表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

124/137

第百十九話 本当に『お嬢』だった件について

 そういえば、湾内さんが尾瀬さんのことを『お嬢』と呼んでいた。

 あれは、彼女がつけたユニークなあだ名だと思い込んでいたが……どうやら、事実に基づいた呼称だったらしい。


「ごきげんよう、風子様。庶民……そして、いらっしゃいませですわ。わたくしの家にようこそ」


 いや、優雅に一礼しているところ悪いが。

 さすがにこれだけは言わせてくれ。


「その見た目で極道の娘は驚きなんだが」


「極道ではありませんわ。ちょっと人に言えないお仕事をお父様がしているだけですの」


 それを極道と言うのでは?

 いや、でも反社会勢力と同じではない、ということだろうか。

 少なくともマルチとかするような詐欺グループ団体とは違うだろう。その点では安心か。


 ただ……尾瀬さんの周囲に強面のおじさんがたくさんいたので、さすがに俺も緊張していた。

 十人くらいだろうか。なぜこんなに大人数で出迎えてくれたのだろうか。


「…………」


 あ、最上さんが硬直している。

 強面のおじさんたちに恐怖して、先ほどから微動だにしなくなった。ただ、その間も俺の二の腕をギュッと掴んでいるので、そこがちょっと痛い。


 まぁ、突然の事態で俺も驚いているので、小動物気質の最上さんがそうなるのも無理はない。


 転生前も今も、俺はあくまで一般市民。

 こういった方々とは縁のない生活を送っていたので、ちょっと慣れなかった。


「お嬢! 客人と聞いて来ましたが、若ぇ小僧と小娘じゃねぇですか!」


「わたくしの同級生なのだから当然ではなくって?」


「こっちの小僧は、お嬢の男で間違いねぇっすか!? てめぇら、やっちまうぞ!!」


 おい、待て。

 なんでおじさんたちがこんなにいるのかなと不思議だったのだが、そういうことか。

 どうやら俺は、尾瀬さんの彼氏だと勘違いされているみたいだった。


 それだけは絶対にありえないので、即座に否定しようとしたが……俺よりも早く、彼女が反応してくれた。


「落ち着きなさい。こんな庶民がわたくしの彼氏なわけないですわ」


「……たしかに、お嬢が好きになるのがおかしいレベルで普通の男っすね」


「聞いていた話だと、お嬢をさしおいて他の女に尻尾を振るクズ野郎とかなんとか……この男からはクズの匂いがしねぇな」


「堅気だな。雰囲気で分かる。俺らとは無縁の立派で善良な一般庶民だ……てめぇら、下がれ!」


 ……な、なんか普通すぎる顔立ちと雰囲気のおかげで、誤解がなくなっていた。

 まだ何も言ってないのに。あふれ出る庶民オーラのおかげで難を逃れたようだ。


 ちょっと複雑だが、良かった……ということにしておこう。


「というか、風子さんもいらっしゃるのよ? 庶民だけではないのだから、ちゃんと御覧なさいまし」


「ん? あ、この方がお嬢のご友人っすか! てめぇら、ご挨拶しろ!!」


『押忍!! お嬢のご友人、いらっしゃい!!』


 俺とは態度が全然違うんだが。

 最上さんのことは、おじさんたちも事前に聞いていたらしい。


 俺の背後で小さくなっている彼女を見つけるや否や、強面のおじさんたちががっしりと頭を下げた。

 ……頭を下げるのはいい、でも、その両ひざに手をあてるスタイルは何か意味があるのだろうか。


 ビジネスマナーがなってないな。彼らは営業になれそうにない。まぁ、なる必要もないけど。

 うーん、なんというか……龍〇如くだった。ここだけ、あの世界観である。


「ごめんあそばせ。この下郎たちはお父様の部下でしてよ……心配性で、男の子が来ると聞くや否やついてきましたの。まったく、邪魔ですわ」


「す、すみません!」


「頭の愛娘を守る義務が俺たちにはあるんで……」


「うるさいですのよ。あと、三下には歩きたばこをしないように厳重注意しておきなさい? 印象が悪いですわ。あなたたちは存在しているだけで近隣住人にご迷惑をおかけしてるんだから、もっとお行儀よくしないとダメでしてよ」


「へい! しっかり教育しておきやす!!」


「じゃあ、解散ですわ。立ち去りなさい」


 さ、さすがお嬢だ。

 強面のおじさん連中にも物怖じしない尾瀬さんを、俺はちょっと見直していた。

 ただのポンコツお嬢様じゃなかったんだ。


 と、いうことで。

 おじさんたちがいなくなって、ようやく少し場が落ち着いた。


「さて、お邪魔虫は追い払ったところで……改めて、ようこそ。わたくしのお家へ」


「……こ、こんにちはっ」


 あ、良かった。

 最上さんも再起動して、尾瀬さんに声をかけてくれた。

 未だに俺の二の腕を握りしめて震えているが、まぁもう少ししたら落ち着くだろう。


「風子さん! わざわざ来てくれて嬉しいですわっ♪」


 尾瀬さんは最上さんの顔を見ると、途端に明るい笑顔を浮かべた。

 なかなか癖のある人だが、最上さんにだけは心を開いているんだよな。俺と明らかに態度が違う。


 さてさて。

 なんだかんだあったものの、尾瀬家に無事到着した。


 これから、最上さんのバニーガール姿がお披露目される。

 そう思うと、楽しみで仕方なかった――。

お読みくださりありがとうございます!

もしよければ、ブックマークや評価をいただけると更新のモチベーションになります!

これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ