がいいな。耳は少し大きめにしてくれ」
「庶民。どれでもって言いながら、指定が多いですわよ。正直になるべきですのよ……これがいい、と!」
クールぶっている尾瀬さんだが、実は一番ヤバいものを選んでいた。
彼女が選んだ衣装は、布の面積だけで考えると他のものと相違ない。
ただ、布のある位置が逆なのだ。
そう。彼女が持っていたのは……逆バニーだった。
「うさぎちゃん!? それは布の配置が逆のやつだよっ」
「逆バニーはさすがの俺でも引くぞ」
「……お、おほほ。冗談ですわ」
目がマジだったが。
尾瀬さん、実は俺よりもこのイベントを楽しみにしている節があるよなぁ。
最上さんに心をすっかり奪われているのか、彼女の目線は常に熱い。俺に対しては冷めているのに、最上さんにはやけに熱っぽいのだ。
おかげで、こうやって無理な企画が実現しようとしている。
彼女の熱量に感謝だ。
「じゃ、じゃあ、とりあえず普通そうなもので」
とか言いながら、俺の選んだものを全て手に取る最上さん。
黒のレオタードタイプで、網タイツと、大きめの耳……この時点でもう最高だった。
ただ、楽しみは一度で終わるわけがない。
「じゃあ、二着目はどうする?」
「え? 一着だけじゃないの!?」
せっかく用意してもらったのだ。いくつも着てもらう所存だ。
尾瀬さんも、当然そのつもりだったのだろう。
「全部、お願いしてもよろしくて?」
「おい。逆バニーはいいかげんに諦めろ。それはレーティングとゾーニングに抵触する」
「さ、さすがにこれは……っ~!」
自分が着ているところを想像したのだろう。
最上さんは途端に顔を真っ赤にして、そっと逆バニーの衣装から目をそらした。
これはさすがにアウトだな。
精神的には大人の俺でも、直視できないかもしれない――。
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