第百十二話 脇役VS主人公という対立軸の物語
かくして、勝負は俺の大勝利で幕を閉じた。
……あまり、こういう強い言葉は使いたくないのだが、どうしてもこう思わざるを得なかった。
(――勝負にすらならなかったな)
完全勝利だった。
もちろん、俺がすごいわけではなく、さやちゃんの思惑通りだったわけだが。
しかしながら。
諦めないというのも、主人公の悪い性質の一つだ。
「――ダメだ」
「はい? 何がですか?」
「ダメだ。さやは、俺の妹だからな!!」
やっぱり。
真田は勝負なんてなかったと言わんばかりに、堂々と宣言していた。
諦めの悪いところは、ファンタジーとかスポーツ漫画だと魅力なんだけどなぁ。
ラブコメだと、演出の仕方次第でただ引き際が悪いだけになっちゃうので、要注意だ。
ちなみに俺は泥臭い主人公は好きなので、高嶺の花であるヒロインに相応しい男になろうと努力する系の主人公は大好きだ。
ただ、真田はそういう爽やかな諦めの悪いタイプではないので、普通に苦手だった。
こいつみたいに無条件にモテるタイプは、もう少し潔くてもいい気がする。
『他にも女なんてたくさんいる!』
これくらい豪快な路線で行けたら、清々しいクズの変態主人公として好感があったのかもしれないなぁ。
なんてことを、ぼんやりと思った。
「さやは渡さない。俺の、俺だけの妹だ!」
「うわっ。この人、負けたくせに約束を破ろうとしています……」
「クソが! こんな奴になんか絶対に渡さないからなっ。さやはどうせ、俺と同じ家に住んでいる……だから俺の妹だ! ばーか、ばーか!」
と、子供みたいにわめいて、真田は喫茶店から荒々しい足取りで出て行ってしまった。
おい、待て。チーズケーキの代金は?
「……お兄さま、ごめんなさい」
さやちゃんも、真田が代金を払わずに逃げたことに気付いているらしい。
気まずそうな表情を浮かべていた。
あー。えっと……別にこの子のせいではないのだ。
こういう顔はさせないように、大人として気を引き締めよう。
「さやちゃんは悪くないよ。気にしなくていい」
「……優しいです。やっぱりお兄さまは本物ですね。あんなニセモノとは大違いです」
実の兄をニセモノ呼ばわりはさておき。
「せっかくだから、俺が食べるか」
甘いものは普段食べない。
転生前、三十歳に迫るほど胃もたれするようになって、食べきれなくなった。
そのせいか、食べようという意思がわかないのだ。まぁ、今は体が若いので、食べても大丈夫だろう。
「いただきます」
フォークを手に取って、一口。
味は……あ、美味しいな。
「どうですか?」
「普通に美味しい。甘さはちょっと控えめで、それが俺にはちょうどいいかもしれない」
「……た、食べたくなっちゃいますね」
「アレルギーだからそれは無理だな」
「うぅっ。だから嫌なのです。さやは別にチーズが嫌いというわけではなかったのですが、アレルギーのせいで食べられなくなってしまって……それなのに、毎年兄が自分の誕生日のたびに美味しそうなチーズケーキを買ってくるので、内心ですっごくムカついていました」
食べたいのに、食べられないもどかしさもあるだろう。
可哀想に……もうちょっと思いやりのある兄がいたら、さやちゃんがもっと幸せだったかもしれない。
「まぁ、とりあえずお灸をすえたことにはなったんじゃないか? 少しはあいつの態度が改善されるといいが」
「ありえません。どうせ家に帰ったら何事もなかったかのように……いや、もしかしたら、お兄さまへの嫉妬心のせいでもっと酷い態度でさやに接してくると思います。あれはそういう生き物ですから」
まるでバケモノの生態を語るみたいに真田について呟くさやちゃん。
やっぱり、二人の間にある溝はあまりにも深くて、大きすぎるな。
(仲裁は無理、か……)
兄妹仲は良くて損がない。
しかも、真田家は両親が滞在していないのだ。二人きりで暮らしているわけだから、理想を言うなら二人で協力して生活した方がいいだろう。
しかしながら、現状はそれも厳しい。
実際、さやちゃんは真田のせいで男子高校生に偏見を持っていた。
初対面時の俺への態度も大変だったので……情操教育にも、悪影響を大きく与えている。
だから、放っておくという選択肢は取れない。
うーん。ますます、真田と対立していくなぁ。
別にあいつと争いたいわけではないので、段々と深まっていく溝は歓迎できるものではなかった。
俺が望まずとも、やっぱり真田とは敵対してしまうのだろう。
そういう物語に、なっているような気がした――。
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