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第十一話 モブヒロインは巨乳の遺伝子

『ピンポーン』


 俺の家から、だいたい三十分くらいか。

 郊外にある住宅地の一角。二階建ての一軒家に来ていた俺は、ためらいなくインターホンを押した。


 ここは最上家。

 最上風子の住んでいる住居である。これから美容室に行くのだが、彼女は道中ですら心細くて寂しいらしいので、迎えに来たのだ。


 俺も実際に行ったことがない店舗だが、駅ビルの中にあるらしいので迷うことはないだろう。

 そういうわけで、当初の話し合いでは家に到着したらスマホで連絡してと言われていたのだが……めんどくさかったので、インターホンを押したというわけだ。


 待つこと少し。

 ガチャリと扉が開いて、中から顔を覗かせたのは……最上さん――ではあるのだが、その母親の方だった。


 容姿は娘にそっくりだ。

 目こそ隠れていないが、黒髪の落ち着いた雰囲気のある女性で、あと胸も大きい。顔立ちに特徴はないものの、胸が大きくてそこがやはり良かった。遺伝子って素晴らしいなぁ。


「はーい。どちら様?」


「初めまして、最上……いや、風子さんの同級生の友達です。佐藤と申します。彼女を呼びに来たんですけど」


「……あら。あらあらあらあら。佐藤君は、風子の友達なの?」


 どうやら、娘から俺のことを聞いていなかったらしい。

 最上さんの母親……ややこしいな。おかあさんでいいや。おかあさんは嬉しそうににこにこと笑って、俺を歓迎してくれていた。


「はい。大親友なんです、おかあさん」


「おかあさん……うふふ、そうね。おかあさんでいいわよ」


「それで、娘さんはいますか?」


「ええ。どうせだし、中に入って――」


「――お母さん!? な、ななななんで佐藤君とお話してるの!!」


 ここでようやく、ご本人の登場だ。

 娘の最上風子さんが俺たちに気付いて、慌てた様子でやって来た。


「だって、インターホンが鳴ったのよ。風子ったら、こんなに仲の良い男の子がいたのね。隅に置けないわ」


「別にお母さんが思っているような関係じゃないからねっ」


「はいはい。照れちゃってかわいいわねぇ」


「まったくです。照れるところもかわいいなぁ」


「なんで佐藤君はお母さんに同調してるの……?」


 まぁ、精神年齢的には、おかあさんの方が近いからな。価値観が似ているのは否めない。

 転生前は二十八歳の成人男性だった。最上さんの母親はせいぜい三十代の半ばくらいで、俺と十歳も離れていないだろうし。


 かわいい、という言葉の意味もおかあさんと近いのだ。

 異性としてかわいい、というよりは若さや初々しさが愛おしいのである。子供を見守る感覚に近いだろう。


「これからどこかに行くのかしら?」


「ちょっとお出かけしてくるだけだよ」


「風子さんの髪の毛を切りに、美容室に行くんですよ」


「佐藤君!? なんで言っちゃうの……!」


「あらあら。やっと自分で切るのをやめるのね。良かったわ、私が『行きなさい』って言っても聞かなかったのよ~」


「うぅっ。さ、佐藤君、もう行こう? お母さん、いってきますっ」


「うふふ。いってらっしゃい。佐藤君、娘をよろしくね~」


「はい。任せてください」


 そんなやり取りがあって、俺は最上さんに引っ張られるように最上家を後にした。


(……モブ子ちゃんの母親ってあんな感じか。初めて見たけど、最高だったなぁ)


 モブ巨乳の遺伝子を目の当たりにして、なんだか嬉しかった。

 あと、それからもう一つ。


「佐藤君ったら、もう……スマホに連絡してって言ったのに」


 母親の前では、やっぱり最上さんも普通の子供だった。

 異性の友達の存在を隠したかったのだろう。母親にバレて、照れて、焦って……そういう一面を見られて、楽しかった。


「どうせだし、おかあさんに挨拶したくてさ」


「お、おかあさんって呼ぶんだ……でも、お母さんは喜んでたからいいのかなぁ」


 最上さんは色々と言いたいことはあるのだろう。

 だが、悪いことをされたわけではない、とも理解しているのか。

 彼女は諦めたように小さく息をついて、それから肩をすくめた。


「まぁ、いっか。佐藤君って、わたしの時もそうだったけど……人と仲良くなるのが上手なんだね。お母さん、わたしと同じで変に人見知りなのに」


「そうなのか? おっとりしてて、接しやすかったけど」


「いつもは宅配の人にも無愛想だよ? 佐藤君って、なんていうか――良い意味で、子供っぽくないのかもね。大人っぽいというか、落ち着いていて話しやすいのかも?」


 ……鋭いな。

 最上さんの分析はかなり当たっている。


 実際、俺は大人だ。

 最上さんや真田と違ってちゃんと成人で、社会人という経験もある。

 しかも、転生者という全てを知っているメタ的な存在でもあるのだ。


 そのおかげで今、こうして最上さんに協力できているのだが。

 しかし……俺のような存在が過干渉するのは、あまり良くない気もした。


 俺の言葉は、容易に彼女たちの人生を狂わすことができてしまう。

 今回は、モブヒロインの運命を変えたくて意図的に誘導しているが……無意識に、あらぬ方向に変化する可能性もある、というわけだ。


(こうやって仲良くできるのは、やっぱりこの夏だけかもな)


 まさしく、蜃気楼と同じだ。


 夏の一時期だけ……砂上の楼閣のように。

 俺と最上さんの関係は、ほんの一瞬の夢でしかない。


 だから、このひとときを精一杯に楽しませてもらおう。

 改めて、そう思った――。



お読みくださりありがとうございます!

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これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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