第百四話 転生ものであり、タイムリープ……!?
――ただ、最上さんが赤点に苦しんでいることは、やはり何らかの意図を感じている。
(俺が氷室さんに力を貸すと決めて、さやちゃんに相談を持ちかけて……その直後に、最上さんが強制的に別のイベントに巻き込まれた)
昼休みの勉強会を終えた後。
自分の教室で授業を受けながらも、頭の中は最近の出来事でいっぱいになっていた。
(連鎖が続く。歯車がかみ合って、一連の流れとなって何かが蠢いている気がする)
改めて、明言しておこう。
(これは、俺の知らない物語だ)
現在進行形で進んでいるこの漫画の展開を、俺は読んだことがない。
だって、この世界は打ち切りになったはずなのだ。
『もうラブコメなんてこりごりだ(泣)』
作品の終了と同時に、作者のねこねこ先生もアカウントの更新を停止して、連載雑誌の中からも名前が消えて……それ以降、一切の音沙汰がなくなった。
終わり方も酷いものだった。
結局、真田は誰も選ばず、シリアスになることもなく、あっさりと終了したはずである。
しかし……最近の流れは、俺が読んでいたものとは大きく異なる。
(もう分からない。何がどうなるのか、予想もできない。作者のねこねこ先生は、この物語をどこに着地させようとしているんだ……?)
この作品は、真田がヒロインたちとイチャイチャするだけの、どこかで見たことあるような二番煎じのテンプレラブコメだったのに。
もう、そんな既視感のあるストーリー展開ではなくなっている。
(物語は、打ち切りになっていない……ということか?)
もし、そうだとするなら。
それは、作品のファンとしては喜ばしいことである。
しかし、それは同時に、俺の持っている情報が何の役にも立たないことを意味する。
(いや、待て。そもそも、時系列はどうなっているんだ? この作品は、打ち切りにならなかったのではなく……打ち切りになっていない段階、という可能性はないか?)
ふと、気付いた。
俺は作品が打ち切りになった後に、この作品に転生している。
だったら、時系列で考えると……打ち切りになる前、過去に戻っている可能性があるのでは?
(それなら――物語が変わっているのも、納得できるな)
まさか、転生ものであり、時間遡行の要素もあったなんて!
……まぁ、同じ世界に存在しているわけではないので、タイムリープと同じジャンルではないか。
しかし、もしこの仮説が正しいなら、色々な変化も腑に落ちた。
(モブ子ちゃんの覚醒が特異点だ。それがきっかけで、各キャラクターが大きく動き出して……今の状況が構築された)
今、物語は分岐点に立っているのかもしれない。
正ヒロインが、どちらになるべきなのか……きっと、ねこねこ先生は読者の意見を分析しつつ、担当編集と相談しながら、悩んでいることだろう。
ただ、そんなメタ的な部分は登場人物の俺が考えても仕方ないことだ。
(――このラブコメは、真田のものだ。最上さんを、選ばせるわけにはいかない)
やはり、俺がやることは変わらない。
氷室さんに協力すること。そして彼女をパワーアップして、絶対的なメインヒロインとしての座を取り戻す。
そうして、最上さんは真田の束縛から解き放たれる。
仮にそうならなかった場合、あの子は不本意なラブコメに巻き込まれてしまうだろう。それだけは阻止しなくてはならない。
(……でも、なんか都合がいいんだよなぁ)
実は、さやちゃんの登場が俺はすごく引っかかっている。
あの子はあまりにも……なんというか、都合が良すぎるのだ。
たまたま、インフルエンサーの師匠的な存在と出くわすなんて、やはり不自然だとさえ思えてしまう。
それくらい彼女は強力な存在なのだ。俺の絵空事を実現させるための説得力を、あの子が一人で担っている。
結果的に、氷室さんにとっても大きな力となるだろう。
物語としては、氷室さんの復権がメインルートとなっているのか。
でも、それにしては……真田の好意が、最上さんに寄りすぎている気もするんだよなぁ。
もし、真田が最上さんに夢中なら、氷室さんに都合がいい展開なんて普通は起きない。
だから、ご都合主義的な力の中心点は、真田じゃない気がするのだ。
今、誰を中心に物語は進行している?
さやちゃんの存在が都合の良い人物は、誰だ?
それは――
(……俺、か?)
――まさか、な。
ねこねこ先生。俺はただの脇役だぞ?
まさか、こんな名前しか存在しなかったようなキャラを中心に据えているなんて、ありえない。
だから、その疑惑はすぐに頭の中から消えた。
(なんか、嘘みたいに……忘れられそうだ)
まるで、そのことには気付くなと誰かが命令しているかのように。
俺の思考は、すぐに授業内容で上塗りされていった。
なんだかんだ、考えてはみたが。
しかし、余計なことは考えなくていいということだろう。
(最上さんのために、だな)
大好きなモブ子ちゃんが、幸せになる物語。
それが実現することが、俺に与えられた役割なのだから――。
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