第百十六話 スケベなバニーが見たい同盟
後部座席で偉そうに足と腕を組む尾瀬さん。
俺の問いかけに軽く頷いてから、足を組みなおして……平然とした表情で、こう語った。
「お金で買えるものなら、持っていないものなんて存在しませんわ」
まるで、この世の全てを持っているかのような態度である。
さすがお嬢様。スケールが大きい。
「資本主義の世界である以上、値札のついている商品は全て持っていると言っても過言ではありませんのよ」
「じゃあ、お金で買えないものは? たとえば、他人の愛情とか」
「……ぐすっ。持っていませんわ」
「あ、ごめん。ちょっと今のは意地悪だった」
打たれ弱いな。
偉そうなのにメンタルは貧弱だ。
いや、お嬢様キャラならむしろ当たり前か。今まで挫折したことないと思うので、彼女は恋愛がうまくいっていないことをかなり引きずっているのかもしれない。
「さ、才賀さんのことは、あまり言わないでくださいまし……」
「うん、分かった。えっと、バニーガールの話に戻すぞ?」
高圧的だが、意外と反撃するとあっさり勝ってしまいそうなのが恐ろしかった。
脱線はほどほどにしておいて。
「えっと、つまり……持っているってことなのか? それとも、今から買うってことなのか?」
「どっちでも構いませんわ。わたくしが持ってきてと命じれば、すぐに届きますのよ」
なるほど。分からん。
シュレーディンガーの猫かよ。持っている状態と持っていない状態の半分ずつが存在していた。
まぁいいや。
とりあえず、あるということで。
「借りてもいいか? あ、でもサイズが問題か……」
「サイズが心配なら複数から選べばよろしくてよ?」
複数あることになってるのかよ。
発想が金持ちすぎる。転生前から今までずっと庶民なので、尾瀬さんの言葉には驚かされてばかりだった。
「でも、庶民……そういう趣味がありますのね。もちろん、人それぞれだからとやかく言うつもりはありませんわ」
「待て待て。俺が着るんじゃなくて」
どんな思考回路なんだよ。
やっぱり生活環境が違いすぎて価値観がまるで違うな。
「あら。庶民本人じゃないなら、恋人とコスプレプレイでもしますの?」
「言い方に気をつけろ。レーティングは守れ」
「おほほ。ごめんあそばせ」
あと、コスプレプレイって何だよ。コスチュームプレイのプレイってことか?
……語呂は変だが、意味は当たっているのか。
って、そんなことはどうでもいいんだ。
「俺じゃなくて……最上さんだよ。あの子に着てもらうんだ」
「――風子さんに!?」
あ。目の色が変わった。
さほど興味がなさそうに茶化していた癖に、途端にギラギラとした瞳に切り替わった尾瀬さん。
「庶民! 褒めて差し上げますわ。お手柄ですのよ」
「あ、うん。ありがとう」
「こっちに来なさい」
「え? なんで?」
何をされるのだろうか。
ちなみに、車の後部座席なのになぜかL字なのだが、尾瀬さんとは一メートルくらい距離を空けていた。
俺と彼女の心理的な距離感はもっと遠いので、離れてるのも仕方ない。ただ、近寄るように促されたので、隣に行くと……。
「こら。庶民、頭が高くってよ。同じ席に座れるなんて、思いあがらない方がいいですのよ」
「……別にいいけど」
君は何がしたいんだ。
座席に座ることは許してくれなかったので、床に膝を付ける。
すると、彼女は靴を脱いで俺の太もも付近を軽く踏んづけた。
ふみふみ。
ふみふみ。
細い足に踏まれて、困惑した。
「で、何をやっているんだ?」
「ご褒美ですのよ。わたくしに踏まれて嬉しいでしょう?」
舐めてんのかこいつは。
どういう価値観で育ったら踏むことがご褒美になるんだよ……!
「嬉しくないが」
「あら。おかしいですわ……お母様の使用人は喜んでいましたのに」
悪いのは家庭環境か。
さやちゃんといい、尾瀬さんといい、特殊な生活環境すぎて反応に困った。
まぁ、そのことについてはもういい。
とにかく、最上さんのコスプレについてだ。
「最上さんのバニーガール姿、君も見たいってことか?」
「もちろんですわ。わたくしが衣装を用意しますのよ? 拒否権があるとでも?」
「……たしかにそうか」
俺だけが堪能するのは贅沢すぎるか。
安っぽい衣装でも好きだが、せっかくなので……尾瀬さんが用意した高価な衣装も見てみたい、という気持ちは強い。
だから、俺は頷いた。
「じゃあ、場所も用意してもらっていいか? 俺の家だと庶民すぎるし、最上さんの家だとあの子が恥ずかしがると思うから、尾瀬さんの家とかどうだ」
「構いませんわ。風子さんのためなら仕方ありませんわね」
よし。交渉は成立だ。
「よろしくな、尾瀬さん。最上さんのスケベな……じゃない。かわいいバニーガール姿を一緒に見よう」
「もちろんですわ。スケベ……ではなく、愛らしいお姿を鑑賞しますわよっ」
俺たちはあまり仲が良いとは言えないが。
このことについては意気投合した。
つい勢いで握手がしたくなったので、手を差し出してみる。
しかし、尾瀬さんはなぜか足を差し出してきたので、仕方なく握手……じゃなくて、握足した。
こうして俺たちは『スケベなバニーが見たい同盟』を結んだ。
色々と言いたいことはあるが、そういうことはもうどうでもいい。
とにかく、最上さんのバニーガール姿が見たい。
そのための準備が、整いつつあった――。
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