82 私たちの関係
廃工場を出発したハルたちは、薫の研究所に向かっていた。
車に揺られ、約一時間で研究所に着いた。
研究所の前では、薫が帰りを待っていた。
車から降りたハルは、薫との再会に喜んだ。
「薫さん、お久しぶりです!」
「おぉっ、ハルさんお帰り。皆も無事だったようだね」
「はい、本当に助かりました」
ハルがお礼を言うと、薫は優しく微笑む。
そして、研究員たちに指示を始めた。
「怪我人や捕まっていた人は、今すぐ病院へ!」
「了解しました!」
「手の空いた者から、通常の業務に戻るように!」
的確な薫の指示に、研究員たちは素早く動いた。
それを見届けて、薫はハルたちに振り向く。
「君たちも疲れただろ。今日はここで休みなさい」
「ありがとうございます!」
「じゃぁ、早く部屋に行こうぜ」
「こら、マサはこっちだろ」
マサは、ハルたちと中に入ろうとした。
だが、あかりに腕を引っ張られ、危うくコケそうになる。
「おい、急に引っ張るんじゃねぇよ!」
「あぁ、すまない。だが、あんたは病院の方に行くべきだ」
「こんなの、大したことねぇよ」
「つべこべ言わずに、さっさと来い!」
「まっ、待て、俺はハルと一緒にいるんだーっ!」
あかりに引っ張られたマサは、必死に叫んだ。
しかし、あかりはお構いなしに連行していく。
それを見ていたハルたちは、ぽかんとしていた。
それから中に入り、ハルたちは廊下を歩いていく。
「あかりさん、すごかったね……」
「マサ殿の意見は、完全に無視でござったな」
「あっ、ユキ君、いたいた!」
「アキナ殿、どうされたので?」
「ちょっと人手が足りないの。すみませんハルさん、ユキ君借りていいですか?」
「いいけど、私たちも手伝おうか?」
「いえ、ユキ君だけで大丈夫です。ハルさんたちは、部屋で休んでください」
「あっ、うん……」
「じゃぁ、ユキ君行きましょう!」
「承知!」
そして、ユキはアキナに手を引かれ、廊下を走っていく。
やがて、二人は角を曲がっていった。
「なんだか、慌ただしいですね」
微笑んだユミは、何気なくハルの顔を見た。
だが、ハルの顔は、とても寂しげだった。
「ハルさん?」
「あっ、ごめん……」
「……どうかされたんですか?」
「うん……なんだか、私がいない間に、皆の関係が変わっちゃったなぁと思っただけ」
「そうか? あまり変わっていないと思うんだが。なぁ、レン」
イグに聞かれ、レンは頷いた。
しかし、すぐ考えるようにあごに手を当てる。
「だが、ハルがそう思うのも、無理はないよ」
「はい……やっぱり、一年は長いですよね」
「でも、ハルさんがいなくなったのは、あの空間のせいで……」
「そうだとしても、マサやユキのそばにいたのは、彼女たちだよ」
そう答えると、ハルは足早に歩きだす。
その背中を、ユミたちは見つめることしかできなかった。
「ハルさん……」
「お嬢、なんだか辛そうだったな」
イグは少し困り、頭をかいた。
そして、ユミに視線を向ける。
そのユミは、拳を握り、俯いていた。
「ハルさんが辛いのに、なにもできないなんて……」
「ユミ、今はそっとしておいた方がいい」
「でも……」
「それも優しさだと、俺は思う」
「そうですね……」
俯くユミの頭を、イグは優しく叩いた。
「大丈夫だ。お嬢には、まだ俺たちがいるんだからな」
ユミは顔を上げ、イグの励ましがうれしくなり微笑んだ。
「はい!」
そして、三人はハルを追いかけたのだった。
★★★
数時間後、目が覚めたハルは、驚きのあまり固まっていた。
なぜなら、マサが寝息をたてて眠っていたからである。
「なっ……なんでマサが、私の布団に入っているの?」
動揺したハルは、起こさないように小さく呟く。
そして、必死に考えた。
「今朝、マサは怪我をしていたから、病院に連れていかれたはず……」
やがて、ハルはひとつの答えに辿り着く。
「……抜け出したのね」
ハルはため息をつき、反対側に首を動かす。
そして、また固まった。
「ゆっ……ユミちゃんまで私の布団に?」
反対側では、ユミも寝息をたてて眠っていた。
そして、ハルは手を動かせないことに気づく。
理由は簡単である。
二人ともハルの指に、自分の指を絡ませていたのだ。
「はぁ……これじゃ動けないなぁ……」
ハルは小さくため息をつきながら、数時間前のことを思いだす。
「確か、部屋に着いて寝る位置を決めて、私の隣はレンさんだったはず……」
そしてハルは、動かせる範囲で周りを確認した。
マサは壁ギリギリで寝ており、ユミの隣には、イグが寝ていた。
つまり、どこにもレンの姿はなかったのである。
「レンさん、一体どこに……」
ハルは心配になったが、また睡魔がおそってきた。
「ヤバい……また眠気が……」
だが、その眠気は、廊下に響く足音により、吹き飛ぶのだった。




