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夢双物語  作者: Akrid
無印編
8/14

第八話:初任務

土曜の朝、まだ陽が低く、街はゆっくりと目を覚まし始めていた。


シュウトの声が通りに響く。


「黒いフードを被った不審者を見かけなかったか?」


中年の男が新聞をたたみながら、あっさりと首を横に振る。


「いや、見てないな」


「ありがとう。助かった」


深々と一礼して、シュウトは歩き出した。まだ人通りはまばら。だが、そのぶん声もよく通る。


一方その頃。


カフェのテラス席にて、リョウコはクリーム山盛りのパフェと格闘していた。


「見つかるのかな〜? 犯人」


スプーン片手に頬杖をつく。髪飾りが揺れ、青いドレスが風をはらむ。


対面ではソラが紅茶のカップを口元に運び、静かに微笑んだ。


「大丈夫。調査班が頑張ってる」


「探すのは捜索班、だろ」


ナオキの声が割って入る。


「そだっけ? じゃあナオキきゅん、頑張ってね♪」


くるりと首を傾げて微笑むリョウコに、ナオキは肩をすくめて黙った。


「……私たち捕縛班は、まだ待機だけどね」


ソラがぼんやりと呟いた瞬間、ナオキがすっと立ち上がった。


「……ちょっと歩いてくる」


「私、服屋に行こうかな」


ソラが立ち上がると、リョウコがすかさず手を挙げる。


「行く行く! 一緒に行こ!」


「もちろん」


満面の笑みでリョウコがソラの横に駆け寄ると、午後の光が二人の背中を優しく包んだ。


その頃――


調査班のメンバーは広場のベンチに集まっていた。陽射しはじりじりと照り、空気はやや重い。


「全然、情報が集まらないな……」


シュウトが額の汗を拭いながらつぶやく。


「まったく、どうなってんのよ!」


苛立ちを隠さず声を上げたのはエイ。


その隣、ジトが浅い呼吸で俯いていた。


「……はぁ……仕方ない……目撃情報が……そもそも、ないからな……」


「また息が苦しそうっす! 大丈夫っすか!?」


リバーンの声がやたらと響く。心配そうな顔だ。


「大丈夫……だ……」


ジトは息を整えながら、弱々しく答える。


そのとき、にぎやかな声が近づいてきた。


「シュウトー!」


顔を上げると、ケニが手を振りながら駆けてきた。


「よう、今の進捗どう?」


「……からっきしだ。情報ゼロ」


シュウトが肩をすくめると、ケニはそのままエイたちのほうへ視線を向けた。


「で、こっちの3人は?」


「友達だ」


「よし、じゃあ今日から俺の友達!」


笑顔のまま手を差し出すケニに、エイが半眼で睨む。


「……それ、初耳なんだけど」


「でも言った方がいいでしょ? 世界がちょっとだけ平和になるじゃん」


その屈託のなさに、エイの眉がほんの少し緩む。


「おいケニー! お前また勝手にどこ行ってんだよ……って、あれ、シュウト?」


ゴトウが追いかけてくる。彼の後ろにはエイニンもいた。


「君たちは……同じクラスメイト?」


エイニンが尋ねると、ゴトウが即答する。


「ああ、そう。俺の友達!」


「ならば“友の友は自分の友”! よろしく!」


エイニンが満面の笑みで手を差し出すと、シュウトも笑ってそれに応じた。


「よろしく」


「ねぇ、その“友の友は”って……流行ってるの?」


エイが小首をかしげる。


「さあ。ケニが言ってただけだし」


「えっへん」


胸を張るケニの後ろで、ふと少女が振り返る。


紫の髪。穏やかな目。


「私はソユノ・マイ。そこにいる“最弱の一星”の親友よ」


そう言ってゴトウを指差す。


「そうか、ゴトウの友達か」


シュウトは素直に頷いた。


その後、ゴトウとリバーンがすぐに打ち解け、八人の輪は自然とにぎやかさを増していく。


だが時計の針が昼を指す頃、シュウトが立ち上がった。


「……もう少し情報、探してくる」


「私も」


エイがそれに続き、リバーンが大きな声で応える。


「頑張るっす!」


「そっか。頑張れよー」


ケニが手を振る。それぞれが、再び任務へと散っていった。


 


──その頃。


リョウコは人気のない路地裏を歩いていた。紙袋を片手に、首をひねる。


「ソラちゃん、どこ行ったのかな〜……」


すこしだけ不安そうに呟く。日差しが傾き、路地に影が伸びていた。


その先に――人影。


「ん……? 人……?」


黒いフード。赤い髪がちらりと覗く。


見られている。リョウコが一歩足を止めた瞬間、男の口元がゆっくりと歪んだ。


にやり、と。


(え……なに……)


次の瞬間、地面を蹴った音すらなかった。


影が一気に迫る。


「わっ!」


咄嗟に身を引く。紙袋が宙に舞い、リョウコの背中が地面に叩きつけられた。


「いっ……!」


目の前に、刀。


男は何も言わない。ただ構え、振り上げ、振り下ろす。


「ま、まって……!」


声が喉に詰まる。視界が狭まる。


逃げ場はない。光が刃に反射し、銀の軌跡が空を裂く。


リョウコは目を見開いたまま、動けなかった――。

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