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第15話 中性的な顔

 宿につく頃、朝日は完全に登りきっていていた。いつもの起床時より少し上にあるようにも見える。部屋に入り、フレアさんをほいっとベッドに放り投げるとエイムが悪くて頭が壁に当たってしまい、フレアさんが、いで!、と声を漏らした。少し笑いそうなのと申し訳なさを抱きながら、外にでると、いつも使っている水浴び用の草むらに向かった。草むらに着くと、下着だけになって水魔法を自分にかける、少し眠たくてぼーっとしていたのもあり、真水を出してしまった。冷たさで、体がブルリと震え、ひいっ!と声が漏れる。体に冷えを一気に感じなくなるのを感じた後、まわりをぐるりと見渡した。幸いにも周りには誰もいない。そうわかった途端に体の冷えは嫌な記憶を巻き込みUターンして戻ってきて、体に入ると心臓を少しだけキュッと締め上げた。

 嫌な思いでというのは、そう。前世の記憶。私はよく真冬にお風呂で水責めを受けてた。その記憶。

 まあ冷静になったらそんな要らんことまで考えちゃう時あるでしょ?今がそれ。


 でも今が暑い時期でよかった。もし雪の降る時期にこんなミスをしたら私のキュートな下着姿を晒して死んでしまうところだったし、もっと鮮明に記憶が蘇っていただろう。

 ありがとう夏。まあ夏は夏でも嫌な記憶は存在してるんだけどね。ベランダに放置されたり、熱々に熱された滑り台に顔を…。いや、もう考えないでおこう。なんとなくいきなりフラッシュバックしただけ。もう引きずったら負けだよ。

 気を取り直してお湯をあびてた。でも人間そんな簡単に気を取り直せるわけない。黒歴史思い出して、数十秒で元に戻れるわけないでしょ。それと一緒。一度考えたらぐるぐるぐるぐる思考は回る。

 私は結局、無理やり気持ちを切り替えるために、前世でライブに何十回も行った推しのアーティストの曲を鼻で奏でながら、水浴びを続けた。

 

「それって奇跡、ふふふふふんふんふふふふふんふん…..」


 ーーー


 この世界に音楽がないのは惜しいよー。

 すっかり気持ちが元に戻った私はそんなことを考えながら軽く体を乾かすと宿に戻った。

 

 部屋に入るとフレアさんは起きていて、私が壁にぶつけてしまった頭をさすっている。

 フレアさんが私に気が付くと、目をとろけさせ、まるで、自分が生んでものすごくかわいがっている赤子を見るような目で私を見つめた。なんだ?私の顔なんかへん?いやそんなことはない。私はテレビに出てくるような超美人ハリウッド女優と横に並んでいても自分を推してくれる人が出てくる顔をしていると自負している。きっと、目やにとかでもついているのだろう。


 そんなことを考えている私に少し服がはだけて、大きな実が見えてしまいそうなフレアさんが近づいてくる。目の前に来た時ちらっと見えた。綺麗なピン…ゴッホゴッホ。

 失礼。咳が。出てしまいました。ピンの続きは察してください。幼稚園児でもわかると思います。ヒントは色。

 でも風呂とかで見るより、この状況のような感じで意図せず見える方がえっちですよね。


 私の考えてることなんか微塵も知らないフレアさんは私の少し湿った前髪を優しく触った。


「ルキちゃん髪伸びたよね。」


 フレアさんの指と口からはフルーツのようなにおいがする。そして、確かに髪は伸びた。前髪は濡らすと鼻筋にかかってもおかしくないほどだ。


「あたしが切ってあげようか?」


 私はフレアさんの髪を見た。フレアさんの髪はうまく切ってあるかどうかでいうとうまくはない。でも似合っている。似合いすぎている。


 この世界では基本的に髪は自分で切る。私もこの世界に来てからはいつも自分で切っている。ただ最近はめんどくさくて切っていなかった。フレアさんに切ってもらえるというのは大変楽だ。ただ失敗するかもという可能性を考えなければ、の話だが。しかし、フレアさんなら失敗しても似合う髪型にしてくれそうだという勘がビンビンに働いている。もう考えるのはやめて切ってもらおうかな。


「あたしね、ルキちゃんは今の長い髪からバッサリ切ってちょっと長いくらいの男の子っぽいほうが似合うと思うんだよね。」


 お、そうきたか。考えたこともなかったな。でもやってみる価値はある。私はどんな髪型でも似合うだろうから、正直アリよりのアリだ。


「フレアさんに似合ってるって思ってもらえるならフレアさんに切ってほしいです。」


 フレアさんは私からこんな返事が来るなんて、思ってもいなかったみたいで、ほんとに?という顔をした。


「じゃあ切ってあげるね。」


 フレアさんはそう言うと髪切る用のはさみをカバンから取り出した。

 え?今から?と思ったが、もう髪をきるマインドになっていたので、いやではなかった。


 外にでて、人気が少ないところの切り落とされていた木に腰をかけた。フレアさんは私の後ろに立つと淡々と髪を切り始めた。地面にはらはらと髪が落ちていき、茶色の地面が紫で埋め尽くされていく。

 フレアさんは私の髪を綿あめでも触るかのようなやさしさで触っている。心地いい刺激と安心感を髪で感じていく。お母さんに耳かきをしてもらっているみたいだ。そして気がつくとそのまま眠ってしまった。


 完成!というフレアさんの声で目を覚ました。周りの紫はさっきより増えている。そして、いつもより視界が広い。頭の後ろに手をやると、肩甲骨あたりまであった髪は首を隠すくらいまでに切られている。ほかのところを手で触って確認していく。これは...。私はどんな髪になったのか分かった。前世でいうところのウルフカットだ。


「どう?ルキちゃん。」

「すごく、いいです。」

「ほんと!よかった!」


 フレアさんは飼い主に褒められた犬のようだった。尻尾があればぶんぶんと降っている。そしてその時の目は自分の赤子を見るような目から、異性を見るような目に変わっていた。相変わらず目をとろけさせてはいたけど。


 なぜフレアさんがあんな目をしたのかはその日の昼食で分かった。

 

 いつものように昼食をとるためにフレアさんとギルドに行くと知っている顔がこちらを見ている。二階にいるのはキュユとウェイと私にセクハラをしてフレアさんと大喧嘩をしたヴィンと.......。一階にいるのはリョアとポイとあの時にポーションをくれたリブちゃんと......。もう完全に名前は憶えていた。しかしこう見渡してみると、いつにもまして女性の視線が強い気がする。なんというか、凝視かな、なんだろう、言葉にはできないけど。超が付くほどのイケメンが男女比1:99の世界に行ったらこんな視線を浴びるんだろうなと思う。まあ髪が長いイメージの人がバッサリ髪切ってたら誰でも見るか。そう思いながら、フレアさんとギルド内を歩いていた。


「あれってルキちゃん?」 「フレアと一緒にいるからそうだろうけど...。」「いや前から顔は整ってるって思ってたけどさ...。」


 いつの日かのようにこそこそと声が交わっている。


 いつもの席に座ると、あのセクハラ親父ヴィンがものすごい勢いで階段を駆け下りて近づいてきた。と、同時にフレアさんがギラリと目を光らせた。ヴィンは私たちの席の目の前にいやらしい目をして立つと早口で何やら語りだした。


 「ルキちゃんってやっぱり中性的な顔してるよね!前からおもってたんだ!やっぱその髪型最高だよ!ルキちゃんは前の髪型では前髪で目が隠れかかっててちょっと魅力が半減してたんだよね、まあその時でも120点以上あったけどね。あ!もちろん100点満点中ね!そしてその絶妙な髪の短さ、かわいいショタ感があっておじさんちょっと興ふn――グフッ!」


 話している最中フレアさんはヴィンの腹を殴った。鈍い音とヴィンの痛そうな声が同時に聞こえる。そんなことは気にせずフレアさんは追撃をする。すると、ギルド中から女性陣がわらわらと集まってきた。私はフレアさんを止めに来たのだと思っていたが、その考えは間違っていた。集まった女性陣もフレアさんに加勢してヴィンを叩き始めた。物理的な方と非難の方どちらともで。


 ヴィンはこんなおっさんだけど一応2級の冒険者だ。こんな簡単なことでは死なないと思うが...。いや死ぬかも。ちょっと、ちょっと、マジで死ぬかも!!私がこう焦ってしまうほど女性陣の攻撃はすごかった。しかしヴィンは紳士?だった。攻撃を守るばかりで、まったく反撃をしようとしない。できないだけかもしれないけど。でも、だからこそ少しかわいそうに思えてきた。だって、まあ語りだしたときはきもいって思ったけどそんな嫌な気はしなかったし...。ただ性癖が少しまわりと違ったってだけ。そう考えると少し親近感が湧いてくる。だって私も女なのに女の子で興奮するし。女の子に抱かれたいとさえ思う。女の子になら無理やりされるのもまあ別にありっちゃありって感じだし。そう考えるとヴィンは好きなものに好きと伝えたかっただけなのかもしれない。そんな考えが体の内側からググッとと表に出てきた。

 ...私はヴィンを助けることにした。


 意を決してやめて!と大きな声を出した。私の声が響くとさっきまで騒がしかったのが夢だったかのようにあたりは静まり返える。そして視線は私に集まった。

 女性陣が輪を作っていてその中にはほこりをかぶって少々怪我をしているヴィンが横たわっていた。私はそのヴィン一直線に歩いて近づくと、ヴィンのほこりを手で優しく払った。その間周りの女性から、そいつ変態だから変に優しくするのやめな、とか、ルキちゃんのためだよ、とか声が聞こえる。でも私はそんな言葉には耳を貸さない。


「ヴィンさんは私の髪似合ってるって褒めたかったんだよね。」


 埃を払っていると余計にかわいそうに思えてきて、思わず声をかけた。

 

「そうです!そうです!」


 ヴィンは食い気味で返した。


「みんなはきもいって言ってたけど私は嬉しかったですよ。」

「ルキちゃん......!!」

「もっとヴィンさんに褒めてほしいな。」


 私はまた語りだすことを承知で言った。


「うん。わかったよ。ルキちゃん。ルキちゃんは天使のような見た目とやさしさを持っているんだね。」

「まあね。」

「じゃあ、天使ルきちゃん。1つだけファンサービスをお願いしてもいい?」


 ファンサービスって、ヴィンは私のファンなのか。まあよしよし、とか握手、程度のものが来るのだろう。その程度ならまあいいか。かわいそうだしな。

 私は無言で頷いた。


 ヴィンはポケットから小さな小瓶を取り出すとコルクの蓋を開けた。


「ルきちゃん!ここにルきちゃんの唾液もらってもいい?」


 私は血の気が引いて、頭が真っ白になっていくのを感じた。

 そして無意識のうちにヴィンから離れた。と同時に蹴りがヴィンを襲っていた。蹴りの主はリブちゃん。

 それを筆頭にみんながさっきの2~3倍ほどの勢いでヴィンを殴り始めた。

 それはヴィンが気を失った後も止まることはなく、止める者は誰もいなかった。まあきもさが限界突破していたから仕方ない。

 私の唾液を何に使おうとしたのやら。まあ寂しいよるに1人の時、嗅ぎながらとか、潤滑油代わりにとかだろう、想像しただけではきそうだ。今からご飯だってのに...。

 唾液って口から出た瞬間汚く感じますよね。チューとかでの唾液はそこまでキモくないのに、綺麗なテーブルに垂れた唾液って自分のでもキモい。


 ヴィンはさんざんやられたあと、入口あたりに雑に置かれていた。いつも温厚で優しい支部マスターでさえもさすがに今回のヴィンには優しさを向けなかった。


 そんなことは置いといて、私たちはご飯を食べた。

 しかし落ち着かない。食事を人にまじまじと見られながらするのはこんなおちつかないのか。私たちの食事をさっきの女性陣たちがみている。

 そしてさっきからフレアさんがイライラしている。まあゆっくりご飯食べさしてほしいよな。わかりますよその気持ち。


「ねえ、ルきちゃん、髪切った?似合っているね。」


 1人の成人したばかりの女性クンが声をかけてきた。

 口に食べ物が入っていたので咀嚼速度を上げて、飲み込むと、

 

「ありがとうございます。」


 と返した。

 と、つぎに、


「ルきちゃんって、かっこかわいい顔してるね。前髪短くてよく見える。」

「ありがとうございます。」


 その後もいっぱい褒められた。

 こんな楽園があるなんてと何度も思った。


 すると一風変わったことを聞かれた。


「ルきちゃんって恋人とかいる?」


 その質問でフレアさんを含めギルド中の男性女性含めて私の返事に耳を澄ませ始めたことが分かった。あきらかに、声が小さくなり、皆がこちらを見ている。


「えーっと...。いないです。」

「ほんと?!」


 私の返事で少しギルドが騒がしくなった。そして質問は続く。


「じゃ、じゃあ将来結婚を約束した人とかは?」

 「い、いないでs―」


 私が言い終わる前に周りがドッと騒がしくなり、自分の声が消えていく。

 すると、我先にという感じで、成人したばかりの女性クンが、


「ルキちゃん、私と結婚しない?」


 と言ってきた。

 私の頭はクエスチョンマーク。


 するとフレアさんがキレた。

 

「ちょっと!!あたしのルキちゃんに手を出そうとしないで!」


 あたしの?


 そしてそれを引き金に女性十数人が、ひきつった笑顔で言い分を語りだした。

 さっきのヴィンのリンチが優しく見える。そんな感じの言い合いだった。さすがに怖くて止められなかった。


 女性たちの喧嘩でこの世界についてと、フレアさんについて、1個ずつわかったことがある。

 世界についてだが、この世界の女性(おそらく人族のみ)は男性も女性もいけるって人が多いということ。理由としては、フェル大陸の政治しはいしている魔王のアテナが男性も女性もいける女性でフェル大陸は同性婚が進んでいるからだといわれている。

 これはなんで喧嘩してるんだと不思議そうな顔をしている私に支部マスターがコソッと教えて得くれた。つまり今は私の取り合いの最中。

 まあ、うん。最高。頬が緩みそう。いや、もう緩んでるか。

 そしてフレアさんは私をそういう風な目で見ていなくもないということ。


 私は喧嘩を眺めながら食事をして、喧嘩を眺めながら食事を終えた。

 そしてフレアさんの袖をくいくいと引っ張った。

 グワッとした顔でこちらに振り向いて、私だと気づくといつもの顔に戻る。


「ルキちゃんどうした?」

「もう帰ろ。」


 この私の一言で喧嘩はおさまり、まあ将来の相手はルキちゃんが自分で決めるのが一番だよ、という結果に落ち着いた。


 私は宿に帰りながら、にやにやした。

 フレアさんには何笑ってんのって、じっと見つめられたときは少し怖かった。


 宿に帰ると、頭が冷静になっていき、さすがに変すぎないかと思うようになってきた。だっていくら私が魅力的だからって普通、8歳女児に求婚するか?

 そういえばと私はあることを思い出した。

 この世界の成人は16歳なのだ。それが前提だと変ではないような気がしてきた。

 だって、前世で成人者が中学生をかわいい、食べちゃいたいとかんじるのと、そう変わらない気がするからだ。

 まあよくないとはおもうけど。確実に良くない。でもそれは法律があったから。ここにはそんなものない。まあ法律が必要だと国が認めるほどよくないことだとはわかってるけど。


 そんなことを考えている私は、内心今の状況を肯定したいという思いが強く出ていたのだと思う。今、法律が新しくできて、成年者が未成年者に手を出したらいけないとなったら、きっと私は心底落胆するのだろうな。

 つまりなんだよ、というと。

 つまり綺麗なお姉さんと結婚したい。

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