きっと俺達は一話
「ジーグ君って回復魔法も使えるの?」
「ん?」
「あ、急にごめんね。わたしマーリン」
「うん、クラスメイトだし知ってるよ」
「そっか、よかった」
ちょっとしたかすり傷を回復魔法で治していたジーグ。
すでに出会っていた二人だが、こうして二人は出会った。
――
「ジーグ、ごめんね……別れて欲しい」
「そんな! なんで?! 俺達うまくいってたじゃないか?!」
「好きな人ができたの……」
ジーグの初恋が実って二か月。
その間のジーグは幸せの絶頂にあった。ジーグの両親は息子のテンションに引いていたし、友人も浮かれすぎるジーグを生暖かい目で見ていた。
だが! そんなの関係ねぇ! とばかりにジーグはその絶頂を味わい続けていた。
全てが最高だった。朝の挨拶、たまに食べるランチ。たまに一緒に帰る放課後。デート。
ジーグは幸せだった
だけど、幸せとはいつの間にか始まって、ある時、一瞬で終わる。
ジーグは若くしてそれに気付いた。
十七歳で初恋の成就と失恋、酸いも甘いも経験した男の名前はジーグ。
魔法学園アーソに通う人族。
普通に勉強し遊び、恋をする、ただの男の子。
勉強は普通、魔法上級、剣技中の上、顔の方はどうだろうか? 好みはそれぞれだが、顔面偏差値なるものを測れるなら間違いなく上位。実際月一ペースでは告白される程度にはモテる。だが初恋の娘がいたからずっと断ってた。ジーグはこの年にしては純情なほど彼女を……元彼女を愛していたのだ……
「おい、ジーグいつまで凹んでんだよ。お前がフラレてからもう一ヶ月以上経つぞ?」
「うるせぇなぁ……傷口を抉ってくるなよ、俺があいつの事どんだけ好きだったか知ってんだろ」
「知ってるけどよぉ。でももうあいつ別の奴と……」「おい! それ以上言うなよ? 俺の火炎魔法が爆裂するぞ?」
「へいへい……」
失恋のショックから全く抜け出せずにいたジーグ。まぁ普通の人なら心底惚れた人にフラれてすぐ立ち直ることなど無理だろう……
そんな時出会った……いや、元からクラスメイトではある……まぁ何はともあれ出会ったのがマーリンだ。
実技の授業でかすり傷ができたジーグは、回復魔法を使い、自身の傷を治していた。
僧侶以外で回復魔法が使える人間はまぁまぁ稀で、使えるとそれなりにびっくりされる。
傷を治し終え、教室に戻ろうとしたとき、ジーグはマーリンと初めて会話交わした。
「ジーグ君って回復魔法も使えるの?」
「ん?」
「あ、急にごめんね。わたしマーリン」
「うん、クラスメイトだし知ってるよ」
「そっか、よかった」
「俺は前衛よりの中衛なんだけど、回復魔法が使えると生存率が爆発的にあがるからね。必死こいて覚えたんだ」
「ほぇーすごいね、確かに前衛の人が少しでも回復魔法使えたらかなり心強いよね」
マーリンはそう言うと、ジーグの横に座った。その距離感は、元彼女とデートの時に座った距離より近かった。
「ねぇねぇジーグ君、私にもできるかな? やり方教えてよ」
マーリンの笑顔はカワイイ大抵の男子ならそう感じるだろう。
少し丸みを帯びた顔を最高の表情で彩り笑う。
ジーグは心の中で思った。
(もし、マーリンと最初に出会っていたら好きになっていたかもしれない)
そう思ってしまうだけの魅力があった。
「ちょっときついけど毎日練習すれば、三ヶ月位で使えるようになるかもしれないかな?」
「ほんとに? じゃあそれまでジーグ君が面倒見て! 報酬はそうだなぁ……週一回ランチをごちそうする! どうかな?」
「いいよ」
通常であれば、その対価では見合っていない。だがジーグは何の気なしに了承した。なにかしていないと……失恋の傷が辛すぎて
とにかく、一人でいるのが嫌だったのかもしれない。
――
「マーリンさん、こうした方がいいよ?」
「うげぇーむずかしぃ」
あれからジーグは、休み時間やヒマな時にマーリンさんと一緒に過ごすようになった。
マーリンは、あまり友人がいない……特に男子でマーリンと一緒に居る奴など見ることはない。
マーリンが自身の机に戻っていくと、隣で黙っていた友人が小さな声で話しかけてくる。
「おいおい、ジーグ! 元気になって来たのはいいがマーリンさんはないだろうマーリンさんはよぉ」
「なんでだよ」
ジーグはあえてとぼけてみせた
「本気で言ってんのか? マーリンさんはこの国一番の闇”スペイター”の跡取り、ザイトさんの彼女だぞ? 世界最高峰の冒険者、序列三十位に入る猛者だって滅多な事じゃスペイダーには手を出さない、そんな組織の跡取りの彼女さんだぞ?」
それは誰でも知っている純然たる事実。
そんな事知らないでこの学園で……いや、この国で生きていく事はできない。
ジーグはそこそこ強い。だが冒険者序列三十位なんて夢のまた夢。まさに人外の世界。そんな序列三十位に位置する超人だろうがスペイダーとは無駄に闘いたくないと思っている、そんなクソやばい組織の跡取りザイト。学生でありながらすでに序列二十位と同等の力を持っていると言われるほどの逸材。はっきり言って化け物。その元彼女のマーリン。
余程のイカレポンチでもマーリンさんにちょっかいだす奴はいない。
だけど……
「だけど、マーリンさんってザイトさんともう別れたんだろ?」
これも、この学園で生きていくなら誰もが入手する情報だ。
「はぁーお前それ、本気で言ってるのか?」
これまた、当たり前のように怒る友人。もちろんジーグもなぜ友人がキレているか、そんなことは分かっている
「あの二人が別れて戻ってを何回繰り返していると思ってんだよ? 別れるなんていつもの行事みたいなもんだろ?」
そう、あの二人はジーグ&元彼女とは違って、別れては戻り別れては戻りを何回も繰り返している。
「だけど、今は別れてるんだし、俺がマーリンさんと仲良くしたって問題ないだろ?」
スペイダーは闇の組織ではあるが、腐った組織ではない。なんだったら、非合法な手段を使い、非合法な組織を刈っている組織。堅気には手を出さず。淡々とクズたちを粛清している。
だからこそ、裏の人間には恐れられているし、表の人間だって畏怖の念を抱いている。
ザイトも同様、裏切りは絶対に許さないが、寛容な人らしい。当然慕っている人間も多い。
マーリンは浮気はしなかったが、浮気しようなもんなら大変な事になっていただろう。まぁそれでもザイトが手を上げることはないが。
「そうだけど、さすがによぉ」
「なら、いいじゃねぇか。俺がマーリンさんと仲良くしたって、付き合ったってザイトさんには関係ないだろ」
「おい! それはさすがに言いすぎだぞ!」
友人の心配は当然の事。ジーグも少し意固地になっていた。
「とにかく心配は嬉しいけど、俺は大丈夫だよ」
「……」
まったく納得していない友人だったが、もう何を言っても無駄だと思い、手をひらひらとさせながらトイレに行くと言っていなくなってしまった。
すると、少しの間をおいて、またもやマーリンがやってきた。何かを察していたのだろう。マーリンのいつもの笑顔が少し曇っているように見えた。ジーグはその時無意識に思った
(……いつもの笑顔を見せてくれ……)
と
「……もし迷惑だったら言ってね?」
「なにが?」
「だってわたし……」「あぁ、マーリンさんが予想以上に覚えが悪くて、もしかしたら四ヶ月以上かかりそうなこと? いいよ別に、だってその間俺は週一無料でランチ食べられるしね? このままごゆっくりしていってください」
「……ジーグ君ってけっこういじわるなんだねぇ」
「今頃気付いた? 俺は腹黒の、どケチ野郎だから、無料ランチ大歓迎なんだよ」
二人は笑い合った。元彼女と別れてから初めて心から笑った
(……恋を忘れるには恋かぁ)
それはジーグをいつも心配してくれる友人が、ジーグを慰める為に言った言葉であった。
ある意味では不変の真理とも言える
――
ジーグの心境は明らかに変化していた。
マーリンが来るのを待つようになり、元彼女を探す時間が減っていった。
マーリンの事を考えるようになり、元彼女を思い出す時間が減った。
元彼女を一日思い出す事無く、マーリンと楽しく過ごすようになっていた。
遂には数日……一週間……十日……
元彼女が横を通り過ぎても……
どんどん、ジーグの頭の中から消えていく初恋。
あんなに恋焦がれたのに、劣化していく思い。
(あれ? 最後に元彼女の事考えたのいつだ……)
「ははは」
ジーグは自宅で一人、夜空を彩る星たちを眺めながら、乾いた声で笑った。
その笑い声には様々な感情が宿っていた事だろう……
だから……
気付いただろう……
ジーグは今……
この感情の名は……
(そんなの知ってる)
「はぁー忘れるのに何年もかかると思ってたのになぁ。あっけないもんだな」
一話でまとめるつもりでしたが、なんか多くなってしまったので二話にわけました。
最終話、二話目は一時間後位に上げます。
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひ感想、ブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!していただけると自分でもビックリするくらいモチベーションが上がります!
ちなみにですが、コメントなどを初めて貰った時は、飛び跳ねる程嬉しかったです
ぜひよろしくお願いします!
本日十九時過ぎに新作を連載スタートします、応援お願いします。絶対に完結するので安心してご覧ください。
主人公がブリっ子に一目惚れしてドタバタするラブコメです。
実体験を基に書いてます(笑)
絶対に当事者にはわからない程、いじってますけど。
是非、本作の左上の作者名”チョイハチ”をタップして下さい。本日の十九時以降の作品欄に新しい作品が載ってるはずなので読んでみてください。
お待ちしております。