表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/44

第16話 フレアの誕生日

 今年の暑さのピークの日は今日なのではないかと思わせるような日の昼下がり、私はフレアさんがいなくてがらんとしている部屋を腕組み、視線は少し斜め上、そんな姿勢でぐるぐると同じところを歩き回った。


「どうしようかな。あの人の好みなんて…。」


 自分を少しでも落ち着かせるために声を出した。

 なんで私がこんなに落ち着きがないのかというと、焦っているからだ。なぜ焦っているのかというと、今日はフレアさんの誕生日なのに何も準備していないからだ。


 昨日の夜のことは鮮明に覚えている。昨夜、フレアさんは明日が誕生日だってことを何度も教えてくれた。

 ギルドで夕食をとって宿の部屋に戻ってきて、ふぅ、と息をつくまえにフレアさんは私の肩ちょいちょいと突っついた。

 なんだ?と思い振り向くとフレアさんはもじもじしながら言いづらそうに、実は明日私の誕生日なんだよね…。と教えてくれた。その後も水浴び中にわざとらしく、あー1歳歳食っちゃうなー。とか寝る前に、これで起きたら1歳お姉さんになっちゃうのかー。とか私をチラ見しながら言っていた。まあ祝って欲しいのだろう。


 私たちは最近財布を別々にした。一緒にするとお金問題で、喧嘩するかもしれないと私が提案したのだ。そして私は自分の分は自分で稼ぐことにした。だから物のプレゼントは金銭的な意味でも価値がある。

 フレアさんを祝うならまずプレゼントだ。ただ好みが全くわからない。なにせ、あの人はアクセなんてつけてるところは見ないし、服は同じものを何着もかって、毎日同じ服を着ているし、魔道具も使っているところも見ないのだ。

 最初はなんでもいいかと思っていたけどやっぱりプレゼントするなら喜んで欲しい。

 昨日の夜は一緒に買いに行こうと思っていた。こうなると予想していたから。しかし!今いないのだ。あのグータラ寝てばっかのフレアさんが!これはサプライズ待ちといってもいいだろう。

 いや、まって、まじ何買えばいいの?考えれば考えるだけわからなくなっていく。


 私は最初に陶器屋さんに入った。

 私はあの後数十分プレゼントを悩んだ末、実際に見て決めようと考えた。


 陶器屋さんはいろんな柄のお皿とコップとスプーンとフォークが置いてあった。

 ざっと見渡すと、真っ白でシンプルなコップが目に止まる。一目散に置いてある場所に行って、手に取った。

 触った感じはツルツルしている。取手も大きめだし、コップ自体が深くてそれなりに量が入る。

 マイコップとはいいものだ。この世界には紅茶があるのだが、マイコップはそれを飲むのに役立つ。なんだ当たり前じゃないかだって?ちっちっっち。甘味が少ないこの世界では紅茶は前世の夏のアイスくらいの価値があるのだよ。

 紅茶以外で甘味をとろうとしたらフルーツを剥いたり切ったりしないといけないのに紅茶は入れるだけだぜ。

 紅茶は楽、安い、うまい、の3つを手に入れた飲み物だ。それの満足感をマイコップはあげてくれるのよ。

 よしこれにしよう。

 値段を見ると、銅貨1枚。

 うん。安い。ギルドの一食と同じ値段だ。

 買おうと支払い場に一歩足を踏み出した時、日常の記憶が蘇る。うん。コップはやめとこう。


 フレアさんが紅茶を飲む時は大体私が飲む時だ。

 私が紅茶を飲み干すと、あたしも飲みたい。って言って私のコップを使って飲む。理由は洗い物が減るからだそう。

 この時、こっから飲んじゃお、ってわざわざ私に言って私が口をつけたところから飲むのだ。

 しかーし!私がコップを買ったらどうなる?

 せっかく買ってもらったからと言って、洗い物のことなんか気にせずコップを使ってくれるだろう。

 そしたら私の口つけ部分から飲んでくれなくなっちゃうじゃないか。そんなのいやだ!ということで買うのをやめました。


 次に入ったのはアクセサリー屋さん。

 入店してお店を一周したら即退店した。

 ネックレス金貨2枚ってなめてんのか。そんな金はねえよ。

 せいぜい銀貨5枚くらいまでよ。

 というか退店した時のお前みたいなガキにはまだ早いよざまあみたいな顔した店主!顔覚えたからな!

 大金持ちになって見返してやるんだから!

 ということで、次の店探しますか。


 次に入ったのは甘菓子屋さん。

 ここは前世で言う洋菓子が売っている。

 おいおいさっき甘味は紅茶かフルーツくらいだって言っていたじゃないかって思っただろ?

 その件は大変失礼しました。手頃なが抜けてしまっていました。

 はいつまり甘菓子は高価すぎるのですよ。

 りんごがのってるケーキみたいなスイーツ(りんごっぽん)はホールから切られたやつで銅貨7枚だぜ。イカれてんだろ。だからみんな滅多なことがないと買わない。誕生日とか。….誕生日!!

 これじゃん。

 私はりんごっぽんを2個買った。


 即部屋に戻った。

 りんごっぽん悪くならないように氷の雲を真上に生成して保管するとまた外に出て店をまわり始めた。やっぱり誕生日にケーキだけってのは寂しいもんね。


 次に行ったのは洋服屋さん。

 洋服屋さんといっても、令和のアパレルショップみたいにキラキラしたオシャレなお洋服がいっぱいあるわけではない。見た目よりは性能を重視している。薄くて可愛い洋服はないけど、分厚くて頑丈な服はある。赤とか黄とかみたいな派手な色はない。魔物にバレなさそうな迷彩柄はある。

 うーん。なんかちょっと違うんだよなー。まあこんな危険な世界でおしゃれする人はいないか。

 私はぶつぶつ独り言を呟きながら店を出た。


 空はオレンジがかっていて少し紫だった。もしスマホがあったら写真を撮ってインスタに投稿しそうになる。そんな空だ。でも私がその空に気が付いたのは階段を転げ落ちて、目の前が空だけになった時だった。

 この街にある店は大体巡った。行っていないところは八百屋くらいだ。なので今まで巡った店の中で選ばなければならない。私は値段、見た目、実用性、などを総合的に考えて比べあった。

 コップは値段、見た目、実用性、すべてにおいて満点だけど、スキンシップが減ってしまう。やっぱそれはよくn―....へ?

 私が踏むはずの地面がない。いや、実際にはあったけど階段一個分低かった。

 上半身が誰かに引っ張られたかのように前に倒れると、両足が離れるまではあっという間だった。

 いっちょ前に腕組をしながら考え事をしていたために、手を出すのが一瞬おくれて、そのままごろごろと転げ落ちていく。最後はでんぐり返しをして壁におしりとかかとがドシッとぶつかる形で止まった。足と顔が真逆の位置にあるなか私が思ったことは、痛いとか恥ずかしいとかネガティブな気持ちではなく、空がきれいだなというポジティブな気持ちだった。でもその空はもう夕方だよということを意味している。そんなことに気が付いたのは空に見惚れて数秒後のことだった。


 急いで起き上がろうとした時体がズズズっと斜め上にスライドしていった。おしりを押されている感覚があったので見てみると、壁だと思っていた扉が開いていた。

 その小さな、顔一個分くらいの大きさの扉の間からボンネットをかぶっている可愛らしい小顔の女の人が顔を覗かせている。あっちは私に気がついていない。


「ディオンさん、やはりこの扉建て付けが悪いですわよ。さっきも変な音してましたし。」

「いや、そんなことはないと思いますけど。だって最近直したいばっかですよ?」

「なら私の勘違いかもしれなくてよ。もう一回開けてみますわ。」


 扉の隙間からこのような会話が聞こえた後私の体はまたズズズとスライドしていく。

 お姉様?それは私のせいでしてよ。今どきますわね。

 私は心の中でそう呟きながら扉からどいた。と同時にものすごい勢いでバコンと扉がひらく。その勢いのままお嬢様構文で話していたであろう女性が飛び出してきた。


 女性は全体的に薄紫色で、繊細なレースやふんわりしたスカート、リボンやフリル。まるでお人形さんが飛び出してきたのかと思った。

 あらららと大勢を崩したその女性を全身で優しく支える。彼女の服が私の服に付くときふんわりとわたあめみたいな匂いが広がった。

 手には出てきたお店?で買ったであろうものが握られていて、それをちらっと見た時雷が直撃したかのような衝撃が全身を巡った。

 こ、こ、ここれって…。ディル….


「ありがとうございますわ。とっても助かりますましたのよ。」


 彼女は私が心の中で呟いているのを遮ってお礼をしてきた。私はお礼に返事することなく黙り込む。

 すると気がついた彼女はパッと手を背中に隠して顔を真っ赤にした。


「べ、別に何も持っていませんのよ!ただ手を隠したかっただけでしてよ!」


 言い訳なのか、弁明したいのか、誤魔化したいのか、今までの声量より大きな声を響かせた。


 こんなものがこの世界にに売っているというのも驚きだが、こんなお嬢さんも買うのかということにも驚いている。まあ誰だって性欲くらい溜まる。フレアさんも1人でするんだから。


「なんで手隠しちゃうんですか?綺麗な手袋だと思ったのに。」


 彼女はあれ?といった顔をするとみるみるホッとした顔になっていく。


「わたくし急いでいますの、もう失礼させていただきますね。」


 彼女はすっかり元に戻った顔で階段をツカツカと登っていき、やがてその背中は私の視界から消えた。その瞬間目の前の扉を開けて中に入った。


 思った通りだ。

 中はアダルティックなショップだった。前世の時みたいにシリコン製のとかカラフルな、とかではなかったけど、男性用、女性用それぞれパッと見て何が何なのかわかる。

 ちょっとこれ大きすぎなおいか?こんなのはいらないでしょ。これはキツキツすぎ、これに慣れたら本番ガッカリしちゃうよ。

 私が店内をぶらぶらしていると、後ろからさっきのロリィタ女子と話ていた声が聞こえてきた。


「あんたにはまだちょっと早いんじゃない?」


 そんなことわかっていますよ。でもどうしても気になってしまったんですよ。

 私は聞こえないふりをする。

 店員さんらしき人はズカズカと私に近づいてきた。


「だ・か・ら、ちょっと早いんじゃないのって!」


 これはつまり帰れということでしょうか。うぅ..。別にいいじゃん見るくらい。どうせあなただって生まれる世界が違ったら、『18歳以上ですか?』って質問に『はい』ってボタン押して今の私と同じようなことしますよーだ。

 でも仕方がないので嫌々店を後にした。


 あたりはすっかり暗くなっている。結局何も買っていないじゃないか。

 今まで心のマイペースという監獄に封じ込めていた焦りが突如暴れ出して檻をぶち破ってきた。

 これやばいかも…。

 プレゼントを買ってないのもやばいけどこの時間帯もやばい。

 フレアさんは私が日が沈んだ後に帰るといつも叱ってくる。次はないからねと言われたのはつい昨日のことだ。

 私の思考回路はすでに焦りに狂わされていた。

 気がつくと手にはお昼に見たネックレスが乗せられている。そしてそれを店員さんが受け取った。

 あ….。そう思った時には、布袋にあったはずの金貨2枚の姿は見えなくなっていた。

 やっちゃった。


 地面に埋まっている足を抜きながら歩いているのかと思うほど重い足は宿の部屋の前で止まった。

 ドアを開けなくてもフレアさんが怒っているのがわかる。だって物音ひとつしないし。

 はあー…本当に地面が沼ならこのまま埋まってしまえるのに。


 恐る恐る扉を開けると、そっぽを向いたフレアさんが椅子に座っていた。もちろん私のただいまには返事がない。

 気まずさのあまり当たりをチラチラと見回すと私が作った雪雲は強化されているのに気がついた。

 スイーツは大きな雲の中にすっぽりおさまってしまっている。あの雪雲の感じはフレアさんだ。

 すぐにあの悲しそうな、そして辛そうな背中が私の視線をスイーツからはなれさせた。


 こういう時は本気で謝るのが一番。きっと許してくれるよ。うん。フレアさんだっておにじゃあるまいし。うん。大丈夫だって。心配すんなルキ。

 私の心のものごとを甘く捉える部分がそう訴えた。


 フレアさんに一歩一歩、近づくたびにネックレスを握る力が強くなっていく。フレアさんの正面に立つ。

 あれ?もしかして..寝てる?

 もしかしてそっぽを向いて寝ていただけ?寝ていたからただいまに返事がないだけ?


 フレアさんをゆすって起こした。

 フレアさんの目は少し充血していて、少し腫れぼったい。


「あれ?ルキちゃん帰ってたんだ。」

「はい。」

「今、夜?」

「はい」

「ふぁぁぁぁーー….。寝過ぎた。首痛いし。」

「ご飯食べに行きましょ。」


 私はなんとかこの危機敵状況をやり過ごすことに成功した。もう、夜に帰ってくるのはやめよ。



 ギルドから帰ってくるとフレアさんの目はスイーツをロックオンしていた。


「ねえ、ルキちゃん?あのりんごっぽんってルキちゃんが買ってきてくれたの?」

「そうです。フレアさん誕生日でしょ?」

「やった!!もうルキちゃん大好き!」

「あ、ハグは一旦待ってください。」


 フレアさんの動きはピタッと止まった。


 ズボンのポケットに手を突っ込むとネックレスを取り出して机の上に置いた。

 ちゃんと見ると綺麗だな。真珠みたいな真っ白な石が数十個連なったネックレスは部屋の明かりを反射して壁の一部の色を変えた。


「え?なに..これ」


 フレアさんのあんな顔を見れる日が来るなんて。あの、え?あたし今まだ夢見てる?みたいな顔。


「誕生日プレゼントです。」


 フレアさんは、目をまんまるに丸めて空いた口を手で隠した。


「つけてあげますね。」


 私はネックレスを手に取り、フレアさんにつけてあげた。

 なんとなく選んだネックレスだけどフレアさんによく似合う。綺麗でセクシーな首をより明るく照らしている。たった金貨2枚でこんな綺麗なフレアさんを見れるなら安いものよ。


 私はりんごっぽんを机に置いた。横には木製のフォーク。買った時は真っ白だったりんごは少し黄色がかっている。

 美味しいと言うフレアさんの目は充血していて、少し鼻声だった。

 まさかこんなに喜んでもらえるなんて思っていなかった。やっぱり金貨2枚では安すぎるよね。こんな笑顔が見れたんだから。


 翌日からフレアさんはネックレスをつけてくれなくなった。最初はやっぱり気に入らなかったのかな?とか、ちょっときつかったのかな?とか思ったけど、違った。

 ある日なんでつけないのと質問した時、


「つけてないんじゃなくて、つけれないの!」


 私はケラケラ腹を抱えて笑った。まさかつけれないなんて。まあ以前エプロンをつけた時に、見えないところのちょうちょ結びができないって言って私がやってあげたことがあるから、その理由には納得した。でもフレアさんは納得していないようだった。

 不器用なことを笑われたからか少しむすっとしながら


「そのできないではない!」


 って言った。

 じゃあどのできない?と聞くと、もったいなくてできないと答えた。

 どうやら毎日つけていたらいつか壊れてしまうから、もう2度とつけずに死ぬまで保管しておくのだそう。

 私的には毎日つけて欲しいけど、大切にしてくれればそれに越したことはない。


 このようにしてフレアさんの誕生日は終わったのだった。

 ちなみにいくつになったのか聞いたら、ひ・み・つ!って言われちゃいました。

 予想は24歳。まあ確実に20は超えているだろう。

 でもひとつ違和感なのはフレアさん見た目はどっからどう見ても18〜20くらいの見た目で止まっていること。

 なんかの魔法かな?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ