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話すと長いから端折るけど、あたしにはチート能力がある。
異世界から持ち帰った究極の便利能力、“時戻し”。
10分だろうが10年だろうが好きなだけ時間を戻せるし、
歴史改変がどうとか、タイムパラドックスがどうとか関係無い。
この素敵な能力に何度命を救われたかわかんない。
今からそれ使って殺人事件の犯人を炙り出そうと思います。
なんか雪山のホテルに泊まったら男の人が殺されたんで、
これはもうあたしの出番かなって。
死体なら向こうの世界で何度も見てきたけど、やっぱ違うな〜。
あっちは殺伐とした世界だったから住民に戦う覚悟があったけど、
この平和ボケした国じゃ誰かが殺されたらそりゃ大騒ぎにもなる。
みんなキャーキャー喚いて、吐いちゃった人までいるんだもん。
死んじゃったのはスキー客の高田さん。
43歳のサラリーマンで、包丁で心臓を刺されたのが死因っぽい。
仰向けに倒れてて、争った形跡は無いから知り合いの犯行かも。
でも1人で来たみたいだから、知り合いなんているのかな?
とりあえずあたしは容疑者を集めて推理を発表してみた。
ちなみに容疑者はあたし以外の客とホテルの従業員、全員ね。
よく推理モノだと見た目の怪しい人物は犯人じゃなくて、
実は全然怪しくない人が真犯人だったりするけど、
あたしは敢えて一番怪しい人物を指差してこう言ってやった。
「岡崎さん、犯人はあなたですね?」
彼は常にサングラスとマスクをしてて、屋内でもずっとコートを着たままで
なんかもう、すごく怪しさMAXだったから疑われてもしょうがないよねぇ。
「いや、僕は犯人じゃないよ
包丁に血塗れの右手で握った跡が残ってるけど、
僕は昔、交通事故で右腕を失ってるんだ
サングラスのせいで怪しく思ったんだろうけど、
酷い傷跡を見られるのが嫌だから隠してるだけだよ」
あちゃー。推理失敗。
右手が無いんじゃ犯行不可能だよねぇ。
やっぱセオリー通り、怪しくない人が犯人だったか。
「時間よ、戻れ!!」
←←←
容疑者を集めたとこからやり直し。
今度は怪しくない人を……といきたいけど、どうしても気になる人がいる。
雪山のホテルだってのに、パンツ一丁でうろついてる覆面のマッチョマン。
もしかしたら営業か何かで来たプロレスラーかお笑い芸人なのかもだけど、
念のため声を掛けておくのが礼儀かなって。
「村瀬さん、犯人はあなたですね?」
「えっ、いやいや!
そりゃ怪しい格好してるけど、これは俺の仕事着なんだ!
俺は現役の覆面レスラーでありながらお笑い芸人でもあって、
ここへは営業のために来ただけなんだ!
凶器を使うのはリングの上だけだよ!」
あちゃー。またもや推理失敗。
でも半分は当たってた。
営業に来たプロレスラー且つお笑い芸人。
そっちが合っててもしょうがないよねぇ。
「時間よ、戻れ!!」
←←←
続いて矛先を向けたのは、いかにも平凡な主婦って感じの佐山さん。
こういう人が一番怪しいんだ。あたしの目は誤魔化せない。
どうやら町内会長と一緒に来たみたいで、おそらく不倫旅行だろう。
「佐山さん、犯人はあなたですね?」
「え、何よ急に失礼ね……
私が犯人なわけないでしょ
犯行時刻には自分の部屋にいたし、
どうせ殺すなら赤の他人じゃなくて夫を殺すわ」
あちゃー。3回連続で推理失敗。
これじゃ密室トリックじゃなくてハットトリックだよ。
しゃーない、切り替えていこう。
「時間よ、戻れ!!」
←←←
じゃあ町内会長ならどうだ。
「伊波さん、犯人はあなたですね?」
「なんて失礼な……
この私に赤の他人を殺害する動機があると思うか?
しかも包丁なんて物的証拠が残るやり方は馬鹿げてる
もし私が殺人を犯すなら毒を使うね
それも、誰でも容易に入手可能な成分のやつをね」
あちゃー。これもだめだったわ。
そっか、毒かあ。さすがは町のリーダー。計画的だなぁ。
「時間よ、戻れ!!」
←←←
その後も推理を披露してみたけど、なんと全員ハズレだった。
みんな犯人じゃないって言うし、被害者とは面識が無かった。
つまりこの場合、導き出される答えは1つ……
犯人はこの中にいない。
こりゃもうお手上げだわ。
外部による犯行じゃしょうがないよねぇ。
ま、あたしはやるべきことをやって、さっさと終わらせちゃいますか。
「皆さん、現場にある物に触れないでください!
あとは警察の人たちに任せましょう!」
「あ、ああ警察……」
「そうだな、それがいい」
「包丁に指紋が残ってるし、きっとすぐに犯人が見つかるわ」
「まったく、証拠を残すなんて馬鹿な奴だね」
こうしてあたしは警察に丸投げしたのだ。