第36話 学校②
「ちなみに2人は何組だったの?」
「マロンはね――」
「っ!」
こっちがマロンちゃんなのねと思ったと同時、手がいきなり引っ張られた。
引っ張っていた子はラビーちゃんだった。
「ら、ラビーちゃん、どうしたの?」
「…………」
もしかして怒っているのかなと少し不安になる。
私何かしたかな。
そのまま人混みから抜け、人気のないところに連れていかれた。
「なんでこんなとこ連れて来たの?」
「……」
「ねえ、ラビーちゃん?」
「さっきの子何?」
「え?」
「あの子とどういう関係なの?」
ラビーちゃんは不機嫌そうな顔をしていた。
「……友達だけど」
「……ほんとに?」
「ほんとだよ」
「じゃあなんであの子はあんな顔をしてたの?」
顔?
どんな顔をしていたんだろう。クラス表しか見ていなかったからわからない。
「あの顔は友達に見せるものじゃないでしょ」
「?」
私は首をかしげた。どういう意味だ?
「あんな顔を見せるのは、恋人に対してか、好きな人に対してよ。絶対あの子ルキちゃんのこと好きだよ。ルキちゃんもあの子のこと特別に思っているんじゃないの?」
なんでそうなるのかわからない。
本当にただの友達なのに。
私が黙っていると、ラビーちゃんは私の手を振り解き、言った。
「もう!この浮気もの!」
そして目から雫が漏れる。私たち付き合ってた?
しかし、私はこんなになっている子をほっとけるほど冷たい人間ではない。
「ラビーちゃん。ごめんね」
私はラビーちゃんの手を両手で握った。振り解かれそうになってもいいように、できるだけしっかりと。そして目をみた。
「私、よくわかんなくて……何かしちゃってたらごめんね。でもラビーちゃんのこと大好きだから、私の行動全てにラビーちゃんを傷つけ得る意味はないから」
「好き?え、今好きって言った?」
「え、うん。大好きだよ」
「……もっかい言って?」
「……大好きだよ」
「……あのルキちゃん!」
「ずっと思ってたけど、ルキでいいよ」
「じゃあルキ。あのさ、ラビーも、あの――」
「あ、いた!」
ラビーちゃんが何かを言いかけた時、マロンちゃんが私たちに声をかけてきた。
そして近づいてきて私の腕を掴んだ。
「もう、いきなりいなくならないでよね!心配しちゃったじゃん!」
「ごめん、でもちょっと用事があって」
私はラビーちゃんの方を見る。
「ごめん続きお願いしてもいい?」
「……もういい」
「え、なんで」
「ねえ、もういいって言ってんだから、マロンと一緒に来てよ」
「あ、ちょっと待って」
「いいから」
マロンちゃんはラビーちゃんをちらりと見て私をこの場から引きはがすかのように手を引いた。
強引だった。
マロンちゃんは私の腕を掴んだまま、必死で歩く。
「入学式遅れるよ」
そのままマロンちゃんに連れられて、大きな部屋に着いたが、人など1人もいなく、入学式が今にも始まりそうという雰囲気ではなかった。
マロンは無言でその光景を見ている。
時間を間違えてしまったのだろうか。遅れたか、早すぎたか。
「ごめん。ちょっと早く着きすぎちゃった。あ!あそこの椅子で時間までお話ししてようよ」
「あ、早かったのか。え、でも、うーん。あそこ勝手に座ってもいいのかな」
「大丈夫だよ、多分」
また強引に引っ張られて、マロンの指定した椅子に座ってしまった。
「ねえ、ルキって呼んでいい?あとマロンでいいよ」
「いいよ。マロン」
「ねえマロンさ、ルキちゃんのこともっと知りたいな」
「うん、私カレーライスとかめっちゃ好きだよ」
「カレーライスって何?オムライスじゃなくて?」
「おっと」
カレーライスはこの世界にまだ無いのか。
「間違えた、オムライスって言おうとしたんだよ」
「ルキちゃんって天然?」
「いや、違う。本当に間違えただけ」
「えー嘘だ。天然なやつほどそう言うんだから」
「本当に間違えたやつも言うよ」
マロンは黙ってニマニマとしていた。
黙ってニマニマしないで。怖いから。
やがて人が1人、また1人と入ってくるようになってきたので、解散して自分の席へ行った。
そして入学式が始まり、終わった。
どこに行ってもこういう場での先生の話は長いらしい。
そして、入学試験で試験監督だった先生が私たちのことを教室に案内した。
その『私たち』の中にはマリンちゃん、マロンちゃんはいなかった。
クラスを聞きそびれたが、あの子たちは私より入学試験の成績が良かったのだ。
6組に入り、必要な情報のみ的確に言い終わると、先生はさっさとどこかに行ってしまった。
今から放課後。
帰りの準備はマイペースにやる派だ。
そうしているうちにラビーちゃんが私を迎えに来た。
「ルキちゃん、6組……なんだね……」
息が軽く荒い。
相当急いでやってきたのだろう。
「あの女が来る前に早く帰ろ!」
「あの女って、マロンのこと?」
「マロン……ね。要注意人物リストに入れておかないと」
「何それ」
ラビーちゃんはマロンちゃんのことをなんだと思っているのだろうか。
ラビーちゃんと同じ友達、なのに。いい子なのに。少し強引なところはあるけど。
「まあまあ、じゃあルキ、行こっか」
私の部屋は1608号だ。
「ルキの部屋ここなんだね。1608……」
中には家具がそろっていた。トイレもあった。でもお風呂は共同のようで、中には設置してなかった。
ラビーちゃんは私の部屋に入って最初は緊張していて、綺麗な姿勢でそわそわしていたけどしばらくすると、私のベッドで横になり始めた。
「ラビーちゃん、私の部屋だと落ち着かなくない?」
「そうでもないよ?」
京都人っぽい言い回しは無効だった。
まあそらそうか、彼女は日本を経験していないのだから。
「……私がいたら迷惑??」
ラビーちゃんはきゅるりとした目で上目遣いを食らわせてくる。
「ううん。迷惑じゃないよ……」
あ、かわいい顔に反応して口が勝手に。わざとだってわかっているのに。そこまでして私の部屋に泊まりたいのかと思うと、可愛くてしょうがなかった。
「そっか。よかった!」
やっちゃった。私の体は正直だ。厳密に言えば口なのだが。
私は、ラビーちゃんに帰ってもらうことは諦め、しょうがないので勉強机に座った。
ベッドでゴロゴロしたかったな。
あ、そういえば、教科書に名前書こ。
思わず前世の名前を書きそうになりながらも、私は名前を書いていく。
書き終えてパラパラと中身を見ていくと、魔法が関係ない教養科目は前世の小学生で習う範囲くらいの物ばかりで正直余裕だったけど、魔法関連はさっぱりだ。
今まで魔法を感覚で使っていたツケが来た。
これから大丈夫かなと不安になる。
なんとなく開いた、歴史の教科書。
まだ数ページしか見ていないけど、とんでもなく面白い。まるで創作物だ。
時間を忘れて熟読していたら戸をドンドンと叩く音がする。
立ち上がるついでにラビーちゃんのはだけた布団を綺麗にかけなおし、扉を開ける。
そこには見たことない女の子がいた。
「今から一年生のお風呂の時間だから」
ラビーちゃんを叩き起こして、その女の子についていく。
その子は自分のことを一年生女子のリーダーと言った。
各年代男女別にリーダーがいて、それらをまとめるのが生徒会。ということらしい。
お風呂は大浴場だった。やけにガラガラだがお風呂特有のいい匂いがする。硫黄かな。
シャワー代わりのかけ湯をすまして湯舟に浸かる。やたらと近いラビーちゃんと一定の距離を取る努力をしながら。
風呂から上がると、無料の牛乳を流し込んだ。
「ぷはっ……濃すぎんだろ」
思わず声が出た。この世界にきて初の牛乳。私が知ってるものよりめちゃくちゃ濃い。
あんましおいしくない。
部屋に戻ると、私は苦笑いする羽目になった。
ラビーちゃんが帰らない。
なんでまだ私の部屋にいるのだろうか。
明日から学校でしょ。
正直に言うか。
「ラビーちゃん。あの、自分の部屋帰ってよ。私もう寝たいし」
「……え、ラビー床で寝るから。今日も泊めてよぉ。お願い」
「うーん」
「お願い、お願い」
どうしよう。
ここまでお願いされると、困るな。
私は押されると、いいよと言ってしまうタイプなのかもしれない。
「まあいいか、いいよ。今まで色々お世話になったしね」
「やった」
「でも私もう寝るからね」
「おやすみ。私ももう寝るよ。ルキと話さない夜は暇だしね」
ラビーちゃんは固く、布団のない床で寝始めた。
本当に床で寝るんかい。
こういう時本当に床で寝られると、めちゃくちゃ申し訳なくなってくる。
「ラビーちゃん。……あのこっちくる?」
「え、いいんですか?」
「その代わり引っ付かないでね」
「………………うん」
「……やっぱりちょっとはひっついていいから」
翌日から学校生活が始まった。最初の授業からガチだった。
こんなにちゃんと勉強したのは初めてだ。
しっかりメモを取り、授業後は質問をしに行く。
休み時間はありがたいことにマリンちゃんマロンちゃんそれとクラスの新しい同級生たちが私の机を囲んでくれた。
しかし私はそこで行われる気になる男子の話には全く興味がないので、適当にうなずきながら自作の単語帳をめくっていた。
こっちは単位一個落とせば除籍なのだから。
しかし、こんな私を仲間はずれにしないみんなは本当に優しいのだと思う。
初めて迎えたテストは勉強をしたかいもあり、学年10位だった。脳汁が出るっていうのはこういうことなんだと実感した。
ラビーちゃんは実はかなり馬鹿だった。テストで赤点をとっていた。でも2組だから私より教科が難しいだけなのかも。
そのせいで、最近は補習続きで私の部屋には来てない。
あー私の部屋はこんなにも広かったのかと実感した。
少し寂しくも感じた。夜は暇だった。
さらにいつものどうでもいい、どこから仕入れたのかわからない話を流し聞く生活にすっかり慣れていたので耳が切ない。
布団に顔を埋めるとラビーちゃんの髪の匂いがほのかにした。そして私は気がついた。
私はラビーちゃんに心細さ、不安を、忘れさせられていたのだと。
2026/1/17
12時56分微改稿




