第百三話 不真面目なバカならなんとかなるが、真面目なバカはどうしようもない
――昼休み。
普段なら最上さんお手製の弁当を二人でのんびり食べている時間だが……今日は急いで食べ終えた後、俺たちは図書館に来ていた。
本音を言えば、せっかくの手作り弁当なのでゆっくり味わいたかったなぁ。
しかし、そうも言ってられない事情がある。
「ま、まずいよ佐藤君……今日も、赤点かもっ」
そうなのだ。
つい先日、数学の小テストで赤点を取って補講を受けた最上さん。
しかし、補講の後に行った再テストでも赤点だったらしく、今日も補講になってしまったと言っていた。
どうやら、平均点を越えないと補講が終わらないらしい。
もちろん、教師が意地悪をしているわけではない。むしろ数学の先生は極端に低い成績をつけないよう、再テストで救済措置を取ってくれているのだ。これで点数が上がらなければ、低い成績がついてしまう。進学にも響く部分なので、最上さんは必死になっているというわけだ。
「先生に言われちゃった……『不真面目なバカならなんとかなるが、真面目なバカはどうしようもない』だって」
「き、厳しいな」
語調は辛辣だが、実際に最上さんは真面目に取り組んで赤点を取っているので、先生も手を焼いているのかもしれない。
「小学生のころから計算は苦手で……うぅ~。わたし、留年しちゃうのかなぁ」
「諦めるな。俺も手伝うから、一緒にがんばろう」
一教科の赤点くらいならどうにかなると思う。
ただ、やはり今後のことを考えても、真面目に取り組んでおいた方がいい。
(まぁ、俺も別に成績がいいわけじゃないんだがな)
佐藤悟という人間のステータスはどこまでも普通だ。
平均点のやや下か、もしくはちょっと上が定位置である。全て平均点ならそれはそれで特徴的だが、教科によってそれもブレるのが俺という人間をよく表現している。本来であれば、人に教えられるようなレベルではない。
ただ、最上さんはあまりにも低い位置にいるので、俺でも手伝えることがあるというわけだ。
「佐藤君。Xってなに……?」
「変数だな」
「へんすー?」
ああ、ダメだ。
変数の概念を彼女は恐らく理解していない。
最上さんは優等生っぽい雰囲気が出ているので、ちょっとおバカな一面はなかなか珍しい。
(……これはこれで、かわいいな)
ただ、何も分からずにポカンとしている顔も悪くなかった。
最上さんは何をしても魅力的だ。さすが、俺の性癖そのものという女の子である。
「変数についての説明は……したところで、放課後の小テストには間に合わないな」
「ど、どどどどうしよう!?」
最上さんは混乱していた。
慌てた様子で、教科書のページを一生懸命めくっている。いや、めくったところで解決はしないぞ。
うーん。やっぱりこの子は、真面目すぎるな。
テストを、正攻法に勉強して乗り越えようとしていた。
「仕方ないから――暗記でもするか」
ただ、今回に限って言うと、点数を取るだけなら正攻法じゃなくてもいい。
もちろん理想は、勉強して知識を深めることだ。しかしそんな時間はもうないので、その場しのぎでいくしかない。
「小テストの内容は全部同じだから、答えと途中式も覚えてしまった方が早い」
「えっ。そんなズルこと、やってもいいの……?」
いい子だなぁ。
でも、だからこそ数学の先生も『真面目なバカはどうしようもない』とぼやいたのだろう。
先生側も、低すぎる成績を取られると困るのだ。だから意図的に小テストは同じ内容にしているはず。
「やるしかない。そうじゃないと、いつまでも一緒にラーメンを食べに行けないぞ」
俺としても、最上さんには早く自由の身になってほしい。
彼女とは今度、ラーメンを食べに行く約束をしていた。俺はその約束を守って、ちゃんとラーメンを絶食している。だから彼女に赤点を取らせるわけにはいかなかった。
「そうだね……! 佐藤君のためにも、がんばるっ」
「その意気だ。本試験への対策は、また二人でやればいい。とりあえず今は、小テストを乗り越えよう」
「うん!」
と、方針を決めてから、今度は小テストの問題用紙と睨めっこを始める最上さん。
彼女は数学以外ならむしろ優秀な成績を収めている。暗記系の科目も得意みたいだ。覚えるだけなら問題ないだろう。
しかしながら、全ての問題を一言一句覚えるのは、やはり時間的に難しいので。
「この設問は全部で、ここは最後の問題は解かなくていい……それから――」
点数の配分が大きくて、それから覚えるのが簡単そうな部分を俺が抽出して、そこを重点的に覚えてもらうことにした。
そうやって、昼休みは二人で勉強会に励んだ。
……図書館で、二人で並んで座りながらテスト対策か。
なかなか青春っぽくて、悪くないな。
最近は、最上さんの成分が足りなかったので、いい補給になった。
一応、昼休みになったら毎日会っているので、別に彼女との交流が少なくなったわけではないのだが。
それでも、この時間は俺にとってかけがえのない大切な時間だ。
最上さんと一緒にいると、すごく心が安らぐ。
やっぱり俺にとって、彼女は誰よりも特別な存在なのだと、改めて実感するのだった――。
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