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猫耳協奏曲  作者: 不機猫
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始まり 

「何故?」そんなことを6時限目の授業が終わった教室の3階の廊下で、彼女を追いかけているときに思った。

「何故?何故?何故?の3乗」クラスでも一番目立たない窓際の一番後ろの席のすぐ右側のその右側、オセロなら、最後の最後まで置かれることのない中途半端なところに陣取った(いや、押しやられたと言った方がいいかもしれない)そんなところに座って、しかもこのクラスに3人もいる鈴木姓の一人、鈴木正。点呼も2回に1回は飛ばされ、身長も高くなく、顔もごく普通の人がうらやましく思うような自分の、そんな自分のカバンを、クラスで一番の美人のあなたが、盗んでどうするんですか?

『いたずらなら、辞めてほしい。』でないと、明日からいや、今日から僕は、クラスのいじめられっ子対象第1位に立候補に!、なんてなりたくない。貴方は、自分のこのクラスでの影響力をわかっていない。

それに、今日は、絶対に他の人には見られたくないものがそのカバンに入っている。

『返して。』ただその言葉が出てこない。そう、学校に来てもう1年半にもなろうとしているのに、学校で声を出した記憶が無い。高校生にもなると、休み時間に単行本を開き、自分の世界に逃げ込めば誰も声を掛けてこない。一言もしゃべらずに、簡単に1年は過ごせる。

『いずれにしても、彼女速いな。全然追いつけない。』『いや、僕が遅いのか?』

放課後の人がいっぱいいるその廊下を、右に左に上に下に、まるで猫のようにすり抜ける。

しかも、先生がいてもその視線に入らないように右肩をチョンとして、反対側を駆け抜ける。その視線の先に、小走りの僕がいる。

「おい。廊下を走るな。」そう言って睨まれたら、止まるしかない。

彼女は、そのまま、僕のカバンを持って、階段を掛け降り、いや、掛け上がっていった。

「何故?」そこは、屋上だよ。行き止まりじゃないの?逃げるルートじゃないでしょ?

思ったよりバカなの?

そのまま、階段を下りて行けば、数分後にはグランドに降りて、君は、自由だ。

いや、今も、自由か?こんな僕に摑まる奴なんて、この世に地を這うアリぐらいしかいない。

でも、アリは、噛むから怖くてつかめない。アリも無理か?

そうなことを考えながら、もしかして、屋上から、カバンを放り投げて、万有引力の検証?

いや、今日だけは、それは止めてくれ。

「そのかばんの中には、朝、河川敷で見つけた・・・・」

その時、廊下の窓の外に、僕のカバンが自由落下していく。

思わず、それを捕まえようと身を乗り出す。地球のGにひかれて、9.8m/秒の加速運動を始める前に捕まえる。しかも、捕まえられるかどうかの微妙いや、絶妙な位置。窓から、1m離れた位置を僕のカバンが落ちていく。

窓から手を伸ばし、身を乗り出してやっとカバンを捕まえた。

そして、そのかばんの重さが、僕をそのまま窓の外へそして、自由落下の世界へと誘う。

僕の体が、9.8m/秒の加速度運動を始めた。2秒もしないうちに、地面に叩きつけられる。

運が、悪ければあの世往き。運が良くても、救急車は免れないだろう?

自分が死んでも、カバンの中身だけは守らなければ!

そう思っても、怖くて目を瞑った。そして、地球のGに本能が背を向けろと叫ぶ。

がさという音とともに、背中に何かが突き刺さる。

「ごめん。僕は、もう駄目かも。」

『良かった。カバンの中の子猫は?』そう思ったとたん、意識が僕の体を離れていった。



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