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第21話 人探し④

 私が目を覚ました次の日からもエン君がご飯をもってきてくれた。

 持ってきてくれ始めたときはフレアさんの真似をしてあーんして、食べさせてくれようとした。

 本気で拒んだ。でも母親に似て頑固でわがままのぼんくらだった。

 大丈夫だって言ってんのに「いいからいいから」って食べさせようとしてくる。

 最後は無理やり唇に押し当てて口内に入れようとしてくる始末。


 食後にはミイさんがセミポーションをコップに入れて持ってきてくれる。

 1日が終わるころフレアさんはミイさんとエン君に絶対に部屋に入るな言い聞かせて私と二人きりになる。そして、私の体をふいてくれる。

 少し恥ずかしい。いや、まあさ、上半身をふいてくれるのは良いんだけど下半身までは拭いてくれなくていいって。背中さえ拭いてくれればいいのに。

 別に普通に生活できるのに。



 


 今日はお昼にハンバーグが出た。相変わらずエン君は食べさせようとしてくる。

 もうそろそろこのくだりにも飽きてきた。

 この子がこんなに食べさせようとしてくる理由は私のことが好きだからだ。

 好きゆえの気遣いを食べさせることでしているのだろう。

 前世では、私たちくらいのお年頃の男の子は好きな女の子に意地悪するのことが多いと思うが、意地悪でなくて気遣いができるのはまあ感心っていうか、認めてあげてもいいって感じだけどさ、自分のための気遣いはモテねえぜって思う。


 エン君が私のことが好きだと分かったのはつい最近、というか昨日のことだ。

 夜もう寝る前という時間、片手でこの家にたまたまあった魔導書を読んでいたら顔を綻ばせたミイさんが部屋に入ってきた。


「よかったわね!ルキちゃん!」

「え?」

「エンがルキちゃんに惚れちゃったんだって!」

「は?」


 どうやら助けられたときは性別が分からなかったけど、家に帰ってきたときに私が女だと知ったらしい。

 女と知ってから私のことをもう一度見たとき可愛いって思って惚れてしまったというのだ。

 そしてミイさんは私のことをエン君のお嫁さんにする気持ちがさらに強まったと。


 本当に嫌かも。申し訳ないけど。


 次の日からはみんなと一緒にリビングでご飯を手べるようになった。

 出てきたのはパンとレタスとハムと牛乳。いつもとそう変わらない献立だ。

 私がリビングに行ったときみんなはすでに椅子に座っていた。

 この家には父親がいない。聞いた話によるとこの父親は冒険者をしていて、そしてそれなりに名は知れているらしい。ヨブソというこの家の父親のことをフレアさんに聞くとフレアさんは知らないと言う。まあ1~2級も冒険者だろうということだ。フレアさんは基本魔王級の冒険者のことしか知らない。1級以下ならもし戦うってことになっても勝てるからだそうだ。圧倒的な実力差で。

 この話を食卓でするもんだから空気が張り詰めた。ここは名前”は”知ってるとだけでも嘘をついてほしかった。魔王級が別次元というだけで1~2級も十分すごい。それは私が一番知っている、あの4級のサソリは初見ではかなり強かったし。

 私が椅子に座るとみんなの食事が始まった。


 エン君は食事中私の顔をチラチラ見てくる。正直食べにくい。


「へールキってベジファーストなんだね」

「……」


 そうだった、この人私のことルキ呼びだったわ。

 私たちがため口で話し始めたことがきだった。あっちがため口だったので、こっちだけ下になるのは癪だと思ったから私もため口で話す。 


「あ、ルキ牛乳つけてひげみたいになってるよ、拭いてあげるね」


 エン君は身を乗り出して私の顔に触れようとしてくる。

 私はエン君の手を華麗に回避すると机に置いてあった質素なハンカチで唇らへんを拭いた。


「やーね、ルキちゃん、せっかくエンが拭こうとしたんだから避けることないじゃない」


 いや、ちょっと反射で。すいません。

 フレアさんは一連の流れを見て牛乳を吹き出した。


「そんなに俺の指いや?」


 エン君はキザな笑顔で言った。

 指じゃなくて君が嫌っていってやろうかと思ったけど、さすがに言えないので、「多分」といろいろな意味を濁しに濁した言葉を使った。


「多分って、せっかく左手の代わりになってやろうって思ってたのに」


 それはフレアさんに頼むので大丈夫ですけど。

 私は無言でパンをひと齧りした。


「一口ちっちゃい、かわいいね」

「ありがと」


 かわいいという言葉にはしっかり感謝しないとね。もう2度と言ってもらえなくなるかもしれないから。


 私の反応にエン君は顔を綻ばせ、それが気づかれないようにするためか、顔を下に向けた。

 パンを食べて、次ハムを食べたいときはフォークに持ち換えるためにいちいちパンを置く、フォークを持つという2工程を踏まないといけないのがめんどくさい。

 今までなら片手にパン片手にフォークってできてたのに。


「俺が食べさせてやろうかって」

「大丈夫だって」

「いいって」

「いいからいいから」

「だから嫌なんだって」

「え……」


 私の嫌だという言葉にエン君は体の動きを止めた。

 ちょっと言い過ぎたかもしれない。とそれを見て一瞬思ったけど、エン君のこれからのためだと自分に言い聞かせた。


「ちょっといいすぎじゃないの?」


 ミイさんが入ってくる。


「ただ自分の気持ちを表に出しただけだとおもいますよ」


 それ対してにフレアさんがすました顔で言い張った。


 少しバチバチのフレアさんとミイさん、絶望して、悲しそうなエン君。そんなちょっと気まずい朝ごはんを何とかやり過ごした私は自分の使った食器をキッチンに持っていく。

 私はミイさんに許可をもらうと、私はぎこちない動作で食器を洗う。左肩を下に突き出せば一応両手は食器に届くので左手で食器を擦ることは可能だった。

 お世話してあげたんだからエン君と結婚しなさいなんて言われたらたまったもんじゃないから今日からはできることはできるだけ自分でやると決めていた。


 私が洗い始めて少しするとエン君が横に立った。


「俺も……手伝うよ」


 そういって手づだってくれるエン君の身長は私よりも高くて、手は大きかった。

 私が手を滑らせて陶器のコップを落とすと、おっと、といってエン君はキャッチした。


「ルキってもしかしてドジ?」

「うるさい」

「へードジなんだ、そういうとこもかわいいね」

「ありがと」


 ありがと、という言葉にエン君の手が止まる。


「どうかした?」

「い、いや、なんでもねえ」

「ふーん」


 なんでもねえというその顔の目の焦点はわたしに向けられたなかった。意図的に逸らしていたようにも思う。

 その様子をミイさんが微笑ましそうに、フレアさんは納得いってなさそうに見ていた。二人とも見ているだけで何も言わない。


「な、なあ、ルキって……」「……好きな奴とかいるの?」


 エン君は気持ち悪いほどの間を使って私に尋ねた。

 いきなりのそういう系の質問に少し動揺したけれど私の心は20を超えている。そんなのへっちゃらだよ。


「いないよ」

「まじ?」


 尋ねた時より1トーン高い声でエン君は言った。


「え、じゃあさ好きな、た、タイプってどんな人?」


 そういえば考えたことなかったかも。私は聞かれてそういえばと思った。

 正直に言えば同性が好きだ。でもキモがられるかも。聞いているフレアさんに。それは嫌だ。

 私の正直は心の奥底にしまうことにした。


「うーん、考えたことないな」

「え、じゃあさ、髪が短くて、ちょっとさっぱりした顔で、ルキより背が高い男とかどう?」


 エン君が挙げたその特徴はエン君の特徴だ。これがタイプだということはエン君がタイプだということと同義。


「うーん……」


 私は期待させるような間をわざと作った。きっとエン君の心臓はバックバックのドックドックだろうな。


「タイプじゃないかも」

「え?」「え?!」


 エン君とミイさんの言葉がシンクロした。

 そしてエン君は明らかに肩をしぼめた。



 次の日の朝。私たちはもともともらえるはずだったエン君救助の報酬から今までお世話になった感謝代と食材代を抜いたものをもらった。大体銀貨5枚。そして今まさにこのお世話になった家を出て行こうとしている。


 エン君は別れ際またあの質問をしてきた。


「なあ、ルキのタイプって何なんだよ、最後に教えてくれよ」


 前とは違いエン君の顔は真剣だった。フレアさんは興味なさそうにしている。ミイさんは手を組んで教会に祈るようなポーズをして何かを望んでいる。


「んーとね」「私より強い人!」


 エン君とミイさんは膝から崩れ落ちた。

 フレアさんは声にならない笑いをした。

 こうなることはなんとなく予想していた。エン君は私に助けられたのだから。


 私は二人がちょっとかわいそうだったので、最後に捨て台詞を吐いた。


「じゃあ私が死にかけてるときに待ってるね」


 私のその言葉にエン君は顔を上げた。希望をまとったような顔で。


 私たちは軽く挨拶をするとその場をあとにした。

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