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第百六話 オレ、オマエ、コロス

 いつかバレるだろうなとは思っていたが、こんなに早くその時が訪れるなんて。


「さやぁ……さやぁ……」


 ゾンビみたいに両手を前に突き出して、真田がさやちゃんに迫っている。

 それがあまりにも怖かったのだろう。


「ひ、ひぃいいい。兄です、兄がいますっ。くるなぁあああああああ!!」


 さやちゃんは椅子から転げ落ちるように地面に崩れ落ちて、それから這って俺の足元にやってきた。

 あ、ダメだ。今、俺を頼るのは悪手だぞ。


「お兄さま、助けてください。変態がきますっ」


 ああ、良くない。

 真田の前で俺を『お兄さま』と呼んだら、火に油を注いでいるようなものだ。

 更に言うと、さやちゃんは今……あまりの恐怖で、俺の足にしがみついている。


 実の兄である真田に怯えて、俺に庇護を求めているのだ。

 それが、真田にとっては更なる衝撃だったのであろう。


「――オレ、オマエ、コロス」


「殺戮ロボットか」


 なんで片言になっているんだ。

 いや、あるいは人の言葉を覚えたばかりのバケモノか?


 いずれにしてもまともな人間ではなかった。


(やれやれ……バレたのなら仕方ない)


 できれば、さやちゃんとの関係性は秘匿にしておきたかったが。

 妹を溺愛して、束縛している兄がいて、それは難しかったのだろう。


「なぜ、兄がここに……!?」


「さやぁ……GPS機能って知ってるか?」


「その機能はちゃんとオフにしているはずですが……あ! まさか、さやのスマホを勝手に操作しましたね!? 気持ち悪いっ。本当に、心の底から、ありえません。うぅ……きもすぎるぅ」


 普段は丁寧に話すさやちゃんなのに。

 あまりの嫌悪感で言葉遣いが崩壊していた。きもすぎる、なんて単語さやちゃんから初めて聞いたぞ。


「俺はお兄ちゃんとして、ちゃんと妹を見守る義務があるからな」


「ひっ。と、鳥肌が立ちました。見てください、お兄さま。さやはあの人にアレルギーがあるのだと思います。体中にブツブツが出てきそうです」


「落ち着け。兄アレルギーなんてものはこの世に存在しないから」


「おい。てめぇ、殺すぞ」


「あと、真田も冷静になれ。さっきから俺を殺そうとばかりしてるが」


 ストーキングする兄と、それに発狂している妹と、板挟みになる俺。

 なんだこの修羅場は。頭が痛くなりそうな状況だった。


「さや? なんでこいつを『お兄さま』と呼んでいるんだ? 俺のことは一度も『お兄さま』って呼んだことないのに……あ、分かった。照れて普段はそうやって呼べないから、俺と同学年のこのクソ野郎で『お兄さま』と呼ぶ練習をしていたわけだ」


「ほら、これです。お兄さま、この気持ち悪いポジティブ思考がさやは大嫌いなのです。ぜーんぶ、自分の都合がいいようにさやの思想を捻じ曲げます。消えろ、消えろ、消えろ……!」


 さやちゃんの真田に対する態度が、悪霊を相手にしている時とほぼ一緒である。

 この子にとって兄は、この世にいてはならない存在なのかもしれない。


「ちっ。最近、なーんか他の男の気配がすると思ってたんだよ。さやのフローラルな匂いにドブのような臭いが混じっててな……気になってGPSをオンにしたら、たまたま学校の近くで滞在してて、様子を見に来たらこれだ」


「分かりやすい経緯説明をありがとう。あと、同級生として一言……真田よ。お前、かなりヤバいぞ」


「うるせぇ。妹をたぶらかしやがって! 俺はお前を必ず殺す。さやの愛と、兄としての矜持に誓って!」


「勝手に誓うな」


「さやの愛も捏造しないでください。あなたに対する愛なんて微塵もありません。血がつながっているだけの他人ですからね?」


「ははは。さやはツンデレだなぁ」


「……ぐすっ。さやの不幸は、こんな兄を持ってしまったことです……もうやだぁ」


 可哀想に。

 さやちゃんが体を震わせて泣きだしちゃったので、背中を軽くさすってあやそうとした。


 しかし、目ざとい真田はそれすらも見逃さない。


「おい。俺の妹に触れるな」


「さやがいつあなたの所有物になったのですかっ」


「この子は俺だけの妹だ。お前には渡さない」


「渡される前に、そもそもあなたの手元にさやは存在しませんよ?」


 ダメだ。二人の会話が成り立っていない。

 穏便に解決するには、真田の愛が重すぎて、さやちゃんの嫌悪が強すぎた。


 あー、どうしよう。

 正直、真田のことはどうでもいいので、さやちゃんのことを守ってあげたいところだが。


 一応、この子にとって真田は肉親だからなぁ。

 あまり事を荒立てるのも嫌なので……ここはひとつ、大人として対応するしかないか――。

お読みくださりありがとうございます!

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これからも執筆がんばります。どうぞよろしくお願いしますm(__)m


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― 新着の感想 ―
真田ほんとアレ過ぎるけど、これも全部原作者先生が悪いのでは?
真田ヤベェ〜
親を交えて話すべき気持ち悪さやな……
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