第百五話 バレちゃった
――氷室さんと契約を結んで、早一週間ほどが経過した。
週末以外はほぼ毎日、夕方に顔を合わせて動画を撮影している。エロ売り路線を選んでその道を突き進んでいるわけだが……やはり、エロは強いな。
(あっという間に、フォロワー数が千を超えた)
朝起きてからアカウントを確認するのは、もはや日課となっていた。
昨夜にあげた動画は、すでに再生数が一万を超えている。もちろん他の有名インフルエンサーに比べたらまだまだ雲泥の差だが、このフォロワー数にしては再生数がやはり多い。
(さて、ここからは俺の手腕にもかかっているな)
ある程度、数字は出てきた。
目的のインフルエンサーまでの道のりはもちろん遠いが……少しずつ、近づいている実感もある。
ただ、ここから伸ばすのがまた大変だと思うので。
今日も、幼女師匠に相談するとしようか。
「こんな動画で人気を獲得して嬉しいのでしょうか」
開口一番、さやちゃんの厳しい一言が胸に刺さった。
「ご、ごめん。俺にはこの方法しか思いつかなくて……」
「あ。お兄さまに不満があるわけではありません。この氷室日向という方に不満があるだけです」
児童用の制服に身を包んださやちゃんは、俺のスマホで動画を眺めながら肩をすくめていた。
隣の席に置かれたランドセルが今日も大きな存在感を放っている。女児の神聖さを増幅させるアイテムだ。決して触れてはならない。イエスロリータ、ノータッチのメンタルが大事である。
まぁ、一緒にティータイムを楽しむのがギリギリアウトだという見方もできるわけだが。
でも、今の俺はステータス上は男子高校生である。さやちゃんとは年齢が七しか変わらないのでセーフ……ということにして、自分のことは棚に上げた。
「兄の気を引きたくてアカウントを開設したのですよね? そんな浅ましい動機で始めて、ちょっとセクシーな感じで兄みたいな視聴者ばかり集めてまで、兄に好かれようとするその必死さがさやは理解できないだけです」
今日もさやちゃんの毒舌は鋭利だった。
兄である真田にだけは本当に手厳しい。まぁ、それだけハラスメントを受けているみたいなので、あいつにかんしては自業自得だが。
「でも、俺が関与しているからな。さやちゃんに不快な思いをさせていたら、それは申し訳ない」
「……たしかに、お兄さまの指示でもあるのですね。それでは、先ほどの発言は訂正します。さやの方こそ、言いすぎました。兄が嫌いすぎるあまり、この方の人格まで否定してはいけませんね。ごめんなさい」
悪いと感じたらすぐに謝る。うん、いい子だ。
大丈夫。だいたい悪いのは真田才賀なので、君は悪くないよ。あいつがすべての元凶なのだから仕方ない。
「あ、せっかくお兄さまとの時間なのに、また兄のような邪悪な存在について話をしてしまいました。楽しい時間を穢してしまうので、もう兄についての話題は終わりましょう」
あいつが穢れ扱いされていることは気になるのだが。
たしかに、建設的な話し合いがしたいので、真田については何も言わないでおこう。
「色々言いましたが、お兄さまの目論見通り数字を簡単に増やす方法としては素晴らしいと思います」
「でも、もうちょっと勢いがほしいんだよな……さやちゃん、どうしたらいいと思う?」
「そうですね。うーん、さやなら――あ、ショートケーキです♪ お兄さま、先に食べていいですか?」
「どうぞ。ゆっくり食べてくれ」
アドバイスの前に、腹ごしらえか。
注文していたショートケーキがちょうど届いたので、さやちゃんは目を輝かせてそれを食べ始めた。
「えへっ。お兄さまは、イチゴは最初に食べる派ですか? それとも最後ですか?」
「最初だな。空腹状態で食べる好物が一番美味しいと思っている」
「そうなのですか? それじゃあ、さやは今日から最初に食べる派になりますっ」
いや、もうケーキを食べ始めているから、最初ではなくなっていると思うが。
そもそも彼女は最後に食べる派だったのかもしれない。でも、俺の言葉で簡単に主義主張を変えていた。
……我ながら、かなり懐かれてるなぁ。
もちろん悪い気はしない。家では苦労しているみたいなので、俺の前でくらいは年相応に子供でいてもらおう。
と、いうことで一時的に相談は中断。
さやちゃんが食べ終わるのを待ってから、もう一度動画について聞いてみると……彼女から、こんな助言をもらえた。
「さやなら、場所を変えます。外だけだと、あまり変化がありませんから」
「……たしかに」
「お家の中も良いと思います。家だからこそ、少し無防備な一面なんかも見せると……より再生数が増えるのではないでしょうか。さやも、お洋服がメインですが場所は結構変えていますよ。友達と一緒にお出かけして、色んな場所で撮ったりしています」
「へー。それは参考になる……って、あ」
良いアドバイスをもらったので、もう少し詳しく聞こうと前のめりになったのだが。
しかし、ここで俺は気付いてしまった。
「んにゃ? お兄さま、どうかしました?」
「いや、えっと……あー、これは良くないな」
俺の視線の先。つまり、対面の席に座るさやちゃんの、更に後ろ。
そこに亡霊のように立っていた男を見て、俺は思わず苦笑してしまった。
なぜなら、そこにあいつがいたのである。
「君のお兄さんだ」
いつかバレるだろうなとは思っていたが、こんなに早くその時が訪れるなんて。
「え? 嘘です、そんなこと……ぎゃぁあああああああ!?」
俺に言われて、さやちゃんも気付いた。
そう。そこには、真田才賀が立っていたのである――。
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