第百九話 意外とちゃっかりしている幼女
さやちゃんを賭けて、真田と勝負することになった。
……うん。ありのままに状況を説明しただけだが、冷静に見てみると意味不明な文章である。
まぁ、これが俺にとっての現実なので、受け入れるしかないわけだが。
「で、勝負方法はどうする? さやへの愛を多く語った方が勝ちにするか? それとも、さやのかわいいところをどちらが熱く語れるかにするか?」
「やめてください。お兄さまなら嬉しいですが、あなたの発言を聞いていたらきっと失神します」
「失神するほど嬉しいなんて、まったく……やれやれ。さやはブラコンだなぁ」
「……はぁ。ある日突然この人が異世界に転生とかして、さやの前から消えていなくなればいいのに」
ズレまくっている兄妹喧嘩はさておき。
勝負方法なのだが、どうしたものだろうか。
(じゃんけんは……ダメだよな)
真田は気付いているだろうか。
この勝負、実は真田に一切のメリットがないということを。
妹を賭けて勝負というが、そもそもさやちゃんはお前の妹だ。勝ったところで兄弟である事実は変わらない。
だから、俺としては別に負けてもいい。
勝負で決着さえつけば、真田の気もすむだろうという算段だった。
ただ……まぁ、第三者から見ても真田の妹への過干渉は目に余るわけで。
さやちゃんの情操教育のためにも、可能であれば真田の過度な監視を緩和してあげたい。
俺が勝てば、多少は真田への牽制にもなるだろう。
勝負を投げやりにするわけにはいかない。
と、いうわけで。
色々考えた結果、俺は彼女に丸投げすることにした。
「さやちゃんに決めてもらおうか」
「分かりました。お兄さまにしますね」
「いや、結論じゃなくて勝負方法の話だ」
「……そっちでしたか。残念です」
残念ながら、真田はさやちゃんの意思をまるで尊重しない。
だからこの子の選択は無視されてしまうため、勝負方法を決めるだけで我慢してもらおう。
(さやちゃんなら、俺に有利な勝負内容を提示するはず)
そういう目算もある。
真田のことが心から嫌いな子だ。明言せずとも、勝手にそうなるだろう。
「さや。勝負は公平にしてくれよ」
あれ。
真田はもしかして、俺の思惑に気付いたのか。
さやちゃんに念押しするような発言に、少し驚いた。
なんだかんだ、妹が俺に懐いていることに気付いているということか?
……と、思った俺がバカだった。
「俺に有利にしすぎなくていいからな。万が一にも負けることはない。後でこのクズ野郎に難癖をつけられる方が嫌だから、勝負方法は平等にやろうぜ」
逆だぞ。
お前が有利になることなんて、絶対にありえない。
やっぱりこいつはダメだ。
妹に愛されていると心から信じ切っていた。
「ふんっ。うるさいです……」
さやちゃんも聞く耳は持っていない。
真田を胡乱な目で見て、それから何かを考えるように俺の方を見つめた。
くりっとしたまんまるの目がかわいい。
思わず視線を返すと、さやちゃんはちょっとだけ無邪気に笑ってから、ゆっくりと口を開いた。
「思い浮かびました。このメニューの中から、さやの一番好きなケーキを当てて注文してください。事前に紙で書いておくので、それを当てられたら正解です」
なるほど。さやちゃんを理解していたなら、きっと正解できるだろう。
あと、ちゃっかり『注文して』と言っているところが抜け目ない。既にショートケーキを食べているが、実は他にもたくさん食べたかったんだろうなぁ。
「さや、そんな簡単なことでいいのか?」
「あなたに当てられるとは思いませんが」
「俺はさやのほくろの数まで知っているんだぞ? お前のことなんて全て理解しているに決まっているだろ」
「気持ち悪いです」
真田も了承した。勝つ気満々である……まぁ、冷静に考えたら実の兄であるこいつが有利だな。
他人で、しかも出会って一週間程度の俺には不利ですらあった。
「ちなみに、俺も真田も正解できなかったらどうするんだ?」
「その際は二人とも負けということで、さやが兄にふさわしい方を選びますね」
「ふっ。さや、そうやって色々と言い訳しないと俺を選べないくらい、俺が好きなんだな」
「お兄さま。この勘違い野郎をボコボコにしてやってください。さやは信じています」
うん。俺が最終的に選ばれることも確定しているのが、この勝負のおかしなところだった。
真田よ。お前の思い違いは修正した方がいいぞ。
それが通用するのは、お前を愛しているヒロインたちだけだ――。
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