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第百十一話 主人公の惨敗

「はぁ……」


 さやちゃんは大きなため息をついた。


「これだから、あなたはダメなのです」


 それから、吐き捨てるようにこう呟く。


「さやはチーズアレルギーです。そもそも食べられません」


 正直、信じられなかった。

 まさか、そんなことも真田は把握していなかったなんて。


「これはあなたが一番好きなケーキですよね? いいかげんにしてください」


「あ、アレルギー? でも、俺たちの家でケーキと言えばこれだろ!?」


「さやが一度でもいいから、あなたの買ってきたケーキに手を付けているところを見たことがあるのですか?」


 酷い話だ。

 妹のアレルギーさえ把握していないとは……共同生活を送っているのなら、嫌でも気付くだろうに。


 なんというか、このエピソードは真田才賀という人間性がよく出ていると思った。


(自分のことしか考えていない。自分が好きなものを、相手が好きだと勝手に思い込んでいる。自分が世界の中心にいて、その他はあくまでサブにすぎない……そういう自己中心的な思考の結果だな)


 他人のことをまるで考えない。

 思いやりの気持ちもない。


 自分の快と不快でしか物事を判別できないからこそ、さやちゃんにもここまで嫌われているのだ。


「この際だからようやく言えます。さやの誕生日は、チーズが入っているケーキ以外を買ってくださいね」


「そ、そそそそんな……な、なぜだぁあああああああ!?」


「いや、叫ぶほど悔しがるなよ」


 傍観しようと思っていたが、呆れて思わずダメ出しをしてしまった。

 お前は悔しがることができるレベルではないぞ。


「う、うるせぇ! お前がまだ勝ったと決まったわけではねぇぞ!?」


「勝ち負けの話じゃないんだが」


 もうちょっと妹に思いやりを持ってほしい、という俺の意図さえ伝わっていなかった。

 やっぱり主人公という生き物はどうしようもないな。


「さや! お前はパンケーキなんて好きじゃないよな? こんな、ホットケーキみたいな安っぽいケーキが一番好きなんて、そんなことないよな!?」


「あ、無理です。そうやって自分の好きなもの以外を無意識に見下しているところもきついです。パンケーキの良さも分からないような哀れな人間が血のつながっている兄である不幸をさやは呪っています」


 すらすらと長文で悪口を言うさやちゃん。

 日頃から、かなり鬱憤がたまっているんだろうなぁ。


「お兄さまの正解です。さやはパンケーキが大好きです……まぁ、ケーキはどれも一番大好きですが、チーズだけはアレルギーのせいで食べられないので」


 ……なるほど。そういうことか。


(さやちゃん、真田がチーズケーキを選ぶことを予想していたな? だから、こんな勝負内容を決めたのか)


 俺の勝利を確信していたのかもしれない。

 一番大好きが複数ある、という矛盾はさておき。


 もしかしたら、チーズアレルギーだとちゃんと真田に伝えたかった、という意図もあったのかもしれない。

 普段はまったくさやちゃんの言葉を聞き入れてくれないようだが、こういう状況であれば多少は変わると思ったのだろう。真田も、俺への敗北という傷とともに、さやちゃんの体質も理解するはずだ。


「ちなみに、チーズはダメですが他の乳製品は大丈夫です。仮にチーズを食べたとしても、酷い症状が出るわけではないのですが……体にブツブツが出るので、お医者様から控えてねと言われています」


「へー。検査もしたのか」


「はい。幼いころに、両親と一緒に調べてもらいました」


 今でも十分幼いが。

 しかし、そういうことか……実はちょっと引っかかっていたので、補足情報はありがたかった。

 チーズは乳製品なので、バターやクリームなどもダメではないのかなと疑問だったのだ。


「そういうことなので、お兄さまの勝利です。これからあなたは書類上だけの兄で、さやの精神上の兄はお兄さまとなります。なので、失せてください」


 失せろって。

 丁寧な物言いでも隠し切れない刺々しさだった。


「くっ。お、俺が負けるなんて、ありえない……ありえない!!」


 一方、ギャンブルで負けて発狂しているような反応をしている真田。

 両手をほっぺたにあてて、ムンクの叫びみたいな顔をしているが、この酷い結果でここまで悔しがれるのはある意味才能だと思った。


 俺がお前の立場なら、恥ずかしくてこんなに悔しがれないぞ――。


お読みくださりありがとうございます!

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これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m

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― 新着の感想 ―
編集部よ……こんな主人公じゃ魅力のみの字もないぞ なんでこんなものでOK出したんだ…?そりゃあ打ち切りにもなるわ
本当に何が魅力の主人公なんやろなww
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