第百十三話 油断するとすぐに幼女成分が強くなってしまうのは誰のせいだ
――俺は一つ、気になっていることがある。
「……最近、最上さんの登場シーンが少なくないか?」
「え。あ、あの、赤点を取ってごめんなさい……」
あ。心の声が漏れてしまっていたらしい。
帰宅するために一緒に歩いていたら、隣を歩いていた最上さんが申し訳なさそうにそう呟いた。
「いや。別に責めているわけじゃない」
というか、登場の回数……つまり、目立ったイベントがないだけで、最上さんとは毎日のように顔を合わせている。
たしかに放課後は一緒に過ごす時間がほんのわずかに少なくなったのだが、それだけだ。
最上さんとの和やかなシーンよりも、さやちゃんとのイベントがあまりにも非日常だったせいもあるのだろう。
油断すると幼女成分が強くなりそうで怖かった。
まぁ、最上さんとの日常で特筆するべきイベントがないということは……何も起きていない、平穏なシーンばかりが続いていることである。
それはそれで悪くないのだが、どうしても最上さん成分を摂取しないと気持ちが落ち着かないので、やはり俺としては物足りなかった。
「補講も一週間前の話だ。あの時はちゃんと点数が取れたんだから、今更謝ることじゃない」
「うん。佐藤君のおかげで、ちゃんと赤点は回避できたよ」
「最上さんの努力の成果だ。俺は大したことはしていない」
「……佐藤君はいつもそう言うなぁ。自分の手柄なのにね」
本当に俺の手柄だろうか。
別に俺自身が苦労したわけではない。誇れるほどの作業もしていないので、やはりそう言い張るのは心苦しかった。
「まぁ、俺は調整役だからな。あくまで実績は現場の人間のものだ。納期に間に合うように作業してくれる技術者に感謝することが大切ということで……俺が交渉で決めた納期に文句を言いながらも急いでくれる彼らには敬意を持っている」
「え。な、何の話?」
「……あれだ。うん、過去のトラウマだな」
まずい。うっかり、転生前の話をしてしまった。
最上さんと一緒にいると気が緩んでしまう。無意識に昔のことを語っていたらしい。
営業時代の話だ。
IT系の企業に所属していたので、時折製品の開発なんかも依頼されることがあった。商談相手とは俺が窓口になって交渉するのだが、実際に製品を作るのは技術者たちである。発注を丸投げする立場なので、板挟みにあう営業はたいへんだったなぁ。もうあんな仕事はやりたくない。
「つまり、俺の役割は応援とサポートってことだ。実際にがんばるのは最上さんだから、その功績は君自身のものだろう」
「んー。でも、たまには恩を着せてもいいんじゃないかな? わたしは佐藤君にすごく感謝してるんだもん。好意は嬉しいけど、お返しができないことはちょっとだけむずがゆくて」
なんだこの子は。かわいすぎるだろ。
最上さんは裏方にも感謝してくれるタイプだな。縁の下で働く人間が一番喜ぶことを言ってくれていた。
「その気持ちだけでも嬉しいが……お礼をしてくれるのか?」
「うんっ。前みたいに、ラーメンとか奢ろっか? わたし、実はまた食べたくなっちゃって」
「ほう。最上さんもラーメンを定期的にキメないといけない体になったか……」
「そ、そんな危ない薬みたいな言い方したら怖いよっ」
それはどうかな?
ラーメンは基本的に体に悪い食べ物である。
塩分もカロリーも栄養バランスもすべて崩壊している。ただ、それらを犠牲に圧倒的に美味い。
だから危ない薬とほぼ一緒だ。
ちなみに俺は転生前、ラーメンの食べ過ぎで健康診断で引っかかっていた。アラサーはすぐ体を壊すから辛い。
ただ、今は若くて健康体である。ラーメンはいくらでも食べられるので良かった。
「じゃあ、ぜひ……あ、待てよ?」
お礼はラーメンで払ってもらおうか。
そう言いかけたが、ハッとして中断した。
(せっかくだし、もう少し過激な内容でもいいのか?)
何せ最上さんは、強引に押せば受け入れてくれるタイプだ。
俺が頼み込んだことでスカートも短くなったし、ジャージの上着も脱いだ。おかげで巨乳とふとももがよく見えるのですごく嬉しい。最高のデザインだ。
「最上さんは、俺のお願いをなんでも聞いてくれるのか?」
「なんでもは……え、えっと、分かった。佐藤君が望んでいて、わたしにできることなら、なんでもっ」
「なんでもと言ったな?」
よし。言質はとった。
ラーメンで払ってもらおうと思ったが、その程度ではもったいない。
「バニーガールになってくれ」
と、いうことで。
最上さんには、兎さんになってもらうことにした――。
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