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第30話 誘拐⑧

 血を出しすぎて目がかすむ。前がよく見えない。

 ……誰かが私を支えてくれているようで体がすごい楽だ。柔らかいし。

 なんだかお日様のようなにおいと、汗のようなにおいが混ざったような香りがする。臭くはない。

 むしろ――


「いい匂い」

「え?」


 この声は……サターズ?

 サターズらしき声はずっと私の横でなっている。


 「ねえ、大丈夫?!」

 「まずいわ……すごい怪我してる。ねえ誰か回復魔法使えない?」

 「……」

 「みんな首横に振って…………まあさすがに使える人いないわよね。……どうしましょ」


 サターズらしき声が止まり、やっと私の声が届く。


「ねえ、サターズ……」

「ルキ?!私が分かる?」


 やっぱサターズだ。私が太陽だと思っていたものはサターズだった。

 サターズは血だらけで汚い、そしてかなりグロい状態であろう私の体を躊躇なく支えてくれたのだ。


「ね、ねえサターズ聞いて……」

「何?!」

「もう帰れるよ。この部屋から出ても……ドンバには何も言われない……」


 きっとこの子たちがこの部屋から出られなかったのはドンバ含め幹部がいたからだ。部屋から出たら奴らに何かしらされていたのだ。そのくらいの理由がないとあのサターズがこの鍵もない部屋で、おとなしくしないだろう。幸いドンバは私が倒したし、ほかの幹部は戦闘中。だから今しかないのだ。少なからずラビーちゃん以外も怪我をしている、早く逃げてもらわないと。

 

「ルキは?!」

「私は……行くところがある……」


 そうだ。私は武器庫に行かないとならない。あそこにはきっと回復魔法が使えるアゲーラも来る。


「あなたのその体じゃ無理よ!」

「私の言うこと……聞いて!」

 

 私がぎりぎりの体で、迫力のない声で叫ぶとサターズは一瞬驚いて、悔しそうな、悲しそうなそれでいて優しい顔をした。

 

「……わかったわ。そのかわり、死んだら許さないから」

「うん」


 サターズは「離すわよ」と言い、私から離れた。

 途端に体が重くなる。

 サターズは私から離れたあとすぐに周りにいる女の子に声をかけている。うっすら聞こえるサターズの説明は驚くほどうまい。やっぱりサターズは頭のキレる子だ。


 脱出方法を説明していたサターズは誰かと揉め始めた。揉めてる相手は声からして、ラビー?


「やだ!」

「いいから言うこと聞きなさい!」

「ルキのところ行かせて」

「ルキが逃げろって言ったのよ!」


 サターズが私の名前を出すと、ラビーは黙った。



 サターズたちが私の横を通りすぎていくときのラビーの泣きそうな声での「死んじゃやだからね!」という叫びは今も脳にこびりついている。


 

 ――――



 さらになったフラフラの体で、剣を杖の代わりにして、肩を壁にこすりつけながら引きずるように歩いた。

 視界ってこんな暗くなるの?って疑問になるほどくらい。画質の荒い白黒映画を見ているみたいだ。



 どのくらい歩いただろうか。

 突然広いところに出た。


「ルキ?!」


 この声は……アゲーラ?


「大丈夫か!」


 その声は近づいてきた。そしてわかった。声の主はアゲーラだ。


「おまえ、怪我やばすぎるだろ。どうやって生きてんだよ……。待ってろ今すぐ回復魔法かけてやる。……生命の息吹を与え、癒えよ……ヒール」

 

 アゲーラが私の額に手を置いて詠唱すると、私をフルーツのような優しい匂いが包んだ。

 その匂いは私の体の痛みをどんどん飛ばしていく。


「ゴホッ」


 乾いた咳とともに血が出た。でもこれで肺の中はすっきりした。

 切り傷もみるみるうちにひいていく。


「悪い、これが俺の限界だ」


 アゲーラはこう言うが、かなり楽になった。血も完全に止まっている。残念ながら右目と左腕は復活しなかったけど。


「いや、十分すぎるよ。ありがとう」



 左目の視界が戻りクリアに世界が映る。


「ねえ、アゲーラは勝ったの?」

「当たり前だ」

「てか、戦った?」

「何言ってんだ。あたりまえだろ」


 アゲーラは本当に戦ったのかと思うほどピンピンしている。服もめちゃくちゃきれいだし。アゲーラはもしかするとめちゃくちゃ強いのかもしれない。


「ほかはまだ帰ってきてない?」

「いや、あいつも勝利を収めて戻ってきているよ」


 アゲーラが顎で指した方向には血だらけのセルジオが寝っ転がっていた。

 寝ているのか、気絶しているのか、勝利とともにくたばったのか、どれともとれる寝転び方だ。


「あれ生きてるの?」

「一応」


 セルジオの体を見れば見るほどすごい戦闘をしたんだろうなと容易に想像できる。

 あいつも回復魔法をかけてもらっているようだが、かけられる前は私と同じくらいボロボロだったのだろう。



 体に回復魔法をかけてもらって体から痛みがなくなったおかげで一気に眠気がきて、私は武器庫の扉付近に腰を下ろした。

 しかし私は怖くて寝られない。私は寝た瞬間肺を自分で焼く夢をループする。あの夢はリアルすぎて痛みを感じるのだ。よって、寝る=地獄。


 私が絶対に寝ないように瞼を上に引っ張ってうとうとしていると、私がドンバと戦っていた方向から鎖を引きずる音が聞こえてくる。


 音を出している正体が壁裏からヌルっと姿を現した。それはハッチだった。

 ハッチも血だらけで、右足は複雑骨折というのだろうか、なんかぐちゃぐちゃになっている。とても痛そう。


「ねえ、足、大丈夫?」


 私はハッチの足を指さす。


「大丈夫なわけあるか、死ぬほど痛てえわ」


 ですよねー。


「悪いアゲーラ、回復魔法つかえるか?」

「ああ」


 ハッチは足が治ると、私の横に腰を下ろした。

 周りを見渡すとここには全員いる。

 まさかの私たちの全勝になるとは、正直驚きだ。というか、冷静に考えて私ってあんなに強かったっけ?

 ドンバの剣を捌けたし、リズムゲーだからといって、相手のチート移動攻撃をはじいたし……。私の体に何か起きているのだろうか。

 ま、ちょっと成長しすぎているだけか。

 努力の結晶ってことにしときましょ。


 ハッチにもどうやら眠気が来ているらしく、ウトウトし始めた。

 なんだかここで寝たらまずい気がする。


 「ねえ、アゲーラ、ハッチ!ボクたちここからでよ!」


 私はハッチを起こすため少し大きな声を出した。

 すると、ハッチは軽く目を擦り「そうだな」とつぶやいた。そし大きなあくびをかました。


 アゲーラは無言でセルジオを自分の首に担いだ。前からうすうす感じていたがアゲーラは頼れる兄貴って感じだ。優しいし、イケメンだし。


「ほんんじゃ行くか」というハッチの言葉で私たちは動き出した。

 ハッチはこの施設のマップを完全に頭に叩き込んでいるらしくて、迷うことなく、出口にたどりついた。幹部がいないので堂々と出口から出られる。

 

 そういえば幹部以外の部下みたいなやつらどうした?、とハッチに聞いた。しかしその質問に答えたのはアゲーラで、どうやらアゲーラとセルジオが片付けたそうで、そのついでにつかまってたほかの男の子たちも逃がしたのだという。なんと仕事ができるんでしょうか。

 私も見習いたいものだ、と思ったが私も女の子逃がしてたことを思い出した。つまり私もシゴデキってわけ。


 私たちが外に出ようとしたとき、大地震が起きたのかと思うような地面の揺れが私たちを襲った。

 するとアゲーラが「早く外にでろ!物が落ちてきてつぶされるぞ!」と叫ぶ。

 私たちはその声に急かされて、慌てて外に出た。


 外はお昼くらいの時間だろうが、黒い雲でかなりくらい。今にも雨や雷が起きそうだ。そしてこの突風がやばい。台風や嵐が来ているのかと思うような風が私たちを襲っている。

 

 外に出てわかる。さっきの揺れは地震ではなかったのだ。揺れは起こったのではなく、起こされていた。


 起こしている正体は少し遠くにある平原のようなところにいた。私たちはそれに少しずつ地下図いていく。えーっと正体は……フレアさん?!

 そう、揺れのもとはフレアさんだったのだ。


 遠くに見えるフレアさんはいつもと様子が違う。うまく説明できないけど、なんだか荒いというか、凶暴性があるというか、端的に言うとまるで獣のようだった。

 そのフレアさんは人型の何かを振り回しながら地面に叩きつけている。たたきつけるたび、血のような赤い液体が飛び、地面のひびが大きくなっていく。揺れはこの振動だった。


狂戦変化(マッドシフト)


 アゲーラはボソっとつぶやく。


「え?」

「ルキ、フレアと一緒に冒険しててしらないのか?」

「うん。知らない」


 アゲーラは疑念の表情を私に向ける。


「ほんとに一緒に冒険してるの?」

「してるって!」


 アゲーラは私の言葉を1ミリも信じていなさそうだ。


 フレアさんは私に隠し事しすぎてる。まったく、あとで問い詰めてやる。


 アゲーラは狂戦変化(マッドシフト)というのがフレアだけが使える、魔王級魔術だとおしえてくれた。なんでも、ものすごい身体強化をしてくれる魔法だという。


 だから凶暴性を増しているように見えるのか、と納得した。

 しかし強いな。強すぎる。


 フレアさんは人型の何かを陸上競技のハンマー投げのように振り回し始めた。

 もちろん回す速度は前世にあるハンマー投げのようなスピードではない。竜巻が起きるのではないかと思うほどの速度。なんなら起きているのでは?

 そしてフレアさんはそれを手から離すと、こちらにものすごい速度で飛んできた。

 もしあれに当たったら即死すると肌で感じる。それは私以外の二人も同じだった(セルビアは寝てる?)

 急いでその場から離れる私たち。

 

 その数コンマ何秒か後、地面が割れる轟音がが鳴り響き、私たちがさっきまでいたところから砂嵐のような砂煙が舞い上がる。

 砂煙が落ち着いたとき、そこには底が見えなくなるほどの深さの穴が開いていた。私たちは投げられた正体を確認する。なんとなく想像はついているが。


 想像通り、投げられた人型の何かは、魔王級冒険者ネイビだった。

 すなわちフレアさんは魔王級冒険者相手に圧勝を決め込んだということだ。


 さすがに強さのレベルが違いすぎる。

 この日私は魔王級という称号のすごさと、フレアさんの強さを再認識したのだった。

毎日投稿するって自分の中で決めてたのに、やっちまいました。すみません。

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