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彼女  作者: チョイハチ
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きっと俺達は最終話

 


 理解したからと言って、全てが劇的に変わるわけじゃない。なんだったら意識した分遠くなる。

 動けなくなる。恋ってめんどくせぇ……


 ジーグが内に秘めた思いを隠しつつ、いや隠せてない? のかもしれない。友人にそろそろ辞めろと、何度も言われつつ、それでもジーグとマーリンの回復魔法取得の時間は続いた。

 

 そのころになると、周りはひやひやしていた。通常マーリンとザイトが復縁する期間は短くて十日。

 長くとも二か月。その最長の二か月だって、ザイトが修行の為隣国の同盟組織に行っていたから長かっただけで、平均すれば、だいたい一か月。


 なのに! それなのに!

 

 ……現在二人がわかれてから三ヶ月経過! 圧倒的長期間! しかも、そこにはジーグが絡んでる。そうなれば、学園中がひやひやするのは当たり前の話。



――


 ジーグは空気が読めない子じゃないので、全てわかっている。分かっているからこそ堂々としているのだ。スペイダーという組織。その跡取りと言う重責。ザイトの性根。


 全部わかっているから、胸を張ってマーリンと会っている。


 半端な組織のボンクラ跡取りが相手なら、ジーグはここまでできなかっただろう。


 ある意味で、ジーグはザイトを信用していた。

 ジーグが半端な事をしない限り、ジーグは絶対に安全だと……

 そしてその考えは合っていた。ザイトからジーグに対して何かあることはなかった。




 そんなある日、いつものように二人は練習をしていた。

 いつも通り、当たり前になった日常、ジーグはこの時間がたまらなく好きだった。

 

 だが、ジーグは一応師匠として言わなければならないことがあった。


「マーリンってぶっちゃけ回復魔法の適正ゼロかもね……」


「うげぇ、ついに言われてしまった。恐れていたその一言……ジーグあんたは私の心臓を抉ったよ……」


 そのころになると、二人はこんな軽口を言いあう中になっていた。

 それがまたジーグには居心地が良く、安心できる時間。


 そんな、幸せな時間。


 ジーグ達の終わりは、そんな幸せで軽い雰囲気から始まった。


 幸せとはいつの間にか始まって、ある時、一瞬で終わる……


 

「うん。だってもう四か月になるけど、全然ぱっとしないもん」

「ジーグが私をいじめだした。先生に言ってやる。魔術書一ページ複写させてやる。反省文も書かせてやる」

「子供みたいなこというなよ。まぁ、でもあきらめずに頑張ろう。もしかしたら、もしのもしかしたら、取得できるかもしれないし」

「子供みたいで悪かったですねぇ! どうせ私は脳筋前衛ですよ! 覚えられなかったら一生教えて貰うからね!」


 (一生って……)


 なんてことない一言ではあるが、一生こんな時間が続けばいい……そう思ってしまうのは仕方のない事だろう

 


「ほんとマーリンって大人びて見えるのに中身ガキだよな。マーリンの中身知ったらみんなビックリするだろうな。性格はお子ちゃまだってさ」

「はぁ? そんな事言って、いつも私の艶めかし体をジッと見て堪能してるくせに! もうサービスボディタッチしてやんないぞ!」

「なんだよそのサービスボディタッチって! 誤解されるような事いうなよ! 一回もそんなのしてくれたことないだろ!」

「んん? その言い方って、もしやもしや、ジーグ。私にサービスボディタッチして欲しかったのぉ? んん? どうなんだい? なんて――」

「そうだよ……」


 時間が経てばなんであの時あんなこと言ったんだろう? と、間違いなく思うだろ事を、なぜか口走ったジーグ。


「え?」

「だから、そうだって……」

 

 半ばヤケになりながら、止まらなくなってしまうジーグ。こんな現象きっと誰しも経験があることだろう。

 

「どうしたどうし――」

「手ぐらい握りたいって思ったっていいだろ」

「ジーグ……」


 ジーグの位置からでは、マーリンの顔が逆光で見えなかった。いや……仮に見えたとしてもジーグはマーリンの表情を確認することはできなかったかもしれない。

 ここまで言ったのに、突っ走ってきたのに、それ以上は動けない。

 情けなくも見えるが、突然ビビってしまうのは不自然な事ではないだろう。


 言ったジーグもどうしていいかわからなくなってきて、次の言葉を探していた。

 探していたが、マーリンから次の言葉があっても嬉しいし、なんだったら、マジでサービスボディタッチがあってもいいけど……なんて思考があっちに行っては、戻ってきて、自分を素通りする。そんな滅茶苦茶な時間が過ぎた。


 (マジでそろそろ落としどころを……いや、こうなったら最後まで言ってしまうか?)


 ジーグの中で、全てが絡み合って、結ばれ、ほどけて、解に達した。

 だけど、その後もとめどなく思考は沸き上がる……


 (フラれたら? またあの地獄を味わうのか? それでもそれも次の恋までの準備期間なのか?)


 (オッケ―だったら? ザイト? いや、んなこたぁどうでもいい。これは俺とマーリンの問題だ)

 

 (よしっ……)


 ジーグは即決した。思考の中ではグダグダと言い訳や色んな事を考えたが、実際の時間は数秒程度。

  

 それは誰しも経験があるだろう。一瞬で閃き様々な考えが浮かぶあの瞬間だ。


 そんな時間を経て、ジーグは口を開く――


「はい……」「えっ」


 人生とは面白い。自分が行動を決めたからと言って、その通り動けるわけではない。先に口をひらいたのはマーリン。相手も……マーリンもジーグと同じ数秒の時間があった。どんな数秒を過ごしたかはわからないが、マーリンにも同じだけの時間があったのだ。


 だから、マーリンもマーリンの答えをだして行動に移した。

 それがジーグより、数瞬早かっただけ。


 それが現状――



 抱きしめてるとは言えない。だけど、軽いハグとも言えない。

 触れているけど、目を閉じると、本当に触れているのかわからなくなる。

 二人が今どれだけ近いかわからなくなった。

 現実が夢かもわからなくなった。

 


 だけど、マーリンは確実にジーグを包み込んでいる。ジーグは女性をここまで身近に感じたことはない。自身の手をどうしていいかもわからなくなった。

 今回は本気の本気で思考停止。ただただ、動けなかった。

 

 鼻を通して、マーリンの優しい柑橘系の匂いが暴力的なほどジーグの脳を揺さぶった。


 マーリンの柔らかい体が、ほんの少しだけ触れる、マーリンの腕の柔らかさがジーグの理性をぶっ飛ばす。


 このまま強く抱きしめたい! 強く強く! 誰にも触れさせてくない!


 と。


 ジーグは数瞬でマーリンの全てが欲しくなった。圧倒的なまでの独占欲。今まで感じたことのない負にちかい感情。少し自己嫌悪になるが、そんなものはすぐに吹き飛んだ。


 そんなことよりもマーリンが欲しい。

 

 それが全て。マーリンいればいい。


 だがそれはまだジーグが感じたことがないだけで、深く人を愛してしまえば当たり前のように感じる負ではない感情。ただの愛の一つの形に過ぎない。



 暴走状態に近いジーグがそっと手を後ろに伸ばそうとした時。またしてもマーリンが動いた。

 何度も言うが、ジーグと同じようにマーリンにも同じ時間が流れているのだ……良い悪い関係なく……



「はぁーい……ここまでねぇ……」


 少し意地悪っぽく、気恥ずかしそうにそう言う。ジーグはまたしてもマーリンの顔を見る事ができなかった。だけどこの四か月ずっと一緒にいたジーグはわかっていた。これはいつものマーリンではない、と。

 なにが違うかわからないが、だけど違う。ジーグにそれが理解できた。


 それに声だけではない。ジーグの元を離れていたと思っていた手は――


 手は……


 その柔らかく、ちょっと小さくて、子供っぽく見える優しい手。愛しい手。




 その手は、今ジーグの手と繋がっていた……



 またもやジーグの中に暴力的なまでの幸福感がやってきた。人は好きな人と手をつなげるだけで、ここまで幸せになれる……

 

 そんな絶頂。


 気付けはジーグは告白の事をわすれていた。自分が何をしようとしていたかを忘れてしまう程、濃密で最高の時間だった。

 

「うー……ジーグが急に手を握ってきて……なかなか離してくれない」

「あっ……」

 

 そう言われると反射的に手を放してしまうもの。

 

(? だけど、マーリンから手を握ってくれたよな? あれ? 違ったっけ?)


 幸せ過ぎて、記憶がおぼろげになっているジーグ。


 マーリンは、少しはにかむようにいつもの笑顔を見せた。


 それは今までで一番の笑顔だった。そこらの一般人が見たら一瞬で恋に落ちてしまう程眩しく。優しいもの……


 だけど、ジーグは思った。


(え? マーリン?)


(なにか違う……俺の好きなあの笑顔と……)



 ジーグの疑問をよそに結局マーリンは、そのあとバイバイと、一言言って帰って行った。

 そして休みを挟んだあくる日――



 マーリンは、転校していた――

 

 ザイトと共に――




「おいジーグ聞いたか?」

 友人はとても心配そうにジーグを見つめ、そう聞いてきた。


「ん? あぁなんとなくな」

 

 事の顛末はシンプル。

 スペイダーが本拠地を王都に移した。

 それに従ってザイトも転校。

 真偽のほどは不明だが、マーリンもまた王都に転校したらしい。

  

 たまたま、時期が被ったのか、マーリンが着いていったのかそれは誰もわからなかった。


「なんとなくって……お前大丈夫か?」

「あぁ、大丈夫だろ……なんとなくわかってたから……」


 これはつよがりではない。

 あの日のマーリンの笑顔はいつも通りではなかった。


 ジーグにはそれが意味することはわからなかったが、それでもマーリンになにかあるのは理解できた。


 学校で、マーリンが転校したと聞いた時、腑に落ちた。特に疑問に思わなかった。


 あれはそういう顔だったのだ。と。



 あの時、俺が変な事を言わなかったら、マーリンは淡々と別れの言葉を切り出したのかもしれない。

 

 なにも言わずいなくなったかもしれない。


 それとも、あの時のマーリンはなにも知らなかったのかも……いや、悩んでいたのかも……


 俺の方が先に動いていたら? 告白したら? マーリンは? 俺を選んでくれたか? 


 ザイトを選んだのか? 一緒に王都に行ったのか? いや、だけどそれは噂であって……


(こんな事考えても意味ないか……これが……この現状が――)



 ”答え”

 

 


 それ以上は自分で口に出せなかった。




 だって、あの最後の時間は間違いなく、絶対に、


 俺たちは結ばれていたはずだから。



「なぁ友人」

「おい、俺の名前は友人じゃなくて――」


「恋ってクッソ楽しいのに、クッソつれーなぁ。早く最後の恋を見つけてぇ」

「おいおい、俺たちの青春はまだ始まったばかりだぞ? 最後の恋は流石に早くない?」



 ジーグは泣きそうなのか、カッコつけているのか、余裕ぶってるのか、諦観しているのか、そんな、絶妙な表情で小さくつぶやいた。


 誰にも聞こえないけど、遠く離れた彼女にだけは届いたかもしれない、小さな小さな声――



「バイバイ……マーリン……」




 失恋は次の恋までの助走期間? 準備期間?

 



 ジーグはまだなにもわからないが、ジーグはきっとまた恋をする




 最後の恋を見つけるその日まで










一話でまとめるつもりでしたが、なんか多くなってしまったので二話にわけました。



「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひ感想、ブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!していただけると自分でもビックリするくらいモチベーションが上がります! 


ちなみにですが、コメントなどを初めて貰った時は、飛び跳ねる程嬉しかったです。


ぜひよろしくお願いします!



本日十九時過ぎに新作を連載スタートします、応援お願いします。絶対に完結するので安心してご覧ください。

主人公がブリっ子に一目惚れしてドタバタするラブコメです。

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