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夢双物語  作者: Akrid
無印編
9/14

第九話:殺人鬼

風も音もない路地裏。まるで世界から切り離されたような空間を、ナオキは黙って歩いていた。


その前に、突然、ひとつの影。

黒いフードの男が、背を向けたまま静かに歩いている。足音はほとんど聞こえない。


ナオキは足を止め、その背中をじっと見つめた。何も喋らず、ただ、呼吸すら浅くして。


(……誰だ?)


男はナオキの存在に気づいていないようだった。彼は慎重に距離を保ちつつ、男の後を追い始めた。何の目的かもわからないまま、ただ直感で――“こいつは、見逃せない”と感じた。


(身長も……体格も……自分と変わらない)


その時だった。男がふいに立ち止まり、ゆっくりと振り返る。


だがそこには誰もいない。

ナオキはすでに物陰に身を隠していた。冷たい壁に背中を預けながら、呼吸を整える。


男は少しの間、辺りを見回し、それから何事もなかったようにまた歩き出した。


数秒後。ナオキが再び物陰から姿を現す。音も気配も立てず、地をなぞるような足取りで追いかけた。


男はそのまま、迷いなく角を曲がっていく。

ナオキが角の先をそっと覗いた瞬間、息が止まった。


「リョウコ……!」


地面に座り込んだ彼女。その前で、男が刀を振り上げていた。


瞬間、ナオキの火縄銃が構えられる。無言のまま引き金を四度引いた。


炸裂する火薬、走る衝撃。弾は全て、男の身体に命中した。


「ッ!?」


男の動きが一瞬止まる。その隙にナオキはリョウコのもとへ駆け寄り、迷いなく抱き上げる。


「リョウコ!」

反応はない。ナオキは無言で彼女を抱いたまま、素早く物陰へと退避。静かに地面に下ろす。


その背後から、荒れた声が響いた。


「ゲホッ……ゲホッ……痛ぇじゃねぇか……」


爆煙の向こう、男が姿を現す。ゆっくりと、まるで怒りを噛み殺すように歩いてきた。


ナオキは銃を見下ろす。


(あと一発……)


腰へ銃を戻し、代わりにナイフを引き抜く。冷たく光る刃に、息を一つ吐いた。



「お前程度……ナイフ一本で充分だ」


「言うじゃねぇか」


そして、斬撃が走る。


――キンッ!


ナイフと刀が激突し、火花が散る。


「くっ……!」


瞬間、刀の刃が腹をかすめた。

血が溢れ出す。ナオキは膝をつき、痛みに歯を食いしばる。


「俺の刀は“星武器”だからなぁ」


笑みを浮かべる男。ナオキの顔が引きつる。


(なるほど、浅く斬られただけでこのダメージ……)


星武器――それは、星の力を宿す武器。能力を持ち、ただの刃ではない。


ナオキは迷いなく、最後の一発を空へと撃ち放った。


一度は消えた火花が、再び空中で燃え上がる。

爆音。そして、炎が爆ぜて消えた。


「……どこ撃ってんだ?」


男が鼻で笑いながら近づいてくる。

ナオキは応じない。ただ、腹を押さえて膝をつく。


「終わりだな」


刃が振り上げられる。


――「夢双斬!!」


斬撃が飛び込んできた。紫の光が壁を切り裂く。


ナオキの視線が、その方向を捉える。


「……シュウト」

剣を構えるシュウトが立っていた。


「大丈夫か、ナオキ」


その声に、ナオキはわずかに頷く。

「シュウト!」


リョウコの声も背後から響く。


「リョウコ、ナオキを連れて応援を呼んでこい」


「うん!」

リョウコがナオキを背負う。


「させねぇよぅ」

男が踏み込む――が、斬撃がその足を止めた。

リョウコとナオキは闇の中に消えていく。


「ちっ、桃髪と青髪が逃げやがったぁ」


男の目がシュウトに向き直る。

「テメェだけでもやるとしますかぁ」


その言葉と共に、戦いが再開された。

斬撃と刃が交錯する。火花と衝撃の応酬。


「……お前、何歳だぁ?」


「十五だ」


「名を何という?」


「ロバート・シュウト」


「いい名だなぁ」


男が笑う。

「俺の名は――ザーゲン・クライエツ!」


赤髪、真紅の瞳、ギザギザの歯。まるで人ではない風格がある。歳は……自分と同じだ。


「そうか――死ね」

紫の斬撃が放たれる。ザーゲンは軽くかわす。


「遅いぃ」


そして、シュウトの懐へ飛び込んできた。


「クッ!」

刃を受け止める。だが、力負けしていた。

後退。そして、逃走。


ザーゲンが追いかける。

「どうしたぁ? 怖くなったかぁ?」


その声がすぐ背後に迫る。

やがて、行き止まり。袋小路。


ザーゲンがニヤリと笑って歩み寄る。


「逃げ場はない」

だが、待っていたのはシュウトだった。

跳躍。刀が壁に突き刺さる。

「抜けねぇ!」


「夢双斬!!」

直撃。ザーゲンの体が壁に叩きつけられ、崩れ落ちる。


「……終わったか」


鞘に剣を収めたその時、リョウコたちが駆けつけた。


「シュウトー! 大丈夫ー?」


「……ああ、大丈夫だ」


「ナオキきゅんは……お腹の傷が深くて……救急隊に……」


「……そうか」


説明を終えた後、ゴトウがあたりを見回す。


「なぁ、ザーゲンって男……どこいった?」


「……何言ってるんだ?」


辺りに、ザーゲンの姿はなかった。

「……っ!?」


ソラの声が乾いた。


「見張ってなかったの……?」


言葉を失うシュウト。


ゴトウが苦笑いする。


「これは……見張ってなかったっぽいな」


「すまん」

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