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第1話 転生

  見知らぬ天井。

  嗅いだことのない匂い。

  出ない声。


  大量の疑問が頭を駆け巡った後考えるのをやめた。


 ……というか体が全く動かない。

 匂いもだんだん強くなる。

 香ばしいような薬のような匂いだ。


 もしかして病院?

 死にかけていた私を誰かが助けて病院に連れて来てくれたのか?

 もしそうなら、助けてくれた人には申し訳ないけれど、あのまま死なせてくれた方が楽だったかもしれない。

 生きていたところで、もう意味なんてないのだから。

 どうせここで生き延びてもまともに体を動かせず介護を受けてなんとか生きているだけの人生になるだろう。

 頑張ろうとしてもただ歳をとって醜くあらがっている見せ物にしかならない。

 それなら私は私を選ぶ。

 お医者さまが来たら相談してみよ。


 そんなことを考えていたら何かが体の浅いところから何かが込み上げて来た。抑えたくても抑えられない。

 そしてそれは放出された。


「おぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 溢れ出したら止まらない。本能のままに体を委ねることしかできない。

 私は何故か泣いてる。

 そう気がついた時体が追いついてくる。

 叫んでいるので喉が痛くなるし、体も熱くなるし、全身が暴れて制御が効かない。

 しばらく声を出して泣いていると遠くから何か音がした。


「#########」


 これは言葉だ。何語かわからないけど。

 言葉を発していた人?は私を持ち上げて抱いた。

 私の体重は$€キログラムだから人間として重いほうではないけど、こうも簡単に持ち上げられるのはすごいな。

 でも30年くらい眠っていてずっとチューブで食事をしていた、とかなら痩せている可能性もあるのか……。

 じゃあ私もしかして今おばさん?!

 号泣してるおばさんを抱いているあなたすごいですね……って言いたいけど声は出ない。


 抱かれている間は不思議な気持ちだった。

 根拠のない安心が心を満たしている。さっきの殺して欲しい、そのような気持ちは消えて永久にこのままでもいいな、とも思った。

 

 なんだか抱かれて揺らされていると眠たくなってきた。私にはこれを耐えられるほどの忍耐力はないのでそのまま眠りに落ちた。


 ――――


 ここで3日ほど生活してみてわかったことがある。

 私を抱いた彼女は狂っている。

 初めてそれに気がついたのは目を覚ました日の夜だ。

 私が何故かまた飽きもせず自分でもうるさいと思うほどの声で泣いていたら再度抱かれた。そして寝かされるのかと思いきや、今回は口に突起物を押し込まれ何か甘いものが口にながれこんだのだ。

 それは人肌の温度でミルクのような匂いを発しているものだった。

 私はそれがなんだか速攻で理解した。

 そう、みんな大好きなおっぱいだ。

 私はおっぱいを飲まされていたのだ。


 見知らぬ女におっぱいを飲ませる女は狂っているに決まっている。

 私これからどうなるんだろう。



 ――


 ここで生活して1ヶ月ほど経った。

 ここで1つ言うことがある。私が狂っていると思っていた彼女は狂っていなかったのだ。

 どちらかというとおかしいのは私だった。


 何がどうおかしいのかというと私は赤ちゃんになっていたのだ。

 お前、赤ちゃんプレイは身内間のみにしとけよ、って思っているそこのどこかの誰か!言っておくが私の趣味は赤ちゃんプレイなどではない。そこだけは間違えるな。

 話を戻すと私はプレイなどではなくリアルベイビーだったのだ。

 それに気がついたのは最近だ。

 私の視力が戻る?発達する?……まあ見えるようになってきた時私の手が極小化しているのに気がついたのだ。

 もうそれは私自身赤ちゃんになっているという事実を知るのには十分だった。


 そうつまり、転生している。

 信じる信じない以前に紛れもない事実。

 まさか私の願いが叶ってしまうとは、いざとなったら神だのみも十分ありだな。

 しかし転生したのはいいのだがここはどこなのだろうか。

 天井や空気感的には日本ではない。

 一応私は生前マルチリンガルだったので親であろう人の喋る言語から推測できると思ったのだが、私が知っているどれとも違っていた。

 つまり、アジア、欧米である可能性は消えた。ブラジルとかかもしれない。

 まあどこであろうと私は今からここのネイティブスピーカーだ。気にすることはないでしょう。


 あー私転生しちゃったんだ。ふふふふ。もうこれからが楽しみすぎて笑いが止まらないよ。

 あ、そういえば私中性顔の美少女になっているのかな。



 ――――

 

 転生してからおそらく数ヶ月が経った。

 赤ちゃんというのは暇との戦いだ。

 転生したての頃、私はスマホ中毒だったのもありスマホのない暇というのは地獄だった。

 音楽聴きたい、SNS確認したい、そればっか考えて1日を過ごしていたことは今も覚えている。ほんの数ヶ月しか生きていないのだけど。


 今となったはもうスマホなしにも慣れた。

 最近の暇つぶしは寝ること。寝るっていうのは最高だ、泣かなくて済むし、気がつくとめちゃ時間が過ぎているし、健康的だ。現代の日本人こそ寝ることを暇つぶしにしたほうがいいでしょ。


 でも時々寝ることにも飽きる。

 そういう時は泣くのが一番だ。

 泣くとママとパパが駆けつけて遊んでくれる、ベロベロバーとか。


 遊んでてわかったのだが、母親は綺麗な赤髪ロングで中性的とは程遠い可愛い系の顔立ちをしている美人。父親は青髪短髪の女顔イケメンであった。あまりにも遺伝子が強いので私の顔生成は大成功なのだろうが、問題なのは中性的であるかどうかだ。

 神様頼むぜ。


 ――――


 転生してから数年経った。

 私は歩くことができるようになったし、普通にご飯も食べられる。発音はまだ拙いけど言葉も大体わかってきた。もう名前もわかる。


 私の名前は『ルキ』

 父親の名前は『ロイ』

 母親の名前は『ミア』


 だ。ルキという名前は私的にはかなり気に入っている。

 

 歩くことができたことに伴い私は自分の顔を確認できるようになった。

 この家にはどうやら鏡がない。そのため水の反射での確認だった。

 でどんな顔だったのかというと……中性顔美少女でした!

 でもちょっといい顔にしすぎな気もする。

 髪色は綺麗な紫だった。


 ――


 これは少し前の、私が初めて脱おっぱいして普通の食事をとった日の話。


 私はその日突然やって来た。気づくと私はおっぱいを飲ませてもらえなくなり、いつのまにか普通の食事を摂ることになった。


 初めて普通の食事とった日、私は初めて食卓に行った。

 食卓に行くといつも見ているロイ(父)とミア(母)以外に私と同い年くらいの可愛い女の子がいた。

 めちゃくちゃ可愛い赤が強めの赤紫の髪の女の子。中性顔のとは言い難いザ女の子って顔。かなりミアよりだと思う。

 その子は人見知りなのか全然話してくれない。

 私が一方的に自己紹介なり話をしている状況にどうしようか悩んでいると、ロイが痺れを切らしたかのようにその女の子について紹介してくれた。


「ルキ、この子の名前はルリだ。ルキの双子の姉妹だよ」


 双子の姉妹だと?!

 まさかそんなものがいるなんて全く知らなかった。

 まあずっとベット生活だったので無理もないと思うけど。


 


 私はどうしてもルリと仲良くなりたくてできるだけルリと接するようにした。男の子が好きな女の子にアタックするくらい積極的に。

 それを続けていく最初は私を避けていたルリもだんだん私に心を開いてくれた。


 そして現在


 今となっては大の仲良しだ。ルリはなんとなく姉妹という感じがしなくて幼馴染みたいな感じだ。

 姉妹なら嫌われてもいいって雑に扱うのだろうけど私はルリに好かれたい。できることならルリの一番になりたい。本気でそう思っている。

 姉妹でそんな関係はキモいだろうけど、さっきも言ったように何故か姉妹として見れないのだ。


 そして今はちょうどルリともっと仲良くなるために家の探検をしている最中だ。

 探検をしている感じこの家は多分お金持ち。とにかく部屋1つ1つが広くて、廊下も大きい。お城ほどではないけどね。

 

 ――――


 今日もルリと遊んだ。

 子供は遊ぶことが仕事みたいで実に楽だね。もう一生子供のままでいたい。


 ルリとどっちが積み木を高く積めるか勝負をしているのだがルリは実に器用だ。

 あんな小さい積み木で東京タワーのようなものを作って見せたのだ。みたいなものというかマジの東京タワーじゃねこれ。まあ生まれてばっかのルリが知るわけないか。


「あ……」

「あ、ルキの負け~」


 私はルリのスゴ技に見入っていたら自分の手の動きに油断が生じて、そこそこ積んでいた積み木が崩れてしまった。

 まあどうせ限界まで積めてもルリにも敵わなかっただろうけどね。


「もう1回する?」


 ルリはとびきりの笑顔で提案してきた。私に勝ってさぞ嬉しそうだ。


「もうやらない」


 私はなんとなく悔しかったので提案を断った。


 でも断ると次する遊びがなくなってしまうので新たな遊びを考えないといけない。私くらいの歳の子供は普通何して遊ぶんだろうか。おままごと……。あ!そうだ。ミアの料理の手伝いをすればいいんだ。


「ねえ、お母さんのお料理のお手伝いしない?」

「え、いいよ!やろ!」


 ルリはかなりノリノリだ。


 リビングに行くとミアは昼食の準備をしていて、見た感じまだ料理を開始してそう時間は立っていない。これなら野菜を切ったりなどの初期の私たちができそうな料理の手伝いができる。


「お母さん、私たちがお母さんのお手伝いしてあげる」


 私たちの言葉を聞いたミアはとても嬉しそうに私たちに料理の手伝いをさせてくれた。

 ただ柔らかい野菜を包丁で切るだけの手伝い。たったそれだけだったがとても楽しかった。私は前世の記憶があるので、それなりに野菜の切るうまさには自信があったのだけど、ルリは私以上にうまかった。本当に手際がいい。


 切った野菜をミアに渡すとそこそこの大きさの鍋のようなものに水とともに入れた。

 そしてかまどのようなところに設置する。


「じゃあ火つけるから離れてね」


 ミアがそういうので離れたところで料理の続きを見ていたら、火のつけ方がイカれていた。ミアは手から私が感じた最初に感じた薬の匂いを発生させ、火を出し始めたのだ。

 もう意味が分からない。

 ふとルリの顔を覗くとルリも驚いていた。というか驚きすぎ。腰を抜かす勢いだ。


 料理中ミアはこれが魔法であるということを教えてくれた。


「そのうちあなた達も使えるようになるよ」


 私は地球のどこかの日本ではない別の国に転生したと思っていたけど実際は魔法が存在している異世界に転生してしまったのだ。

 ……異世界、か。まさかそんなことが起きるとは。いや、まあ異世界転生ものの作品は知っているけれど本当に起きるなんて。しかも私が。

 ということは私がこの世界を救ったりするのかな。すごい能力が発現しちゃったりしてさ、魔王なんかを簡単に倒しちゃったりして!うふふふふ!


「ルキ……どうしたの?」


 私はルリの言葉で妄想から現実に引き戻された。


「あ、ごめん、ちょっとボーっとしてた……」



 というわけで私が転生した先は異世界でした。



 ――

 

 今日は私とルリの6歳の誕生日だ。


「ルリ!ルキ!誕生日おめでとう!」

 

 ロイは嬉しそうだ。もしかしたら私たちより私たちの誕生日パーティーを楽しんでいるかもしれない。

 

「ありがとう!」

 

 私達の声が重なる。

 二人で顔を見合わせてにんまり。


「6歳になったということはそろそろ魔法の勉強だな」

 

 ロイはニヤニヤしている。

 どうやらこの世界では6歳から魔法の練習を開始するのが普通のようだ。ということはやっと私の禁断の力が解放されてしまうということか。


「お父さん!早く魔法したい!」

 

 しまった。楽しみさのあまりつい言ってしまった。


「じゃあ今からやっちゃうか!」

 

 それを聞いたロイはめちゃくちゃ嬉しそうで、興奮していた。ロイも早く魔法を教えたくてうずうずしていたんだろう。


「今からご飯なんだから食べ終わってからでもいいじゃない」


 ミアがロイを止めようとしてもロイは止まらない。

 早速ロイは魔法について教えてくれた。


「この世界は魔法がすべてだからしっかり勉強するんだぞ!」

「はい!」

 

 私とルリの返事がかぶる。


「じゃあ基礎の基礎から行くぞ」

 

 ロイがそういうと指から蝋燭の炎くらいの火を出した。


「指に力を入れて指から火が出ていることを想像してみな」


 そんな簡単に出るもんなの?

 ならいけるかも。


「ん…………あれ?」


 やってみたが、全く火が出ない。出る気配すらない。

 ルリも出ていない。

 何か変だと思い意見を求めるように、ロイの方をチラッと見た。

 ロイのさっきまでの笑顔はなかった。


「うーん。二人とも火は苦手なのかもな。じゃあ次はこっち」


 ロイは手のひらをひろげると少しづつ水滴がついていき、手から水がこぼれ始めた。


「これは手を濡らすことをイメージしてやるんだ」


 手を濡らすことをイメージして、か……。


「ん……ん?」

 

 やっぱ出ない。

 ルリも出ていない。


 顔を上げてロイの方を向く。


 「これは……まずいかも……」

 

 ロイは真っ青な顔をして震えていた。


 ロイの様子がおかしかったので横にいたミアの方を見る。

 するとミアも様子がおかしくて呆然と立ち尽くして目を潤わせていた。


 私とルリは顔を見合わせる。

 ルリは今にも泣きそうな顔をしていた。

 親の異変に気づいて不安になってきたのだろう。

 

 ロイは何かを思いついたように私達の手を力強く握りしめた。

 

「医者に行こう!きっとどこかが悪いんだ!」

 

 そして鬼気迫る勢いで準備し始めた。

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