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夢双物語  作者: Akrid
無印編
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第六話:新たな仲間と役割



一年F組の生徒たちは、声の方向に動き出し、体育館の隅に整列していく。空気が次第に引き締まっていった。


ミツシデは前に出ると、無表情のまま口を開いた。


「さて――お前ら一年F組の任務は、さっき言った通りだ。聖騎士団第二隊団長、モロイ・ガーナーを殺した犯人の捕縛だ」


ざわ……という音にならないざわめきが、列のあちこちで揺れた。


「今から、お前らを三つの班に分ける。捜索班二十八人、調査班十二人、捕縛班八人。……そして――」


言いかけたそのとき、小さく手を挙げる影があった。


「はぁ……ちょ、ちょっと待ってくれ……。なんで……はぁ……捜索班の人数が……こんなに……多いんだ……?」


声の主は、見るからにひ弱そうな男子生徒。細い体を震わせ、喉を詰まらせるようにしながら言葉をつなぐ。


ミツシデはその様子に一瞬だけ眉をしかめ、露骨にめんどくさそうな溜息をついた。


「ああ、それはな。捜索班が、一番安全な役割だからだ」


肩をすくめ、興味なさげに返す。


「これで納得したか? ……納得してないなら、このあと言うことをしっかり聞いとけ」


そう言って、視線を切る。男子生徒は目を伏せたまま、短くうなずいた。


「調査班は、街の人間から情報を引き出す。捜索班はその情報をもとに、次に犯人が現れそうな場所を絞る。捕縛班は、その場所に先回りして、犯人を確保する――」


ミツシデの声が、体育館の静寂を切り裂くように響いた。無駄のない口調。言葉に感情はないが、内容は十分に重い。


彼は手元のリストをペラリとめくり、生徒たちを一瞥する。


「今から、各自の配属班を読み上げる。ちゃんと聞けよ」


一気に空気が張り詰める。立ちすくむような沈黙が広がった。誰もが自分の番号を必死に思い出している。いや、確認している――まるで名前を失った兵士のように。


その中で、シュウトだけが、ぼんやりと空を見上げていた。


「まず、捜索班。四十二番、十五番、三十六番――」


そこで、一拍。


聞き慣れない形式に、生徒たちの顔に一斉に困惑が浮かんだ。


「……!?」


一瞬、音が消えたような感覚。番号。それだけ。名前の代わりに。


「なんだ?」


ミツシデが顔をしかめた。


「名前で呼んでほしかったのか? それは――めんどくさいからやらないぞ」


あっけらかんとしたその言葉に、誰も突っ込めなかった。呆れるより先に、気力が吸い取られていく。


「……各人、自分の教室に戻れ。役割分担が書かれた紙を渡す。それを見たら、班ごとに自己紹介をしておけ。……さ、戻れ戻れ」


ぞんざいに手を振る。まるでハエを追い払うみたいに。


その姿に、生徒たちはただ顔を見合わせた。誰も何も言わない。言えない。ただ、目の奥に溜め息だけが浮かんでいた。


「……ほんとにこの人が担任なのかよ……」


誰かのつぶやきが、ぽつりと洩れた。


でも、それに答える声はなかった。ただ、足音だけがだらだらと続いていく。空気の抜けたような行進で、生徒たちは体育館を後にし、教室へと戻っていった。

教室に戻った瞬間、生徒たちの目に飛び込んできたのは――悠々と椅子に腰かけ、盛大なあくびをかますミツシデの姿だった。


紙はすでに、すべての机の上に置かれている。


「……早っ」


誰かの小さな声が、教室の空気を震わせた。


驚きつつも、自分の席に座る生徒たち。机の上の紙を手に取り、視線を走らせる。それぞれの班が、くっきりと記されていた。


「さて――」


ミツシデの声が、妙に間延びしながら教室に響いた。


「自分の班を確認したら、捜索班は窓側。調査班は廊下側。捕縛班は真ん中に集まれ」


その一言を合図に、椅子が引かれる音、紙のこすれる音、ざわつきが一気に広がる。教室はまるで流体のようにゆっくりと分裂していった。


調査班の一角。椅子が寄せられ、自然と輪ができていく。次々と名前が名乗られ、空気が少しずつ柔らかくなっていく。


そして、シュウトに順番が回ってきた。


「……俺の名前はシュウト。好きなものは……ジュース。よろしく」


一拍の間のあと、元気な声が跳ねた。


「よろしく! シュウトくん!」


金髪のツインテールが、ぱっと視界に飛び込んでくる。眩しいほどの笑顔の女の子が、前のめりに身を乗り出していた。


「……君は?」


「あっ、ごめんごめん! 自己紹介がまだだったね!」


そのまま勢いよく手を挙げて、胸を張る。


「あたしの名前は、メイビー・Z・エイ! うちのクソ兄が五大将やってるの!」


「五大将ってなんだ?」


シュウトの問いに、別の声が割って入った。かすれた吐息混じりの声。


「五大将……ってのは……はぁ……この国の……最強の兵士たち……はぁ……のことだ……」


ゆっくりと振り返ると、黒髪の長髪をゆらした男子生徒が、呼吸を整えるようにして立っていた。


「あ、君……さっき体育館で質問してたよね?」


エイが目を見開いて訊ねる。


「そうだな……はぁ……俺の名前は……ベト・ジヨン……はぁ……よろしく……な……」


ベト・ジヨン。疲れたような声とは裏腹に、背筋だけはしっかりと伸びていた。


間が空く。


静けさに押されるように、シュウトが口を開いた。


「……息、だいじょうぶか?」


「いつも……こうなんだ……はぁ……」


それ以上でも以下でもない、淡々とした返事。


すると、ふいにやさしい声が後ろから落ちてきた。


「大丈夫ですか? 保健室、行きますか?」


振り向くと、茶色のくせ毛をぼさぼさに伸ばした少年が立っていた。目の奥は眠そうで、けれど声には不思議と力がある。


「うわ……またなんか増えた……」


エイが苦々しそうにつぶやく。


茶髪の少年はぴしっと敬礼し、声を張った。


「自分! ショニト・リバーンというっす!」


「……君、もしかして――入試試験、最下位の人?」


エイの問いに、リバーンは照れたように笑ってうなずいた。


「へへ……そうっす。お恥ずかしながら、最下位のリバーンってのは自分のことっす」


リバーン・ショニト。《物理》の属素持ち。どこか憎めない雰囲気と、不名誉な称号が妙に似合っている。


「君が最下位の……まぁいいわ、とりあえずベトを保健室に連れていって。苦しそうだし」


エイの言葉に、リバーンはすぐに反応した。


「了解っす!」


すっとベトの肩を支えると、そのまま教室を後にする。


「はぁ……助かる……」


ベトの声が遠ざかっていった。


しばしの沈黙のあと、エイが手を叩いた。


「さて! シュウトくん! と、その他のみなさんも自己紹介を続けましょうか!」


捜索班の自己紹介は、そんな風に再開された。


――一方その頃、調査班。


「まさか俺らが調査班だなんてなー」


ゴトウが椅子にふんぞり返る。ナオキは隣で、どこか所在なげにため息をついていた。


「お前さっきから、なんでそんなに落ち込んでるんだ?」


ゴトウが首を傾げる。


「……リョウコと同じ班じゃないから、だよ」


そのぶっきらぼうな答えに、ゴトウは言葉を失って目をそらした。


そこへ、二人の生徒が近づいてくる。


「やあ、君たちはまだ自己紹介していないよね?」


穏やかな笑顔を浮かべた男子生徒と、やや鋭い目つきの女子生徒。


ナオキは前者をじっと見て、すぐに口を開いた。


「……お前は確か、エイニン家の長男……エイニン・リーディー。そっちの女子は……」


「うちはソユノ・マイ! さっき自己紹介したんだけど、話聞いてなかったの?」


肩をすくめながらマイが言うと、ナオキは素直に頭を下げた。


「……すまん。聞いてなかった」


まだ落ち込みの余韻が残っているようだったが、言葉には真摯さがにじんでいた。


リーディー――将来のヒーローを志す少年。

マイ――どこか懐かしさを漂わせる少女。


そのマイが、ゴトウの顔を見てぱっと声を上げた。


「……あれ? ゴトウじゃん!? 最弱の一星って、あんたのこと!?」


「ああ……まぁ、そうだな」


ゴトウは苦笑しながら頷いた。


「まさか、あんたもこの学園に来てたんだ! これからもよろしくね!」


マイの笑顔はまっすぐだった。


そして、次の瞬間にはきびすを返して、にっこり。


「じゃあ、そこの二人も自己紹介お願いねっ!」


調査班の空気が、少しずつ、ほぐれていった。

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