第百一話 パンツ見学料千円
「ダメだな」
いつもより低い位置から動画を撮影した後。
俺は画面を見ながら、思わずため息をついてしまった。
「見えすぎだ。もっと抑えめにしろ」
「……っ~!」
俺の指摘に、氷室さんは顔を真っ赤にして拳をギュッと握っている。
恥ずかしいのだろう。しかし、言わずにはいられない大事なことなので、遠慮はしなかった。
「パンツは実際に見せなくていいと何度言えばわかる? 見えるか見えないか、くらいに調整してくれ」
「そ、それができたら苦労しないからっ」
そうなのだ。
先程から、このギリギリを攻めることに苦労している。
彼女も見せたくはないのだろうが、やはりスカートの動きまでは制御できないらしい。何度もチャレンジしているが、どうしてもどこかで見えてしまうのだ。
「……なんかムカつくっ。サトキンに見られているのが納得いかない」
「安心しろ。俺は興味がない」
「その態度も! さっくんだったら顔を真っ赤にして照れるのに……はぁ。なんか損してる気分」
俺の顔色が変わらないのも、彼女の不満要素らしい。
そうは言っても、心の底から興奮していないので解決は難しそうだ。
「あ。そうだ、お金払ってよ。パンツ見学料ってことで」
「新手のパパ活じゃないんだから」
精神年齢がアラサーなので、パパ活というワードがやけに生々しく感じるのが嫌だった。
まぁ、三次元より二次元に傾倒していたので、実際にそういう体験はないのだが。
「千円くらいでいいよ」
思ったより良心的な価格設定である。
しかし、それは大人の金銭感覚の話であって。
「残念だったな、俺は金欠だ。千円なんて払えない」
最近、出費が多い気がする。
最上さんと、それからなぜか湾内さんにも奢っちゃったし、今日はさやちゃんの分も支払った。
今のところ、お年玉貯金を切り崩すことで乗り越えられているが……今のペースだとすぐに破産してしまうだろう。
なので、氷室さんのパンツ見学料なんて払えるわけがない。
「えー。じゃあ、ジュースでいいよ。明日からジュースで支払って」
「……タダはそんなに嫌なのか?」
「すっっっっっっっごく納得いかない。別に好きでもない男子にパンツを見せてるんだよ? せめてお金でも貰わないとやってられない」
「そういうものなのか」
俺には分からない価値観だが。
まぁ、ジュース一本で気がすむのなら、用意するか。
出費としては無傷というわけではないが……このくらいなら、許容範囲である。
「分かった。一応、俺も見たいわけではないということを主張して、譲歩しておく。だから、そろそろいい感じの動画をくれ。日が暮れたら撮影できなくなる」
もう夕日が沈みそうだ。
家に帰ったら編集もしたいので、今日も一本くらいは投稿できるクオリティの素材がほしい。
譲歩したのは、言い争いをしている時間がないというのもあった。
それは氷室さんも理解しているのだろう。軽く頷いてから、再び動画用に踊ってくれた。
だが、撮影が終わったのは結局少し暗くなってからで。
「明るさを調整してなんとかできるか……まぁ、そういった勉強にもなるだろうし」
妥協の上で、本日は終了となった。
氷室さんも、満足のいく動画が撮れなかったので少し悔しそうだ。
「ま、まさかエッチな感じにするとは思ってなかったの……! それを知ってたら、もう少し落ち着いたダンスを選んでたから」
ちなみに、どの曲のダンスを選ぶのかは彼女に一任している。俺は動画を編集する役割で、彼女はダンスを選んで覚えるという分担だ。
今日は少し動きが激しいタイプのダンスを選んでいたので、それが仇になったようだ。
「とりあえずこれで解散だな」
「……ねぇ、サトキン。パンツが見えちゃってる動画はちゃんと消してるよね? まさか、隠して家でこっそり鑑賞しようとか、そんなこと考えてないでしょうね」
なんだそれは。
発想すらしなかったぞ。
そんな下劣なこと、普通はできない。
「一度、さっくんにやられたことがあるの。たまたまなんだけど、私の下着が映っている写真が撮れちゃって……それを、待ち受けにされちゃって!」
またあいつかよ。
下劣な野郎だ。思春期にしても、もう少し情動を抑える努力をしてほしいものである――。
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