第20話 人探し③
ハンター → 冒険者 に変更しました。ごめんなさい。
私しかいない部屋にコンコンとノックの音が響く。
「今日は、ハンバーグだよ」
「ありがと」
「やっぱ食べさせてあげようか?」
「遠慮しときます」
エン君は張り付けたような笑顔で私に晩御飯を持ってきてくれた。
最近、エン君が私にご飯を持ってきてくれる。こうなった原因はやっぱりあのカブトムシのせいなんですけど。
私が目を覚ますとそこはベットの上だった。相変わらずあのクソみたいな例の夢を見て起きた瞬間から鬱。
首を動かそうとすると、寝違えたときのような痛みがあったので、目だけを可動域限界までグルリと動かした。
ベットに顔を埋めて地面に座っている、フレアさんがいた。
私はどのくらい寝ていたんだ?
「え、起きてんじゃん!」
ふと顔を上げたフレアさんの口からそう声が発せられた。
フレアさんの顔は鼻と目が真っ赤で、泣いた跡がくっきり。今も泣いてる。
「よかったよ!!起きてくれてありがと!!」「あと、ごめんね……。」
え?ごめんね?何が?
もしかしてエン君助けられなかったの?私が途中で気を失っていた間に新しい魔物でも現れたの?
…………。
私は圧倒的な身体的違和感を感じる。
左手を上げると、手首少し上から先がなかった。違和感の正体はこれ。
まじか、手、ないじゃん。ポーションは?再生しないの?
「そう、それ、ごめんね、腕、戻せなかった」
そうなんですね、と言いたかったけど言葉が喉奥で詰まって出なかった。心の奥底では大きなショックをかんじていたから。
「じゃあこれからは、フレアさんが左手の分だけ、少し助けてくださいね」
出せた言葉はこれが精一杯だった。
「うん……」
こんなシリアスな状況でも私は人間だ。
ギュルルルとおなかの音が部屋中に響いた。
「あーそうだよね、おなかすいたよね」
そう言うとフレアさんは部屋を出て行った。
右手だけでベットを押して、体のバランスを取りながら体を起こして、ベッドに座る姿勢をとると動かしにくい首を少し動かして、部屋を見渡した。
ここはベッド以外何もない部屋でガラリとしていた。ぱっと見は宿だ。でも私たちは金なし。泊まれるわけない。ミイさん家だろうか。
コンコンとドアからノックが聞こえると私の返事の前に扉が開いた。
入ってきたのはフレアさんではなくて、男の子だった。
「初めまして、俺の名前はエンって言います、あの、これお昼ご飯のおかゆです」
ああ、見覚えあると思ったらエン君か、ひきつった顔しか見たことがなっかたので、気が付かなかった。
「え、っと私ルキって言います、はじめまして」「あと、おかゆありがとうございます」
「あ、っはい」
エン君の顔はみるみる赤くなり、私と目が合っていたのをあっちからそらした。
ん?どうした?
「じゃ、あのここ置いときますので」
エン君はベットの端におぼんを置くとスタスタと部屋を出て行った。
ちょい、これどう食べんだよ。首動かなくて、左手ないの知ってます?
はーー、とため息が漏れる。
私がどうやって食べようかと考えていると部屋にフレアさんが入ってきた。
「あ!あの子マジで気がきかないのね!まったく!これだから過保護は……」
ちょいちょいちょい。それ私にも当てはまってそうだからそうやってぼそぼそっといわないで。
フレアさんがぐちぐち愚痴を言いながらおぼんの上のお椀を持ちあげた。
「はい、あーんして」
「あーん」
おかゆの少しの塩味とうっすらとした卵の風味が口に広がって鼻の穴から抜けていった。
懐かしいな、なんか前世のちっさいころを思い出す。
風邪ひいたときのお母さんって気持ち悪いくらい優しかったっけ。ベットに入って療養という名目でゴロゴロしてるときに電話がかかってきて、「今スーパーにいるんだけど買ってきてほしいものある?」なんてきいてきたりもしたな。ふふふ。
「どう?おいしい?」
「はひ」
「よかった」
「ミイさんって料理うまいんだよね、はい、あーん」
「そうなんですね、あーん」
ご飯を食べさせてもらっているときに、手のことを聞いた。
フレアさんの手が止まり、口が寂しくなる。
「あの、あーんしてもらってもいいですか?」
「あ、ごめん、はい、あーん」
「あーん」
フレアさんは申し訳なさそうに話始めた。
ルキちゃんが穴に入ってからもうすぐ一時間。
心配だな。やっぱあたしもいった方がよかったかな。でも穴ちっさすぎるんだよね。
この穴じゃあたしの胸がどうしても引っかかってそれ以上進めない。
やっぱり無理か。
あきらめて穴のそばで座った。
しばらくすると、土がこすれる音が穴から漏れてくる。
ルキちゃんが戻ってきたんだ。よかった!とりあえず一安心。
穴からちっさなかわいい顔が出てくる。でもいつもの顔ではない。疲れ切った、血だらけの顔だ。
今すぐに療養が必要だと顔だけで分かる。あいにくポーションは手元にない。
ルキちゃんは動かなくなった。
え、ルキちゃん?
「ルキちゃん!大丈夫!?」
とりあえず穴に手を突っ込んだ。服をつかもうと思ったが、ない!
服がない!なんで?
「ルキちゃんごめん!」
私はルキちゃんの顔と首をつかんで、ひっぱった。
これはルキちゃんの首起きたとき痛むだろうな。
でもそんなこと気にして優しく引っ張ることはできない。今のルキちゃんは数秒が生死を分けるかもしれない。
穴からルキちゃんがズルリと落ちるように抜けた。
私は抜けた瞬間ルキちゃんから手を放してしまった。そしてその手を開きそうな口を押えるのに使ってしまった。
ルキちゃんが地面に落ちる。ゴトッっという音でハッと自分がやったことにきがついた。
ルキちゃんの上半身はベージュっぽいキャミソール姿でその上には何も着ていない。そして着ているはずのそれは腕に巻き付けられている。服の下からの腕はない。
「あのー助けてもらってもいいですか?」
中から声が聞こえてくる。
ああ、そうかこの声はエン君か。
助けることに成功したんだな。こんな姿になってしまったけれども。
「穴から自分ででてこれるでしょ」
「あ、そっか」
くそ時間がないときにこのクソガキとっとしやがれ、あとルキちゃんはやらねえからな。
出てきたエン君はルキちゃんほどではないにしてもけがをしていた。
じゃあついてきてとルキちゃんを抱えながら歩き出すとエン君は足を少しひねって痛いと言い出した。最初は無視していたけど、何度も言ってうっとうしかったし、歩くのがおそくて、ルキちゃんが心配になったのでエン君も抱えた。
エン君は年齢相応のエロガキだ。抱えているとき私の胸をチラチラ見ていたのは気づいているからな。
家に着くとミイさんが出迎えてくれた。最初はエン君と、ミイさんの感動の再開で、抱き合って泣いていたけど、ルキちゃんを見せると、ミイさんは血相を変えた。
「あらやだ!エン君のお嫁さんが!!」
だからちげえって。
家の奥をどこにしまったっけなーと声を漏らしながら探し始める。
私はその間に、ルキちゃんと二人きりになると、ルキちゃんの服を脱がせた。
右脇のあたりにはうっすらと切られた跡がある。そして体中は泥と砂と土と血で汚く汚れている。
私は淡々と体の汚れを取った。
ミイさんに何かルキちゃんに合いそうな服はないかと尋ねると男物しかないけどと、言ってタンクトップを渡してきた。
この女!知ってるか?ルキちゃんの胸はクソほどぺったんこだから服越しで見たら男だけど脱いだら先っちょがぷっくりしているんだよ!
タンクトップじゃ透けるじゃねえかよ。
「ほかにないんですか?」
「あら、やっぱり透けるの気にするかしら」
「そ、そうですね」
もうなんか苛立ち超えて呆れてきた。
そしてミイさんはセミポーションと、少し厚手の半袖を手渡してきた。
「ごめんなさい、ポーションこれしかなかったわ」
セミポーションか。まあ応急処置には最適だ。
セミポーションは回復術士が作ったものではなくて、商業用のポーションだ。つかれ、骨折くらいまでの怪我なら完治する。でもセミくらいじゃ欠損した手足は再生しない。そして何よりも3日ほど毎食後飲む必要がある。
「いえ、全然大丈夫です。」
私はセミポーションをうけとった。そして口の中に水魔法を生成して軽く流し飲むと次に、手にしているポーションを1回分くらいの量を口に入れて、飲み込まずルキちゃんに口づけをした。
液体を自分の口からこぼさないようにルキちゃんの口に流し込む。首の位置を詰まらないように気をつけながら変える。
「あら、やだ。」
ミイさんはポッと顔を赤らめた。
冒険者からしたらこんな状況は当たり前だ。恥ずかしいもクソもない。
液体を飲込んだルキちゃんの体中の傷にうっすらと膜が生成されていく。
そして空いていたお客さん用の部屋にルキちゃんを寝かせた。
3日間ルキちゃんが目を覚ますことはなかった。その間毎食ご飯を食べさせる代わりにセミポーションを飲ませる。
3日のうちに折れていた骨も体の傷も完治した。でもおもったより首を痛めているらしく、まだ首だけは少し痛むだろう。もしかしたら脊髄軽く傷ついたのかも。まあ軽く傷つくくらいなら治るけど。
4日目の昼ルキちゃんは目を覚ました。
つまり今。
「で、私がここにいるということですか?」
「そう」
「へー……。」
この首はフレアさんかよ。
「はい、ラスト、あーん」
「あーん」
最後の一口は冷たかったけど少し甘いような気がした。




