夕日
顔が焼けるように熱くて目を覚ます。
確か、学校の3階から落ちたはず。
パイプベッドに白いカーテン。そして、そのカーテンを西日が白く染める。
アルコールの匂いがかすかに漂う。
『ここは病院かな?』まだ、生きていることては、なんとなくわかる。
残念ながら、異世界には、飛ばされなかったようだ。
そして、胸のあたりに何かが乗っているのを感じた。
頭だけを上げて、目で、それが何かを期待をこめて見た。
『よかった。』ぼくが、河川敷で拾った真っ黒な子猫が、僕の胸の上で小さな寝息を立てていた。
でも、ここはどこだろう?病院なんかに、猫は入れないだろうし。
とりあえず、僕は、しばらく、その子猫の安眠を妨げないようにじっとしていた。
そうしながら、体にどこか異常が無いか、確認することにした。
まずは、右手。指を一本づつ動くことを確認した。次に、左手。これも、問題なく動いた。
次は、足を動かしてみることにした。
右足。
『えっ、動かない。』何か重いものを乗せられているようにびくともしない。もしかしたら、神経が切れたのかも。慌てて、左足を動かしてみる。
こっちも動かない。
『えっ?』やっぱり、落ちたときに背中に何かが刺さったという感覚は、夢じゃなかったんだ。でも、背中は全然痛くない。
おもわず、自分の足の状態を確認しようと上半身を起こした。
『しまった!』胸の上の子猫を起こしてしまった。
安眠から、たたき起こされたにもかかわらずその子猫は、
「みゃあ。」といって、嬉しそうに僕に近づいてきた。
「おはよう。もう、夕方だけど。」
子猫のむこうから、
「おはよう。」と女の子の声がした。
「えっ?」と思った瞬間、その子猫が僕の顔の前に、持ち上がった。そして、僕の足もさっきのことがうそのように動くようになった。
「ごめん。重かった?」
「思わず、君の足にもたれかかって、眠ってしまった。」
その子猫の向こうに、僕のカバンを盗んだ犯人が、顔を出した。
「きみ、猫となら話できるんだ?」
僕は、しゃべるの止めた。そして、天井を見つめた。
彼女の言う通りになんかならない。
「きみ、3階から落ちて無傷ってすごいね。」
「ここ、学校の保険室だよ。」
「学校も、自殺かもしれないと思ったから、救急車も呼ばずにここに一目散に運びこんだんだよ。」
「ひどいね、まあ、生きてたからよかったけど。」
『原因は、貴方でしょ?』と言いかけたが、押し黙った。
「無視しないでよ。」
「悪気は、無かったのよ。」
「ちょっと、貴方を試しただけ。」
「子猫は、かばんを投げる前に私が、取り出したから大丈夫よ。」
そう言うと、彼女は、僕の股間をぎゅうと掴んでから、
「ちょっと、先生呼んでくるね。」と言って、僕からその子猫を奪って、保健室から出て行った。