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夢双物語  作者: Akrid
無印編
7/14

第七話:学寮

ミツシデは、眉間にしわを寄せながら資料の束を指先でめくっていた。職員室の片隅、自分の机に腰を落ち着けたその姿は、すっかり倦んだ大人のそれだ。


「……まったく、リアクションがいちいち騒がしいクラスに配属されたもんだ」


資料を一枚めくってはため息。誰に聞かせるでもない独り言がこぼれる。


「校長はあの連中の中から、どうやって次の“大将”を育てるつもりなんだか……」


そのときだった。


「ん? なんか呼んだかね?」


横から不意に声がした。反射的に顔を上げると、そこに立っていたのはレナード校長だった。


「……いえ、呼んでません」


顔も動かさず、ミツシデは面倒くさげに答える。レナードはミツシデの机を覗き込むようにして、手元の資料に目をとめた。


「おや、それは……一年F組か?」


「はい。担当してるクラスの資料です」


「整理中かね?」


「ええ。次の任務まで少し時間があるので、ランキング順に並び替えてるところです」


資料の束を、机の上に放るように置きながら言ったミツシデ。その動作には、張りつめたものも熱もなかった。ただ日課をこなすように、淡々と。


レナードの声色が少しだけ鋭くなる。


「……で、今の段階で、『伸びる』と思っている生徒は?」


「うーん……まあ、いますけど」


「名前を聞いてもいいかね?」


ミツシデはあからさまに億劫そうな顔をして、それでも口を開く。


「リンユウ・リョウコ、リバーン・ショニト、ソユノ・マイ」


淡々と名前を挙げるその声に、私情はなかった。だが、校長は食い下がる。


「ほう。なぜその三人を?」


ミツシデは椅子の背にもたれて、視線を宙に投げた。


「リョウコは発明の才があるし、支援系の適性も高い。しかも、あのリンユウ家の長女。素材としては申し分ない」


レナードが静かにうなずく。


「ソユノ・マイは……星が有能。伸びしろもある」


「リバーンは?」


「勘です」


答えは即答だった。


レナードが笑う。くつくつと、喉の奥で転がるように。


「素直だねぇ」


「……校長の前ですから」


ミツシデは無感情な笑みを浮かべながら立ち上がり、席を離れようとした。だが、レナードが一歩踏み込む。


「最後に、一つだけ。なぜ、リョウコを捕縛班に?」


ミツシデの足が止まる。わずかに振り返り、答えを落とすように言った。


「サポート役が必要だったんです。ソラと同じ班に。……あの、首席合格者の」


「ソラ、か」


「はい。リョウコがいれば、多少のリスクは抑えられますから」


レナードは言葉を継がなかった。厳しい目でミツシデを見送る。


が、ミツシデはその視線に気づいているのかいないのか、ただ無言で職員室をあとにした。


 


教室に戻ると、そこは相変わらず騒がしかった。任務とは無縁の話題が飛び交い、まるで市場のように活気づいている。


「――はい。関係ない話はそこまで」


その一言で空気が一変した。喧噪が、さざ波のように引いていく。


ミツシデはため息ひとつ、教壇に立って口を開く。


「班ごとに自己紹介は済んでるはずだ。じゃあ、初任務の説明をする」


黒板に背を向ける。声は変わらず淡々としていた。


「調査班が街の情報を集める。その情報を元に捜索班が犯人の次の行動を探る。そして、捕縛班が先回りして捕らえる。……犯人は、黒いフードを被っているそうだ」


空気が冷え始める。生徒たちの顔に緊張が走った。


「質問は?」


誰も手を挙げない。沈黙。


「……よし。実行日は今週の土日。絶対に間違えるな。今日はここまで。明日は普通科の五教科だ。忘れるな」


それだけ言うと、資料もまとめずに教室を出ていった。足早に、未練も残さず。


 


数分後。


シュウトはスーツケースを引きずりながら、寮の廊下を歩いていた。手には部屋番号が書かれた紙切れ。


「……809、809……ここか」


木の扉に「809」の彫り込み。間違いない。ドアを開けると――中には先客がいた。


ソファにだらしなく座り、テレビを眺めている見知らぬ男。


(誰だ、こいつ)


一瞬、視線がぶつかりそうになる。シュウトが身構えると、男が口を開いた。


「おいおい、そんな警戒すんなって」


その声は挑発的で、軽い。だが、どこか油断のならない雰囲気をまとっていた。


「君は誰だ? ……この部屋、俺のはずだが」


男は首をかしげ、目を細める。


「ん? ああ……寮って、二人一部屋なんだよ? もしかして……入学式、寝てた?」


「……いや、寝てない」


即答。だが、目を逸らしたその動きはあまりに不自然だった。


男は噴き出す。


「絶対寝てただろ、それ!」


シュウトは苦笑しつつ、ソファの隣に腰を下ろした。


「君の名前は?」


「俺? ケニ・ホールド。ケニでいいよ。一応、同じF組」


ケニは飄々と笑う。だが、その目だけが鋭かった。


「F組だったのか。……知らなかった」


「まあ、班違えば会わないしね」


もう警戒は抜けていた。シュウトもリラックスし始める。


「ところで、寮どう思った? 高すぎじゃね?」


「ああ、確か200階まであるんだっけ」


「それな。学寮もA棟からZZZZ棟まであるし。規模おかしいだろ」


「……道理で迷ったわけだ」


鼻を鳴らすシュウトに、ケニがにやりと笑う。


「ここS棟、学校の真横だけど?」


「……マジで?」


自分に呆れるシュウト。だが、ケニは軽く流した。


「で、寮のルール聞いた? 三つだけなんだよ」


指を立てる。


「一、戦わない。二、ポイ捨て禁止。三、騒音禁止。これだけ」


「ずいぶん自由だな……」


「命賭けて任務こなす連中にまで窮屈強いたら、壊れちまうだろ?」


ケニはそう言うと、ソファに体を預け、あくび混じりに伸びをした。


「……明日は普通の授業……Zzz……」


そのまま静かに眠りはじめる。


「……寝たのかよ」


呆れつつ、シュウトは立ち上がる。部屋の奥を見回しながら、スーツケースを引いた。


(寝室は……どこだ?)


肩をすくめると、そのまま部屋の中を歩き出した。

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