第百十五話 最上さんのでかすぎるサイズ問題
最上さんがバニーガールになってくれるそうだ。
正直に言うと嬉しい。なぜなら俺はバニーガールが大好きだから。
ただし……一つだけ、問題がある。
(バニーガールの衣装ってどこで調達すればいいんだ?)
登校中。
頭の中がすっかり兎さんでいっぱいだった俺は、ずっとそのことについて考えていた。
お披露目会は週末を予定している。
俺としては明日にでもと言ったのだが、最上さんがどうしても首を縦に振ってくれなかった。
『明日はダメだよ! だ、ダイエットとか、えっと……とにかく、仕上げてくるから!』
大会前のボディービルダーみたいなことを言われた。
今日は木曜日。土曜日には決行予定だ。二日後までに体型が変わるとは思わないが。
そもそも、最上さんのスタイルは今の時点でかなり完成しているのに。
彼女は分かっているのだろうか。バニーガールは痩せているよりも、少し肉付きがいい方が似合う。つまり最上さんにうってつけである。
もちろん彼女は太っているわけではない。男性にとってはたまらない柔らかそうな……こほん。まぁ、そういうわけなので、最上さんのバニーガール姿が楽しみである。
ただし、前述のとおり衣装を入手する方法について、俺は悩んでいるというわけだ。
(ドン〇ホーテに行けば売ってるか?)
あの安っぽいコスプレ衣装は賛否が分かれるかもしれない。
でも、俺は大好きだ。チープな作りが逆に良い。なんというか、気軽に買える値段というのに現実味を感じるからかもしれない。
とはいえ、衣装なのでサイズのことも気にしないといけないわけで。
(最上さんはでかいからなぁ。市販のもので大丈夫なのか……?)
体の一部分が彼女は凄まじい。
あの真田が鼻の下を伸ばしてデレデレになるレベルだ。
一緒に行って、サイズ合わせなどした方がいいのだろうか。
でも、最上さんは恥ずかしがるかもしれない……いや、逆にそれはありだな。
サイズの合わない衣装を着て顔を真っ赤にしている姿も悪くない。
よし、週末に一緒に出掛けよう――と、思っていたタイミングだった。
「あ」
ふと横を見ると、黒塗りの高級車が停止していた。
エンジン音がまったくしないのが恐ろしい。俺が乗っていた社用車はなぜかマニュアルでエンジン音も豪快というか、とにかく古い車種だった……というのはさておき。
この車は、見覚えのあるものだった。
「――ごきげんよう、庶民」
あ、おぜうさまだ。
窓を開けて顔を覗かせたのは、縦ロールがお似合いの高貴な女子生徒――尾瀬うさぎだった。
真田を囲うヒロインの一人でもある。
俺のことは欠片も興味がないのか、名前すら覚えられていない。なので、声をかけられたことが不思議だった。
「おはよう。どうしたんだ?」
「乗りなさい? 朝から歩くなんて疲れませんこと?」
いや、別に。
むしろ歩くのは健康に良い……と、本音では断りたい。
ただ、尾瀬さんは高圧的だが、善意で申し出てくれているのだろう。なんだかんだ優しいので、その気持ちを無視するのは申し訳なかった。
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「構いませんわ。庶民に施すのが令嬢の役目ですものね」
……この子、真田がいなければ意外といいキャラだよなぁ。今の尾瀬さんは嫌いじゃない。
ただ、真田が関係するとすぐに変な感じになるので、その時は苦手だ。こうやって落ち着いている尾瀬さんの方が俺の好みである。
「庶民。水分補給もしておきなさい。そこに冷蔵庫がありますわよ」
「え? すごいな……ありがとう」
車内に乗り込んで、備え付きの小さな冷蔵庫からペットボトルの水を取り出した。
み、見たことないメーカーの水だ……海外製だろうか。味は水なので変わらなかったが、たぶん成分とかが違うのかもしれない。
そんなこんなで。
なぜか尾瀬さんの車に乗って登校することになったのだが。
「……そういえば、この前のサングラス、使ってるよ。ありがとう」
「ん? 何の話ですの?」
「ほら。前にくれただろ?」
「……まぁ、施し物で喜んでいるなら、悪い気はしませんわ」
覚えていないな、これは。
反応があまりにも無表情である。
あと、やっぱり会話が弾まない。
尾瀬さん、俺に興味が全くないんだよなぁ。話題を振ってもこれだ。
正直、沈黙は苦手である。
何か話題があればいいんだが。
(尾瀬うさぎ……兎……バニーガール……?)
そういえば尾瀬さんの名前はうさぎである。バニーガールと縁があるのかもしれない。いや、ないな。あるわけがないと思うが……あ、そうだ!
(尾瀬さんってお金持ちだし、バニーガールの衣装とか持ってるんじゃないか?)
ほんの思い付きだった。
車に乗ったとはいえ、尾瀬さんは何も話してこないので沈黙が気まずいということもあって……俺はつい、考えていたことをそのまま口走ってしまった。
「尾瀬さん。いきなりで悪いけど、バニーガールの衣装とか持ってたりしないか?」
「――持っていますわ」
え。本当に?
半ば冗談のつもりだったのだが……まさか、持っていたなんて。
これは、借りるしかないだろう――。
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