第百十四話 バニーガール←大好き
帰り道。
最上さんと俺の家は同じ方向なので、途中まで一緒に帰る日も多い。
最近は最上さんの補講とか、俺がさやちゃんと密会していたので、少し機会が減っていたが。
でも、やっぱりこの時間は落ち着く。
少しでも長く最上さんと一緒にいたくて、無意識に歩くペースが遅くなるくらいには大切な時間だ。
最上さんもきっと、同じように思ってくれていたのかもしれない。
いつもの倍以上の時間をかけて、のんびり歩いている。
……いや。しかし今は、そういう意味で歩くペースが遅いわけではないか。
「ば、ばにぃがぁる?」
呆然としていた。
俺の突然の一言に、最上さんはぽかんと口を開けている。
あまりにも脈絡のないお願いだったのだろう。脳の処理が追いついていないようだった。そのせいで歩く足もさらに遅くなったので、俺は立ち止まってちゃんと気持ちを伝えた。
「最上さんのバニーガールを見るのが夢だったんだ」
転生前、モブ子ちゃんのバニーガールが見たくて仕方ない時期があった。
残念ながら人気作とは言えなかったので、ファンアートもなかった。ねこねこ先生はモブ子ちゃんに限らず、他のヒロインでもバニーガールは書かなかったので、読者として見ることはできなかったのである。
理由はなんとなくわかる。
バニーガールって、学園ラブコメとは距離のある存在だ。
でも、一時期から爆発的に増えたんだよなぁ。最近は水着よりも、バニーガールの方が喜ばれる傾向がある気もする。ソシャゲでもバニーは大人気だ。
だから、俺は見たい。
「最上さん。兎さんになってくれ」
「え? え……えっ。えー!?」
最近、最上さんをあまり堪能できていない。
氷室さんのこととか、さやちゃんのことで、なかなか時間が作れなかった。
あの二人が物語の進行上大切そうなので、こうなってしまうのも無理はないのかもしれない。
でもこの漫画は、ラブコメが中心というよりも、ヒロインの可愛さをメインで楽しむタイプの作品だ。
最上さんのかわいいところを、俺はもっと見たかった。
「む、無理だよっ。バニーってあれだよね……あの、逆のやつ!!」
「いや、逆バニーとは違うぞ。落ち着け、最上さん。逆バニーを正式なバニーガールと思うのは危険だ」
たしかにエッチなコンテンツだと、逆バニーがむしろ正式なバニーガールみたいになっているが。
あれは布の位置が逆だ。俺が見たいのは、ちゃんと普通のバニーガールで……まぁ、そもそもバニーガールが普通なのかどうかは分からないが、とにかく健全な方である。うーん、バニーガールが健全かどうかも諸説あるので、とにかく俺はどっちでもいい!
ただ、漫画のレーティング的に逆バニーは不可能なので、やっぱり普通の方にしようか。
「逆じゃない……あっ。もしかして、あれって正式じゃないの!?」
「もちろん。あれが正式だったらバニーガールなんて存在しない。もともとはウェイトレスの衣装だぞ」
ただし『ちょっと大人なお店の』ウェイトレスなのだが、その情報は意図的に削除した。嘘はついていないので問題はないだろう。これが叙述トリック……いや、たぶん違うな。推理小説は読んだことないのでよく分からない。
「へー。そっか、ウェイトレスさんなんだ……メイド喫茶とかと同じ感じなのかな?」
「たぶんそうだ。だから健全だと思う」
「そ、そうだね。わたしが見たやつは、ちょっと過激な種類だったのかも……?」
「過激って。最上さんはいったい何を見ていたんだ」
「べ、べべべつに普通だよ!! あの、その、普通だから……!」
必死すぎて逆に分かりやすかった。
今までの付き合いで、なんとなく彼女に感じていることがある。
(最上さんって、意外とそういうことにも興味あるのかもしれない)
清楚そうだが、内心ではどうなのだろうか。
真田ほど下品な感じはないので不快感はない。ただ、無関心じゃないだろうなとは感じるので、それはそれで最高だった。清楚そうで意外とピンク色なのはたまらないな。このギャップが魅力だと思う。
うん、これなら……いけるな。
「最上さん。そういうわけだから、バニーガールになってくれないか?」
「どういうわけか分からないよっ。わたし、その……うぅっ」
「大丈夫! 一回だけだから!!」
両手を合わせて、拝むように頭を下げる。
そうすると、最上さんは困ったようにおろおろして……それから、小さく呟いた。
「……見たいの?」
「もちろん」
「……そんなに?」
「ああ。最上さんのバニーガールを見ないと、死んだときに後悔するかもしれない。それでもいいのか?」
「そ、それはダメっ。佐藤君が死んだら悲しいよっ」
いや。別に死ぬとは言ってないが。
それはともかく。あと一息だ。
「じゃあ、見せてくれるんだな?」
「し、死ぬくらいなら……うん、分かった」
「え? なんだって? 声が小さいな」
「わ、分かりました!」
「何を分かったんだ? ハッキリ言ってくれ……最上さんは、何をするんだ?」
「ば、バニーガールに、なりますっ!」
なぜか敬語になって宣言した最上さん。
やはり押しに弱かった。俺の強引な追及にいとも簡単に屈した彼女は、バニーガールになることを約束してくれた。
と、いうわけで。
俺の夢が叶いそうである――。
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