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第17話 金無しども

 人というものは一度良い生活をしてしまえばそれまでの悪い生活には戻れないものだ。

 今はそれを身に染みて実感している。


 この辺の魔物の数が減ってきてしまった現在私たちは絶賛金欠中だ。別に食うに困るほど困っているというわけではないが、どうせならいいものが食べたいと考えてしまう。それは私だけでなくフレアさんもだった。

 

 金欠の始まりは金貨2枚のネックレス。あれは私たちの金銭感覚を破壊するのには十分なものだった。毎日の生活水準がインフレしていって、毎日の言い訳はあのネックレスよりは値段が安いから大丈夫。

 部屋を見渡すと、便利かもなんて考えて買った小物入れや、飲み物がぬるくなりにくいコップ、書きやすいが売りの羽根つきペン、小物入れに入れようと思って買った小物入れが目に入る。結局小物入れは、小物を買う理由になっただけだし、コップを使うのは暖かい紅茶を飲むときくらいだし、字が汚い私たちにとって書きやすいのは意味がなかったし、という感じだった。


 後悔はもちろんある。過去の自分がこんなものを買わなかったら今もそこそこな生活を送れていたのに。

 意外にも先に音を上げたのはフレアさんだった。


「ルキちゃん?そろそろ滞在する街を変えない?」


 ギルドで2番目に安い定食を食べ終わったとき、そう声をかけてきた。


「どうしてですか?」

「だってこの辺もう魔物いなくてお金稼ぎにくくない?」


 フレアさんは声を落とした。

 この時、確かにと思って、人というものは一度良い生活をしてしまえばそれまでの悪い生活には戻れないものだ。と実感したのだった。


 生活する街を変えると決まってからの私たちの行動は早かった。

 翌日には荷造りを始めて、その日の夜には終えた。ここに来た時より物は2倍くらいになっていて、新しいカバンを買わないといけないときはさすがに自分を恨んだ。

 そのまた翌日には支部マスターに別れの挨拶を、思ったより私たちはギルドの人気者になっていたらしく、支部マスター、ウェイトレス、よく会う冒険者の人たちには、本当に行ってしまうの?この街から離れることを惜しまれた。いやー人に別れを惜しまれるってのはなんだかいいですな。


 私たちが次に行く街は、王都であるルミナグレイスだとフレアさんともうすでに決めていた。でもお金の問題は予定をも狂わせる。

 ルミナグレイスまでは馬車で3日ほど、巨大トカゲ車で15日ほどだ。私たちは巨大トカゲ車なら何とかお金は足りるという算段だったのだが、実際は全く足りなかった。銅貨5枚だってよ。高いって!


「フレアさん。私たちルミナグレイスいけなくないですか?」

「そ、そうみたいね!どうしましょ!」

「うーん、いったん戻って、1か月ほどお金貯めます?」

「そんなことできない!だって、あんなにみんなの反対を押し切ってここまで来たのにもどるなんて。」


 その気持ちはわかる。ここで戻ったら激ダサだよね。でも時には恥ずかしい嫌な思いをしないといけないこともあるんですぜフレアの姉貴。


「じゃあどうします?」

「歩いていく!」


 ん?ちょっと待って?聞き間違いかな?いや、はっきり聞いたぞ。歩いていくって。

 歩いたら1年くらいかかるんじゃない?


「ちょっと、無理じゃないですかね。」

「無理か。」「じゃあ魔法で浮いていく!」

 

 ん?今度こそきき間違えかもしれない。だってそんな馬鹿な事、ロイくらいしかしないって。さすがに聞き返すか。


「なんて言いました?」

「え?だから浮いていくって。」

「魔法で?」

「そう!」


 そんなバカはここにもいました。まあ姉弟だから仕方ないか。でもさすがに無理くないか?

 だって、こっからルミナグレイスまで大体300キロくらいでしょ?で、その間浮遊魔法?いやいや。魔法で浮いて行こうと思ったら低出力以上の浮遊魔法と最大出力の風魔法の応用しないとだよ?そんなの10分で魔力切れちゃうって。一応10分で50キロくらい進むと考えたら、理論上は1日でつくけど人間の体力とか天気とか諸々フル無視した場合ね。オールで休憩もせず24時間勉強したら毎日3時間勉強8日続けたのと一緒って言ってるのと似てるよ。それ。


「いやー無理ですね。多分。」

「うん。知ってた。」


 フレアさんは顔を変えずに言った。


「じゃあさ、目的地変えない?うーん。例えばグリーナローの1区とか。」


 グリーナローの1区というのは、前世でいうところの〇〇県▽▽市みたいな感じだ。

 〇〇がグリーナローで▽▽が1区という認識かな。ちなみに私たちが今まで生活していたのはグリーナロー13区。

 グリーナローは全部で13区までで、基本的に数字が少ないほど都会だ。つまり私たちはド田舎で暮らしていたのさ。

 グリーナローの1区まではここから大体100キロないくらい。まあ歩いていけなくはないかな。まあ浮いて行ったら一瞬。


「そこなら全然いけますよね。浮いて行きます?たぶんそこでもお金は足りないですよ?」

「そうなんだけど、浮いてはいかないかな。やっぱ長距離魔法移動はきついからね。」

「じゃあ歩きですか?」

「そう!」


 歩きかー。くうぅ……。きついなー。ちょっと涼しい時期になったとはいえまだちょっと暑い時期に歩きで100キロはねー。いや、ルキちゃん弱音を吐くな。それしか選択肢がないんだから。


「……ルキちゃん。そんないやそうな顔しないでよ……。」


 うわ。やっべ。


「ルキちゃん。いきなりのそんな笑顔は逆効果だよ。」


 ーーー


 グリーナローの1区方面に歩き始めて、30分がたった。フレアさんは話が面白くて、意外と疲れは全くなかった。まあ後々疲れがなかったのはまだ30分しか歩いていなかったからだってわかったんだけど……。


「今日は野宿するんですか?」


 私はフレアさんの話がひと段落したすきを狙って訪ねた。


「いや、13区のどっかの宿に泊まるよ!」

 

 そういや、まだ13区から抜けてないんだっけ。でも宿に泊まるのも金かかるってこの人知ってるのかな。


「お金をもらって、困っている人のお手伝いしようかな!」


 私が聞きたかった、どうやって?という疑問を私の心から読み取ったのかと思うようなタイミングでフレアさんは言った。

 でもそう都合よく困っている人いるのか―いました。


 13区のある小さな集落に入ったると、いかにも困っています。というような女性がいた。


「どうかしましたか?」


 私が考えるより前にフレアさんは声をかけていた。


「実は……息子が、息子が外に出て行ったきり、帰ってこないんですよ!」


 女性は不安に駆られて今にも泣きそうだ、という顔をしている。

 フレアさんはそっと、カバンからハンカチを取り出すと優しく手渡して、


「息子さんはどこに行くかって言っていましたか?」

「言ってなかったです!」

「じゃあ、いつ頃帰ってくるとかは?」

「夜までにはって。」


 空はまだ明るい。ちょうどお昼が終わったくらいの時間だ。


「もしかしたら心配のし過ぎかもしれないですよ。夜まで待ってみたらどうですか?」

「で、でも!」

「大丈夫。子供は私たちが思っているより、強いですから。」


 フレアさんはちらっと私の方を見た。

 へへへ、実は中身が成人女性だなんて言えない。


「そ、そうですかね。」

「少なくとも私はそう思います!」


 女性はすこしホッとした顔になると、


「よかったらうち寄っていきませんか?もし夜になっても帰ってこなかったら一緒に探してほしくて。」

「いいですよ。ね、いいよねルキちゃん。」

「はい。」


 私たちは女性の家にいれてもらい、紅茶をいただいた。

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