第38話 学校④
意味わからない。
今更?というか知っていたでしょ。私が女の子って。
きっと入学時私を男の子だと思っていた子も、もう女の子だって気がついてる。私を女と知って今まで通りに接しているのだと思う。まず私は一人称が私になってると思うんですけど。
流石にこれくらいの違和感、気づく。
私が思考をして黙っているとさっちゃんの顔がどんどん曇っていく。
やがて泣き出した。
私はドギマギした。
出すハンカチはないので速攻かけ湯して体の汚れを落として、湯船に浸かるさっちゃんの横に腰を下ろした。
泣き止んでくれない。
そら泣く原因になったかもしれない奴が横に座って泣き止むわけないか。
私は、10秒ほど心で数えて湯船を出ようと立ち上がると、手を掴まれた。
「……ねえ待って」
さっちゃんの震える声。
私は振り向く。
さっちゃんは俯いたまま言う。
「私……ごめん。あの……」
どうやらドギマギしていたのは私だけではないようだ。
私は再度座って話を聞くことにした。
さっちゃんは話すのをとても躊躇う。言いたくないなら言わなくてもいい。と私が言ってもどうしても聞いて欲しいと懇願される。告白でもされるのだろうか。
さっちゃんは可愛い。抱きしめたい体をしているし、いい匂いもする。
今は裸だから性的な目で見てしまう。ちゃんとした返答はできないかもしれない。
私はちゃんとした関係がいいのだけれど彼女の望みなら淫らななんとなくのそういう関係も考えるのも悪くないというか……。
「私ね、記憶障害があるの」
私の妄想を断ち切ったのは衝撃の告白だった。
「へ?」
思わずカスみたいな声が出る。
「私、定期的に記憶を失うの。朝起きたらなんかの記憶を何個かさっぱり忘れるの」
私は唖然としたまま彼女の話を聞く。
「記憶を失ったことに気がつくのは話が噛み合わなくなった時で、どの期間の記憶をいつ失うかわからないの。きっと私は、ルキちゃん関連の何かの記憶を無くしちゃった……だって私ルキちゃんのこと全然知らない……元々知らないのか忘れたのか……。それもわからない……」
目を赤くして語る姿を見ると嘘には聞こえない。
「なんで私に言ってくれたの?」
「言わないときっと過去の私が後悔するから」
「……このこと私の他に誰か知ってるの?」
「パパとママと……カズ……。」
予想してない名前が出た。
でもなんとなく納得した。
2人の関係の謎は多分ここにあるのだと思う。
2人きりのお風呂。
さっちゃんは毎日起きた出来事全てを日記に記していること、記憶障害は生まれつきあること、記憶障害は不定期に訪れること、何個記憶を失うかわからないこと、記憶が消えたことは気づけないこと、最初この病に気がついたのは母親の名前を忘れた時だということ。
カズくんの時は、カズくんと初対面だと思って接したら初対面じゃなかったのだという。
その時の2人は顔を知ってるくらいの浅い関係だったとのことだけど本人はそんなこと忘れてるので、もっと深い関係だと思って全て説明してしまったらしい。初めて赤の他人に病がバレた瞬間、相当焦っただろう。
そしてカズくんにバレた日から日記を書くようにしたんだと。
私との今回の場合は大きくぶつ切りに私との記憶を失ってしまい、日記を見る前に私と出会ったのだそう。
更衣室でのぼせかけた体を冷やすため、キンキンに冷えた水を井戸から汲み上げ、飲んだ。なんだかあまり冷たくない。
浴場から出てすぐさっちゃんと別れた。部屋の位置が真逆の位置にあるため。部屋について行こうと思ったけどやんわり断られたのでやめた。
湯冷めしないように小走りで部屋に戻る。
自分の部屋のように踏ん反り返るラビーちゃんのおかえり、にぶっきらぼうに返事をすると、ラビーちゃんが心配そうにこちらを見た。
「え、怒ってる?ねえ、こっち見て」
「うん。ちょっとあとでね」
「え……」
「まあいいからあとでね」
「えーねえ、私と話してよ。ねえちゅうしてあげようか?」
「うん。あとでね。今考え事してるから」
「あっそ。もういいよ。あとでちゅうしてって言ってもしないから」
「うん」
今はルビーちゃんとじゃれる気分ではない。
なんだか自分の体に自分が沈んでいきそうな気持ちだ。
前世、親に借金があると知った時同じような気持ちになったことがある。
かなり大きなお金だった。でもその時未成年で養ってもらっていた私に悟られないように接していた。
私は親がそんなに辛い状況にあるなんて知らなかった。知りたくなかった。
今もそんな気分。さっちゃんはいつもふわふわしてて、頑張っているとは思っていたけど、なんだか余裕があって、好きな人もいて、……すっごく楽しそうにしてたのに、やっぱり演じていたのかな。
こう思い返していると、自然と涙が出る。
ラビーちゃんに見られたくないので、顔を隠して静かに泣いた。
ラビーちゃんはいじけて布団の上で本を読んでいたのでバレることはなかった。
翌日から私はさっちゃんとよく話すようになった。
さっちゃんのためにも私のためにもそうした方がいいと思った。
かなり仲良くなり、さっちゃんの家にもお邪魔した。さっちゃんの匂いに包まれた空間は美味しかった。
学校の時間はラビーちゃんと過ごし、ラビーちゃんが補習の時間はさっちゃんと過ごした。
そしてあっという間に時が過ぎ、2年生が目の前に見えてくる時期になった。
くそ寒くて、息は白いのに、手はじんわりあったかいような、不思議な時期。
人通りのない廊下でさっちゃんに後ろから抱きつき、わざとらしく胸を揉む。さっちゃんは笑いながら胸を揉み返してくる。
こうやって馬鹿やれるくらいには仲良くはなってきた。嬉しい。
そんなある普通の日。
その日のいつもの春と冬の境目のような不思議な時期。
ただその日は拳を軽く握っただけで手のひら全体が暖かくなるくらい体と心は安定していた。
いつも通り授業を受けて、放課後はさっちゃんといる。
さっちゃんの体と心は私ほど安定していないらしく少し期限が悪そうに見える。
さっちゃんは課題に向かいながら、私の顔を見ずに尋ねる。
「なんでずっと私に構うの?」
「え、構っちゃダメなの?」
「そう言うわけじゃないけど裏がありそうです怖い」
「裏なんてないよ。まあでも私のためではあるけど」
さっちゃんのペンが止まる
「そうだよね。私のためってわけじゃないよね」
「まあそうかもね。さっちゃんの記憶がなくなった時私のこと忘れて欲しくないんだもん。みんなの記憶を失っても長く一緒にいた私のことだけは覚えてて独り占めできたらいいなとか思ったこともある」
「えー。なにそれ」
さっちゃんは嬉しそう。
心が安定しない子は必要とされることが安定につながると私は思った。
それに、なんだか彼女をドロドロに甘やかしてあげたい。でもそれは間違い。
さっちゃんは気が良さそうに、話を続けた。
「あのねルキちゃん。私ねカズくんが好きなの」
「うん。なんとなくわかるよ」
「うん。でね、カズくんのことを好きになったのは、カズとエッチしてからなの」
「え」
今なんて?
「私カズくんとエッチしたの。カズくんすごく上手くて、優しいのね、エッチ外も優しいけど、エッチ中はもっと優しいの。いっぱい好きって言ってくれるし」
私は無言で流す。
手はじんわり冷たい。安定が一番だとこの時ほど思ったことない。
「でも私、ルキちゃんが好きになってきちゃった」
「え?」
「あー私、なってきた、じゃなくてめっちゃ君が好き。ルキちゃんは私のこと好き?好きだよね。だってさっき独り占めしたいって言ってくれたし。それって好きだからだよね。私たちずっと一緒にいたいって意味だよね。ねえ教えてルキちゃん。私のこと好き?」
え、いや何?いきなり。え?これ返事に地雷埋まってる?
私は地雷を怖がり、また無言で流した。
「答えてよ!!!」
私の体はびくりとはねる。
こんなさっちゃん知らない。見たことない。こんな裏があるなんて、今まで一緒にいて感じもしなかった。
さっちゃんは私の手を握り、空いたもう片方の手で私の頬を撫でた。
「もういい。きっとルキちゃんも私のことを好きになるから。ねえルキちゃん。私とエッチしよ。私すごく上手いの。私無しじゃ生きられなくしてあげる。」
私は固く閉ざしていた口を開く。
「カズくんは?いいの?」
「あーうん。いいの。だって最近構ってくれなくてすごく寂しかったんだもん。あいつが悪いんだから。だからルキちゃんは気にしなくて気持ちよくなっていいからね」
「ねえちょっと、待って……」
私はそのまま押し倒され、見た目以上の強さで両手を押さえつけられた。
少し痛い。




