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第27話 誘拐⑤

 扉を開けて中に入ると、ドンバらしき人は見当たらなかった。その代わり私に視線を集中させている私より少し年上くらいの女の子たちが数十人いた。女の子たちの顔は完全に怯えてきっている。

 女の子たちは派手な色のドレスをそれぞれ身につけていて、顔には綺麗なメイクが施されている。ここはお花畑のようだ。

 ただ私が注目したのはドレスでも、女の子の顔でもなく、壁際で這いつくばっている赤いドレスを身につけている女の子。

 私はその女の子に駆けていった。

 女の子はまだ生きている。というより、命に関わるような怪我はしていないように思う。きっとこれは心がやられている。直感がそう言った。


 私は女の子の赤いドレスをよく観察した。

 よく見ると無理やり脱がされて、もう一度着させられた痕跡がある。


「ごめんなさい。失礼します」


 私はそう言うと、ドレスのスカートの中を覗こうとした。

 すると赤いドレスの這いつくばっている女の子が暴れ出した。

 そして見ているだけだった他の女の子たちが私を止めに入る。


「この変態!何やろうとしてるわけ?!」

「ほんと、ここにいる男はクズしかいないのね!」

「男なんて全員死ねばいいわ!!」


 女の子たちは一斉に私に罵声を浴びせて叩く蹴る。


「痛い!痛い!」私はそう言いながらガードしていた。

 ヒールのかかとの部分が体に刺さって痛い。


「このまま死ね!!」


 ざまあみろと言うように攻撃を続けてくる。

 もうこれはしょうがないので私の正体をあかすことにした。幸いここには女の子しかいない。


「私、女!」


 私が声をあげると、攻撃の手がピタリと止まった。


「本当に?」


 黄色のドレス、少しオレンジも混ざった金色の髪の女の子が私を睨む。


「ほんと」

「じゃあ確かめるわよ」

「いいよ」


 黄色のドレスの女の子は私の胸を撫でた。


「ないじゃない、胸」


 は?流石に怒りますよ!


「もう!!」


 私は彼女の手を取ると自分の足の間に持っていった。

 女の子は何かを探すかのように手を動かす。


「こっちも何もないわ。たまもぼうも。この子正真正銘女だわ」


 黄色の女の子がそう言うと、周りの女の子の顔から少しだけ緊張の色が抜けた。そして次々と私に対する謝罪の声を出す。


「なら、なんでこの子を襲おうとしたわけ?」


 黄色の女の子は床に這いつくばる赤い女の子を指差して言った。

 この子は私に謝罪してくれなかった。なんならなぜみんなは謝っているの?、と疑問に思っていそうである。


「いや、襲おうとしたわけじゃないよ」

「じゃあ、何しにきたわけ?」


 私はこの問いの返事に戸惑った。全部説明するのは正直めちゃくちゃだるい。とりあえず助けにきたとでも言っておくのが吉だ。


「君たちを助けにきたんだよ」

「あんたみたいな腕のないガキには無理よ、」

「かもね」

「何よそれ!ちゃんと返事してくれる?」


 私は適当に話を続けながら「ごめんね」と赤い女の子のスカート中を覗いた。

 赤い子は私が女の子だと言う一連の話を聞いていたらしく、暴れなくなっていた。

 私はもう一度「ごめんね」と言うと女の子のパンツを下げた。パンツがもともと赤いので判別できない。

 赤い女の子は顔を赤らめて、黄色い女の子は私の頭にゲンコツをした。

 私はそれを無視してスカートに顔を突っ込む。

 私は指を唾液で濡らす。


「んあっ、やあぁぁぁ」


 赤い女の子は小さく悲鳴をあげた。

 

 指には血が付いていてた。スカートから顔を出して、血を観察する。

 この血は生理のものではない。つまり乱暴されて初めてを取られた時の血だ。

 この子は乱暴されて精神にダメージを受けていると理解した。この場合はとにかく優しく、不安にさせないように接するのが一番だ。

 私は女の子にパンツを履かせた。

 

 何をしたか理解した黄色いドレスの女の子は「そんな風に確認しなくたっていいでしょ!私にまず聞きなさいよ!」って私に腹パンをした。

 なかなかのいいパンチだった。でもこれはしょうがない。



 私は血を見て前世を思い出した。無理やりされるのがどれだけ辛いことか。

 あれは生き地獄だ。本当にそんなことする奴は死ねばいいと思う。


「ねえこの子誰にこんなことやられたの?」


 私は黄色いドレスの女の子に聞いた。


「頭のおかしい剣を持った人」


 はいビンゴ。狂剣士じゃないか。

 私にはドンバを殺す二つ目の理由ができた。


「その男はどこ?」

「今どっか行ってるわ」

 

 黄色いドレスの女の子は続ける。


「なんか、売れ残ったからって言ってた」

「売る?」

「私にもよくわからない」


 黄色い子は私の顔に顔を近づけて、耳打ちをしてきた。


「私たちは人身売買の商品になるのよ、この子達は何も知らないようだけど」


 なるほどね。ドンバもそのボスも流石に気持ち悪すぎるな、

 自然と剣を握る力が強くなる。


 この黄色いドレスの女の子はおそらく相当頭のキレる子だ。

 今までうっすらと感じていたものが耳打ちという行為で確信に変わる。

 この子は”私たちは売られる商品だ”とみんなの前で堂々と言うとみんながパニックになると理解している。

 私とそう歳も変わらなさそうな子が、正気を失ってもおかしくないこの腐った環境でそんな判断ができると言うのはすごいことだ。


 みんなが異様に落ち着いているのもきっとこの子がずっとみんなのことを励ましていたからだろう。根拠はないけどなんとなくそんな気がする。


「あんた、ほんとに私たちを助けるつもりなの?」

「ほんとにほんとだよ」「もう大丈夫だからね」


 黄色いドレスの女の子に返事をした後、赤いドレスの女の子の頭を撫でた。

 

 赤いドレスの女の子のきれいな茶色の瞳から大粒の涙が零れ落ちる。

 私はその涙が綺麗な赤茶色の髪に零れ落ちないよう親指でふき取った。


「君はなんて言う名前なの?」

「……ラビー」

「ラビーちゃんね。今までよく頑張ったねラビーちゃん」

「うん」


 ラビーは小さくうなずいた。


「私はサターズよ!」


 黄色いドレスの女の子は聞いてないのに名前を名乗った。


「君はサターズちゃんね」

「サターズでいいわよ、それよりあんたの名前は?」

「ルキ」

「ルキね!覚えたわ」


 サターズは他の女の子の紹介をしてくれたが、早口言葉みたいに名前を連続で並べながら説明するので結局誰の名前も覚えられなかった。


 私はドンバを待っている間基本ずっとラビーのそばにいた。ラビーが可哀想で可哀想でたまらなかったので、頭を撫でたり、手を握ったり、など心を癒せる私ができそうなこともできる限りやった。

 

 流石にドンバが来るのが遅い。

 ここでドンバに会えるって話だったのに。

 さっきまでの人を殺したくないと思う気持ちはどこに行ったのやらと思うほど今はドンバを殺してやりたい。この子達を見るとさらにその気持ちは膨らむ。……探しに行こう。


 私が立とうとした時、右小指を引っ張られた。


「やだ….行かないで……」


 指を引っ張ってきたのはラビーちゃん。

 ああ可愛い。抱きしめてあげたい。美味しいものを苦しくなるまで食べさせてあげたい。


 私は「大丈夫だよ」と言い離れようとする。


「やだ….。ラビーとずっと一緒にいて、ずっとラビーの手握っててよ….」

「でも、ラビーちゃんたちを傷つけたやつを倒しに行かないと」


 そう言うとラビーは黙った。相変わらず小指は引っ張られたままだけど。

 私は左手がないので小指を剥がすことができない。

 どうしたものか。

 困っているとサターズが私の小指からラビーの手を引き剥がした。


「いやぁぁぁ!」


 ラビーちゃんは叫び、手を暴れさせた。

 サターズはラビーの手を押さえる。


「ちゃんと倒してきなさいよ!ヘマしたら私たちが末代まで呪ってやるから!」


 失敗したら末代は私だよ。


「私ヘマしないから」

「ほんとかしら」

「気長に待っててね」

「待ってられるか!早くしなさい!」


 私はサターズのツッコミに顔を綻ばせつつ扉に向かって歩き出した。


「ルキちゃーん、行かないでよー!」

「ちょっとあんた!私がいるでしょうよ!私じゃ不満?!」

「ルキちゃんがいいの!」

 

 少しみんなが元気になってくれてよかった。

 私はラビーとサターズが言い合っている声を聞きながら扉を開けた。


 私が扉から出た時、廊下にはハッチと壁の残骸が転がっていた。ハッチの目の前の壁にはには大きな穴があった。


 ハッチは私に気がつくと「ちょっと油断した」と言い訳をした。

 そして「お前も頑張れよ。前からお前が戦う相手来てるぜ」と言いながら、片手で鎖をブンブンと音が出るくらいに振り回して穴の中に戻って行った。


 私がキョトンとしていたら前からコツコツと足音が聞こえてくる。

 前には寝起きだとわかる情けない顔をした剣を持つ男がいた。


 こいつがドンバか。

 

「ふぁぁ。眠いなー。….君だれ?」

「あんたドンバか?」

「ピンポーン。正解。で、君はなんのよう?」

「ボクと戦ってよ」


 私はこんな強気でいるけど体は正直で心臓バックバク。でも恐怖と同じくらい怒りが溢れる。


「戦ってもいいよ!でも君片手だから俺も片手でやるね!」


 ドンバは片手で剣を構えた。


「痛かったら叫んでいいからね」


 しかしそう言うドンバは戦おうとせず、思い出したように構えていた剣を見始めると、突然剣を舐め始めた。そしてふと我に返ったように剣を口から離す。


「ボス!!俺がこいつを殺したら、俺の頭を撫でてくれますか?!」


 そして天を見上げて叫び出す。

 私の手は今までにないほど震えていた。

 挙動がおかしすぎて怖い。危ないおくすりでもやってんのか?こいつは。

 

「じゃあやろうか。かかっておいで」


 ドンバは今までの狂気はどこに行ったのかと疑問になる声色とトーンで突然私を見ると、剣を構えた。

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